十五歳になりました
それからの日々は、思っていたより早く過ぎていった。
リーネにいる間は、今までの商売を確認しながら、ラグナへ持っていけそうな物を探す。ラグナへ行けばカイルと話し合い、今度はリーネで売れそうな物を探す。
すぐに買うことはしなかった。
成人して二人で始めるまでは、調べるだけ。
カイルがそう決めたからだ。
「一個くらい試しに買ってもよくない?」
「それ、誰の金で買うんだよ」
「俺の仕事用」
「じゃあ二人の商売じゃないだろ」
「……確かに」
こんなやり取りにも、だいぶ慣れた。
共同で使う金も準備した。最初に出す額は同じで、それぞれの金とは混ぜない。
俺の貯金も、仕事用の金も、自由に使う金もそのまま。
そこへ共同の商売用が増えた。
財布というか、金を分ける場所が多すぎる気はする。
でも、今のところ混ざってはいない。
たぶん大丈夫だ。
◇ ◇ ◇
そして。
「レイン、十五歳おめでとう」
「ありがとう」
朝起きて居間へ行くと、母さんにそう言われた。
十五歳。
この世界では、今日から成人だ。
「ついに大人か」
父さんが俺の肩を叩く。
「見た目は昨日と変わらないけどね」
「一晩で何が変わると思ってたんだ」
「もうちょっとこう……大人になった感じがするのかなって」
「自分で言うものじゃないわよ」
母さんに笑われた。
まあ、当然だけど何かが急に変わるわけじゃない。
背が一気に伸びるわけでもないし、商売が急に上手くなるわけでもない。
ただ、この世界での扱いは変わる。
これからは、自分で仕事を選べる。
町の外へ出ることも、自分で決められる。
その分、失敗したときに「子供だから」で済ませてもらえることも減る。
「本当に二人で行くのね?」
母さんが聞いた。
「うん。最初はリーネとラグナだけ」
「無茶はするなよ」
「分かってる」
「レインの分かってるは信用していいのか?」
「父さんまでカイルみたいなこと言わないでよ」
「そのカイルって子が言うなら、やっぱり必要なんだろ」
最近、会ったこともないカイルへの評価が妙に高い。
俺を止めるという一点だけで。
◇ ◇ ◇
昼にはハンスの店へ顔を出した。
「十五歳になったか」
「なりました」
「それで、すぐ出るのか?」
「まだ。カイルと予定を合わせてから」
「そうか」
ハンスはそれだけ言うと、いつものように店の帳簿へ目を戻した。
「もうちょっと何かないの?」
「何がだ」
「成人したんですよ?」
「知っている」
「こう……祝いの言葉とか」
「おめでとう」
「言わせたみたいになったじゃん」
「実際言わせただろ」
相変わらずだった。
でも、店を出ようとしたところで呼び止められる。
「レイン」
「はい?」
「自分の金だけで失敗するのとは違うからな」
振り返る。
「二人でやるなら、相手の金も時間も使う。それだけは忘れるな」
「……うん」
「それだけだ」
「ありがとう」
今度こそ店を出た。
父さんも母さんも、ハンスも。
言うことは少しずつ違う。
でも、たぶん同じことを心配している。
俺一人なら、俺が失敗すれば終わる。
これからはそうじゃない。
◇ ◇ ◇
その日の夕方には、ミラの店にも寄った。
「十五歳、おめでとう」
「ありがとう」
「じゃあ今日から大人ね」
「そうらしい」
「何その言い方」
「朝から何回も言われてるから、まだ実感なくて」
ミラが笑う。
店にはいつものようにパンが並んでいて、奥では白いソースも作られている。
俺が毎日いなくても、ここではもう普通に回っている。
ハンスの店では石鹸が売られ、ダリオさんのところではカバンが作られる。
八歳の頃。
最初に金を稼ごうとしたときは、自分で作って、自分で売ることしか考えていなかった。
それから人に作ってもらうことを覚えた。
売ってもらうことも覚えた。
町の外へ出て、同じ物でも場所が変われば価値が変わることも知った。
そして今度は、一人でやらない。
「なんか笑ってない?」
ミラに言われた。
「笑ってた?」
「うん」
「ちょっと楽しみで」
「ラグナ?」
「その先も」
最初はラグナ。
でも、そこで終わるつもりはない。
上手くいけば、次は知らない町へ行く。
そこで何が売れるのか探す。
面白そうな物があれば試す。
もちろん、金も貯める。
そこは忘れていない。
◇ ◇ ◇
夜。
部屋に戻って、金を入れている箱を開けた。
貯金。
仕事用。
自由に使う金。
そして、新しく増えた共同の商売用。
八歳の俺が見たら、かなり驚くと思う。
いや。
前世の俺が見たら、もっと驚くかもしれない。
金を分けて管理している。
しかも貯金まで続いている。
「……俺、ちゃんとしてるな」
誰も聞いていないので、自分で褒めておいた。
もっとも、目標は100万リル。
まだ先は長い。
それでも明日からは、今までとは少し違う稼ぎ方が始まる。
一人ではなく、二人で。
ベルクについていくのでもなく、自分たちで決めて町を行き来する。
箱を閉じる。
「さて」
十五歳。
成人。
そして、ようやく最初の一歩だ。
「じゃあ、始めようか」




