リーネから、何を持っていく?
成人してから数日後。
今度はベルクの馬車を待たず、俺は自分でラグナへ向かうことにした。
目的はカイルを迎えに行くこと。最初の商売を始める前に、まずはカイルにリーネを見てもらうと決めていた。
「本当に一人で来たんだな」
中古道具屋へ顔を出すと、カイルは開口一番そんなことを言った。
「成人したからね」
「別に十五歳になったら馬車の扱いが上手くなるわけじゃないだろ」
「乗ってただけだよ」
「じゃあ何を自慢してるんだよ」
自慢したかったわけじゃない。
ただ、今までベルクの予定に合わせて来ていた町へ、自分の予定で来た。それだけでも少し違う気分だった。
◇ ◇ ◇
翌朝、俺たちはラグナを出た。
荷物は最低限。今回はラグナで仕入れをしていないので、持っているのは着替えや旅に必要な物くらいだ。
「本当に何も買わなくてよかったの?」
「今回はリーネを見るのが先だろ」
「一個くらいなら売れそうなのあったけど」
「誰に?」
「……ダリオさんとか?」
「いくらで?」
「もういいよ」
始まる前からこれである。
でも、カイルの言っていることは正しい。
今回はまず、リーネからラグナへ持っていけそうな物を探す。そのあとラグナへ戻るときに、反対向きの商品を仕入れる。
行きと帰り。
両方で商品を運べれば、何も持たずに移動するよりはいい。
もちろん、本当に売れる物が見つかればの話だけど。
◇ ◇ ◇
「ここがリーネか」
町へ入ると、カイルが周囲を見回した。
「どう?」
「普通」
「初めて来た町への感想がそれ?」
「ラグナより小さい」
「それは俺も最初にラグナ行ったとき思った」
「人も少ないな」
「悪かったな」
「悪いとは言ってないだろ」
自分の町を小さいと言われると、なぜか少しだけ悔しい。
別に俺が作った町じゃないけど。
「まず宿?」
「いや、うち行こう」
「え?」
「父さんと母さんが会いたいって言ってたじゃん」
「今日?」
「今日」
「先に言えよ!」
「前に言ったよ?」
「いつ行くか聞いてない!」
珍しくカイルが焦っている。
これはちょっと面白い。
「大丈夫だって。飯食うだけだから」
「それが嫌なんじゃなくて、心の準備の話してるんだよ」
「普通にしてればいいよ」
「お前に言われると不安なんだけど」
失礼な。
◇ ◇ ◇
家へ連れていくと、母さんは思った以上に普通にカイルを迎えた。
「いらっしゃい。カイル君ね」
「は、はい。初めまして」
「そんなに緊張しなくて大丈夫よ」
「ほら」
「お前は黙ってろ」
小声で怒られた。
父さんも仕事を切り上げて戻ってきていて、カイルにいくつか質問した。どこで働いているのか、どんな仕事をしてきたのか、成人した後どうしたいのか。
面接みたいになったらどうしようかと思ったけど、父さんもそこまで細かく聞くつもりはなかったらしい。
「レインが変なこと始めたら止めてやってくれ」
最後にそう言った。
「努力します」
「そこは止めるって言ってよ」
「内容によるだろ」
「そうだな」
「父さんまで!」
二人が妙に意気投合している。
俺の家なのに、立場が弱い。
◇ ◇ ◇
翌日。
ここからが本番だった。
「じゃあ、何から見る?」
朝からカイルと町へ出る。
「市場」
「やっぱり?」
「まず値段見たい」
俺にとっては、何度も歩いた市場だ。
食べ物、日用品、簡単な道具。見慣れた店が並んでいて、特に珍しい物はない。
でも、カイルは何度も足を止めた。
「これ、いつもこの値段?」
「たぶん」
「たぶんじゃ困る」
「俺、全部の値段覚えてるわけじゃないよ」
「じゃあ聞こう」
店の人に話を聞く。
次の店でも聞く。
少し離れた店でも、似た物の値段を見る。
「結構ちゃんと見るんだね」
「一軒だけじゃ分からないだろ」
「前にも言ってたな、それ」
「お前がやらないから何回も言うんだよ」
俺なら、気になる物を見つけた時点で「これラグナで売れるかな」と考え始める。
カイルはその前に、この町でいくらなのかを確認する。
やっぱり、見ているところが少し違う。
◇ ◇ ◇
「これ、ラグナだとあんまり見ない」
カイルが足を止めた。
「どれ?」
「これ」
指したのは、俺にとっては珍しくもない品物だった。
「え、これ?」
「うん」
「普通にあるよ?」
「リーネにはな」
そう言われて、ようやく意味が分かった。
俺はラグナへ行くと、ラグナにしかなさそうな物ばかり探していた。
でも逆なら。
リーネで見慣れている物ほど、俺は気づきにくい。
「これ、ラグナで売れると思う?」
「まだ分からない」
「やっぱり?」
「値段と、向こうで似た物がいくらか調べる」
「じゃあ候補?」
「候補」
紙を取り出して、名前と値段を書く。
一つ目。
まだ買わない。
市場を歩いていると、二つ目も見つかった。
その次は、俺が気づいた。
「これもラグナであんまり見なくない?」
「あるよ」
「あるの?」
「普通にある」
「……そっか」
「しかも向こうの方が安い」
「危なっ」
知らなかったら買っていたかもしれない。
「お前、今買おうとしただろ」
「してないよ」
「顔がしてた」
「してないって」
たぶん。
◇ ◇ ◇
昼を過ぎる頃には、紙にいくつか候補が並んでいた。
まだ一つも買っていない。
でも、俺一人で市場を歩いていたときとは違う物が見えている。
「リーネって、意外とあるな」
「何が?」
「売れそうな物」
「だろ?」
なぜか俺が得意になる。
「お前、気づいてなかったじゃん」
「俺の町だから」
「関係ないだろ」
「あるよ」
「ないよ」
言い合いながら、次の通りへ向かう。
今日中に買う必要はない。
まず候補を出す。
ラグナでの値段を思い出せる物は比べて、分からない物は次に確認する。
それから仕入れる。
一人だったら、たぶんもう何か買っていた。
でも二人だと、少しだけ順番が変わる。
見つける。
調べる。
それから買う。
「……商売っぽいな」
「今まで何してたんだよ」
「商売」
「じゃあ今さら言うなよ」
カイルが呆れる。
俺は笑いながら、紙にもう一つ候補を書き足した。
二人で始める最初の商売。
まだ売上は0リル。
それどころか、商品すら決まっていない。
でも。
今度はちゃんと、買う前から始まっていた。




