向こうでは、いくらで売ってる?
翌朝、俺たちはリーネを出た。
行きと違って、今度は二人ともラグナへ向かう目的がはっきりしている。紙にはリーネで見つけた候補と値段が書いてあり、あとは向こうと比べるだけだ。
……比べるだけなのに、まだ何も買っていないのが少し寂しい。
「その紙、何回見るんだよ」
「別にいいだろ」
「さっきから同じところ見てるぞ」
「忘れないように確認してる」
「書いてあるんだから忘れても平気だろ」
正論だった。
紙を畳んで鞄にしまう。
◇ ◇ ◇
ラグナへ着いた翌日、さっそく市場へ向かった。
最初に確認したのは、木製の保存容器だった。
「……ほとんど変わらないな」
「だね」
店を二軒見て、値段を確認する。
リーネより少し高い。ただ、その差だけで運ぶには小さすぎる。
「これはなし?」
「俺ならやらない」
「俺も」
紙に線を引く。
一つ目、消えた。
次は小さな籠。
これは店によって値段に差があったけど、安い店ならリーネとほぼ同じだった。
「これもなしだな」
「だね」
二つ目も消える。
「どんどん減るな」
「そのために調べてるんだろ」
「分かってるけどさ」
リーネでは、どれも少し期待していた。
町が違えば値段も違う。だったら安い町で買って、高い町で売ればいい。
言葉にすると簡単なのに、実際にはそこまで都合よく差がついている物ばかりじゃないらしい。
◇ ◇ ◇
「次、整理箱」
「これは覚えてる」
「高かった?」
「たぶん」
「また、たぶんか」
「だから今から見るんだよ」
以前カイルが働いていた店とは別の店を何軒か回る。
同じ物はなかったけど、似た大きさと作りの物はいくつか見つかった。
「……こっちは高いね」
「だろ?」
「でも作りも少し違わない?」
「そこなんだよな」
ラグナで売られている物は、リーネの物より少し大きかったり、木が厚かったりする。
単純に値段だけ比べていいのか分からない。
「一回持ってきてみる?」
「何個?」
「三個くらい」
「一個でよくない?」
「一個だけ売れても分からなくない?」
「三個余ったら?」
「俺が使う」
「それ、共同の金で買う理由になってないぞ」
「じゃあ二個」
「なんで交渉になってるんだよ」
結局、整理箱は候補に残した。
ただし、仕入れるなら少量。
その横にカイルがしっかり書き足している。
◇ ◇ ◇
最後は布だった。
カイルが一番自信を持っていた物だ。
市場の布を扱う店へ入り、リーネで見た物に近い厚さと織り方の物を探す。
「これじゃない?」
「近いな」
値段を確認する。
俺とカイルは顔を見合わせた。
「リーネの方が安い」
「うん」
「結構違うよね?」
「違う」
「じゃあ――」
「もう一軒」
「まだ見るの?」
「見る」
少し離れた店へ行く。
そこでも確認する。
さらにもう一軒。
「……やっぱり高い」
「だな」
「今度こそいい?」
「何が?」
「買っていい?」
「今ここラグナだぞ」
「そうだった」
買うならリーネだ。
危ない。
勢いだけで何かを買うところだった。
「お前、ほんとに十五歳になった?」
「なったよ」
「成人したんだよな?」
「したよ!」
成人したら衝動買いが治るなんて聞いてない。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
宿で紙を広げると、リーネから持ってくる候補は二つまで減っていた。
整理箱と布。
「最初なら、布かな」
カイルが言った。
「俺もそう思う」
「整理箱はかさばるし」
「ああ」
馬車に載せられる量にも限りがある。
箱をいくつも運べば、それだけ場所を取る。布なら畳めるし、同じ量でも運びやすい。
値段の差だけじゃない。
運びやすさまで考えないといけない。
「じゃあ、布で決まり?」
「まだ売れるかは分からないけどな」
「でも試す?」
「少量なら」
「よし」
ようやく一つ決まった。
次にリーネへ戻ったら、布を仕入れる。
それをラグナへ持ってきて売ってみる。
ただ、問題が一つある。
「帰り、空っぽだね」
「だから今度はこっちで探す」
カイルが紙を裏返した。
今度は、ラグナからリーネへ持っていく物。
「俺、こっちなら結構分かるぞ」
「頼もしいね」
「店でずっと見てきたからな」
「じゃあ俺、欲しい物探していい?」
「商売の物を探せ」
「同時にできるよ」
「できないから言ってる」
できると思う。
たぶん。
翌日からは、ラグナ側の商品探し。
今度はカイルにとって見慣れた町で、俺にとってはまだ知らない物の多い町だ。
役割が、ちょうど逆になる。
さて。
何をリーネへ持って帰ろうか。




