最初は、どこへ行く?
カイルと一緒に商売をすると決めてから、時間が過ぎるのが少し早くなった気がする。
ラグナへ行くたびに話すことが増えた。共同で使う金のこと、仕入れた物をどう記録するか、どちらかが途中で抜けたくなったときはどうするか。全部を一度に決めるのは無理だったけど、必要になりそうなことから少しずつ決めていった。
共同の商売用に最初に出す金額も決まった。
俺の701リルに合わせるのではなく、カイルが無理なく出せる額に合わせた。最初から大金を使うつもりもないし、足りなくなったら、そのとき二人で相談すればいい。
「勝手に追加するのは禁止な」
「分かってるよ」
「本当に?」
「共同の金は勝手に使わない」
「お前の仕事用は?」
「俺のだから自由」
「……そこは止められないのか」
「なんで俺個人の金まで管理されるんだよ」
まだ一緒に商売を始めてもいないのに、すでに少し窮屈だった。
でも、たぶんこれくらいでちょうどいい。
◇ ◇ ◇
季節が進むにつれて、カイルが店でやる仕事も増えていった。
オルドさんと一緒に仕入れへ行き、品物の値段を自分で考える。帳簿も以前より任されるようになって、客から品物を買い取るときも、簡単な物ならカイルが値段を決めるようになったらしい。
「この前、買い取り断った」
「なんで?」
「売れそうになかったから」
「安くても?」
「安くても」
「直せそうなら?」
「直したあと誰が買うんだよ」
「……なるほど」
「お前、また買おうとしてるだろ」
「話聞いてるだけだって」
俺もリーネで、成人した後のことを少しずつ考えていた。
石鹸はハンスの店を通して回っている。カバンもダリオさんたちが必要な分を作れるし、白いソースはミラの店で定着している。
俺が町を離れたからといって、全部止まるわけではない。
以前なら、自分がいないと回らない商売ばかりだった。
今は違う。
だからこそ、成人した後はもっと自由に動ける。
◇ ◇ ◇
ある日、カイルと紙を広げて話していると、一つ大事なことが抜けているのに気づいた。
「最初、どこ行く?」
「今さら?」
「決めてなかったじゃん」
「決めてなかったけど」
金のことばかり考えていて、肝心の行き先を決めていなかった。
「せっかくだし、知らない町行きたくない?」
「いきなり?」
「だってリーネとラグナはもう知ってるし」
「だからいいんじゃない?」
「え?」
カイルが紙の上に二つの町の名前を書く。
『リーネ』
『ラグナ』
「俺はリーネのことをほとんど知らない」
「ああ」
「お前もラグナには慣れたけど、店のこと全部知ってるわけじゃないだろ」
「まあね」
「最初から知らない町に行ったら、何が失敗したのか分からなくならない?」
それは考えていなかった。
商品が悪かったのか。
値段が悪かったのか。
町のことを知らなかったのか。
旅そのものに金がかかりすぎたのか。
全部初めてにすると、確かに分かりにくい。
「じゃあ、最初はリーネとラグナ?」
「俺はその方がいいと思う」
「でも、それ今までとあんまり変わらなくない?」
「今まではベルクと一緒に来てただろ」
「あ」
「馬車も旅の予定も、ほとんどベルクに合わせてた」
言われて気づく。
ラグナへ何度も来た。
中古品を買ってリーネへ持ち帰ったこともある。
でも、それは全部ベルクの移動に乗せてもらっていた。
「二人だけで行けば、違うのか」
「馬車をどうするかも、宿も、荷物も、自分たちで考える」
「旅の金も」
「もちろん」
「……利益減りそう」
「だから試すんだろ」
ベルクにも言われたことがある。
仕入れで少し儲かっても、そのためだけに町を往復すれば旅費で赤字になるかもしれない。
今度はそれも含めて、自分たちの商売だ。
◇ ◇ ◇
「じゃあ最初は、リーネとラグナの間でやってみる?」
「うん」
「ラグナからリーネに持っていくだけ?」
「逆も調べよう」
「リーネからラグナ?」
「何かあるだろ」
「石鹸とか?」
「それ、お前の今までの商売じゃないの?」
「あ」
そうだった。
石鹸を二人の共同商売に混ぜるなら、ハンスやセラさんとの話まで関わってくる。
俺個人の商売と、二人の商売は分けると決めたばかりだ。
「じゃあ、新しく探す」
「そうしよう」
「リーネでラグナに持っていけそうな物を探して、ラグナでもリーネに持っていけそうな物を探す」
「それなら分かりやすい」
「両方で儲けられたら、旅の金も回収しやすいよな?」
「それは調べてから」
「今の、いい考えじゃなかった?」
「いいかどうか調べるんだよ」
そこまで慎重にならなくても。
そう思ったけど、たぶんこいつがいなかったら、俺はもう何か買いに行っている。
「……やっぱりカイル誘って正解だったかも」
「急に何だよ」
「いや、なんでもない」
紙に、新しい項目を書き足す。
『最初はリーネとラグナ』
『二人だけで往復する』
『行きも帰りも、売れる物を探す』
まだ成人していない。
だから、今すぐ二人だけで町を出るわけじゃない。
それでも、最初にやることは決まった。
知らない町へ行くのは、その次でいい。
まずは知っている二つの町で。
ベルクについていくのではなく、自分たちで金を払い、自分たちで商品を選び、自分たちで売ってみる。
それが上手くいったら。
今度こそ、もっと遠くへ行けばいい。




