一緒にやるって、話しておこう
カイルと一緒にやると決めた翌日、俺はリーネへ戻った。
帰りの馬車では、これから決めることを紙に書き出してみた。使う金、利益の分け方、仕事の分担、最初に行く町。それなりに書いたところで、もっと大事なことを思い出す。
『父さんと母さんに話す』
成人すれば、自分で仕事を決められる。
だから許可をもらわないと何もできないわけじゃない。それでも、黙って始める理由はなかった。
◇ ◇ ◇
「カイルと一緒に商売することにした」
夕食の途中で言うと、母さんの手が止まった。
「カイルって、ラグナのお友達よね?」
「うん。中古道具屋で働いてる」
「前に何度か話してた子か」
父さんも覚えていたらしい。
「成人したら二人で町を回って、いろんな場所で商売してみようって話になった」
「へえ」
「反対?」
「まだ何も言ってないだろ」
父さんが笑う。
母さんは少し考えてから俺を見る。
「一人で町を回るって言われるよりは安心だけど、その子のことをお母さんたちは知らないから」
「まあ、そうだよね」
「レインはどれくらい知ってるの?」
「何回も一緒に仕入れしてるし、ラグナに行くたびに会ってるよ。最近は店の外でも飯食ったりしてる」
「商売は?」
「中古品の値段とか状態を見るのは、俺よりずっと慣れてる」
「それだけ?」
「あと、俺が買おうとすると止める」
父さんが笑った。
「それは必要だな」
「そこだけ食いつかないでよ」
「大事だろ」
「大事だけど」
母さんまで笑っている。
味方がいない。
「でも、レイン」
少しして、父さんの声が真面目になる。
「友達と商売するなら、仲がいいだけじゃ駄目だぞ」
「うん」
「金が絡むからな。どっちがいくら出すのか、儲けをどう分けるのか、損したときはどうするのか。始める前に決めておけ」
「ちょうどそれ考えてた」
「ならいい」
「あと、ずっと一緒にやるって決めつけないことね」
今度は母さんだった。
「どういうこと?」
「やってみたら合わないかもしれないでしょう?」
「ああ」
「喧嘩するかもしれないし、どちらかが別のことをやりたくなるかもしれない。そのときに、一緒に始めたんだから抜けるな、なんて言わないようにね」
そこまでは考えていなかった。
一緒に始めることばかり考えていたけど、終わるときのことも決めておいた方がいいのか。
「……それも書いとく」
「書いてるの?」
「馬車でいろいろ」
「見せてみろ」
「まだ駄目。途中だから」
父さんが手を伸ばしてきたので、慌てて紙を遠ざけた。
自分でもまだよく分かっていない物を見せるのは恥ずかしい。
「とりあえず、そのカイルって子には一度会ってみたいな」
「俺もそのうち連れてこようと思ってた」
「成人してから?」
「その前でもいいけど」
「じゃあ機会があれば連れてきなさい」
「うん」
反対されなかった。
それだけで少し肩の力が抜けた。
◇ ◇ ◇
次にラグナへ行ったとき、カイルにも家で話したことを伝えた。
「会ってみたいって」
「俺に?」
「うん」
「何話せばいいんだよ」
「普通でいいんじゃない?」
「お前の家の普通を知らないんだけど」
「飯食えば大丈夫だよ」
「雑すぎるだろ」
カイルは嫌そうな顔をしている。
「そっちは?」
「オルドに話した」
「どうだった?」
「反対はされなかった」
「おお」
「ただ、お前のことは聞かれた」
「何て?」
「本当にそいつと金を扱って大丈夫なのかって」
「……オルドさん、俺のこと知ってるよね?」
「知ってるから聞いたんじゃない?」
「どういう意味?」
カイルは答えずに笑った。
「なんて答えたの?」
「仕事の金まで全部使うほど馬鹿じゃないって」
「褒めてる?」
「一応」
「一応かよ」
まあ、間違ってはいない。
俺だって貯金と仕事用と自由に使う金は分けている。
自由に使う金は減る。
結構減る。
でも、仕事用まで好き勝手に使っているわけではない。
「オルドも、始める前に金のことは決めろって」
「うちも言われた」
「あと、喧嘩したときどうするか」
「それもうち」
「途中でどっちかが辞めるときも」
「それも」
二人で顔を見合わせる。
「同じこと言われてるな」
「大人ってそういうの気にするんだな」
「俺たちが気にしてなさすぎるんじゃない?」
「……それはあるかも」
昨日まで、一緒にやることが決まっただけで結構満足していた。
でも、二人で商売するなら、それだけでは足りないらしい。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、決めるか」
店の奥にある小さな机に、紙を一枚置いた。
カイルが向かい側に座る。
「何から?」
「金」
「最初から面倒なの来たな」
「一番大事だろ」
「まあな」
俺には仕事用の金がある。
カイルにも自分で持っている金はあるらしい。
でも、それを全部まとめて二人の金にするのか。
必要なときだけ出すのか。
利益を半分ずつにするなら、最初に出す金も同じにするのか。
考え始めると、次から次へと出てくる。
「……これ、今日だけで決まる?」
「無理じゃない?」
「だよな」
「でも、決めないと始められない」
「じゃあ一個ずつやろう」
「うん」
紙の一番上に、大きく書く。
『二人で商売するときの決まり』
その下に、まず一つ。
『金をどうするか』
俺一人なら、思いついたら動けばよかった。
失敗しても、減るのは俺の金だ。
でも、これからは違う。
二人でやるなら、二人で決める。
少し面倒になった。
その代わり。
一人でやるより、できることは増えそうだった。




