じゃあ、一緒にやらない?
次の日も、俺は中古道具屋へ向かった。
別に仕入れたい物があったわけじゃない。昨日カイルと話してから、ずっと頭の中に残っていることがあったからだ。
店に入ると、カイルが棚に小さな箱を並べていた。
「おはよう」
「おはよう。今日は何か探してる?」
「いや、今日はカイル」
「俺は売り物じゃないぞ」
「そういう意味じゃない」
出だしから失敗した。
もう少し普通に話しかければよかった。
「話があるんだけど」
「何?」
「店終わってから時間ある?」
「あるけど」
「じゃあ飯食いながら」
「分かった」
カイルは少し不思議そうな顔をしたけど、それ以上は聞かなかった。
◇ ◇ ◇
店が閉まるまで、俺はラグナを適当に見て回った。
途中で気になる道具を見つけたけど、今日は買わなかった。値段も聞かなかった。
今はそれどころじゃない。
夕方、中古道具屋へ戻ると、カイルはちょうど店先の品物を中へ運んでいた。少し手伝ってから、いつもの食堂へ向かう。
「それで、話って?」
席についてすぐ聞かれた。
「昨日のことなんだけど」
「昨日?」
「成人したら、外で商売してみたいって言ってたじゃん」
「ああ」
「俺も町を回って商売したい」
「それも昨日聞いた」
「うん」
ここまではいい。
問題は次だ。
俺は一度息を吐いてから、カイルを見る。
「じゃあさ、俺と一緒にやらない?」
カイルが止まった。
「……一緒に?」
「うん」
「商売を?」
「そう」
言った。
思っていたより普通に言えた。
カイルはすぐには答えず、少し考えている。
「急に決めなくてもいいよ」
「いや、そうじゃなくて」
「何?」
「どういう形で?」
「どういう形?」
「俺、お前に雇われるの?」
「……あ」
そこまで考えてなかった。
俺が誘う。
カイルが来る。
なんとなくそれだけ考えていたけど、確かに一緒に商売をするなら関係を決めないといけない。
「雇う……のかな?」
「俺に聞くなよ」
「だって、まだ店もないし」
「店ないの?」
「町を回るなら最初はいらなくない?」
「じゃあ、お前は何の店の主人なんだよ」
「何屋になるか決めないって言ったじゃん」
「本当に何もないんだな」
「これから作るんだよ!」
誘った側なのに、どんどん立場が悪くなっている。
カイルは少し笑ってから、テーブルに肘をついた。
「でも、雇われるのは嫌だな」
「嫌なの?」
「お前に使われるの、なんか嫌だ」
「言い方」
「だってそうだろ。お前が決めて、俺が言われたことやるだけなら、別に外へ出なくてもいい」
「ああ……」
それは確かにそうだ。
カイルはオルドさんの店が嫌で出たいわけじゃない。
自分で外へ出て、自分の知っていることがどこまで使えるのか試してみたいと言っていた。
「じゃあ、どうする?」
「やるなら、一緒にやる」
「一緒に?」
「お前の手伝いじゃなくて、二人で」
なるほど。
俺が商売を始めて、カイルを雇う。
そう考える必要はなかったのか。
「それなら俺もいい」
「軽いな」
「いや、俺もその方がいいと思ったんだよ」
「今思っただろ」
「今気づいた」
「同じじゃん」
また笑われた。
◇ ◇ ◇
料理が運ばれてきても、話は続いた。
「じゃあ、やるとして」
「うん」
「何から始める?」
「それをこれから考える」
「……本当に誘うところまでしか考えてなかったの?」
「一緒にやるか分からないのに、その先まで決めても仕方ないだろ」
「それはそうだけど」
「まずは成人してからだし」
俺もカイルも、成人まではもう少しある。
それまでに決めればいい。
「金は?」
「金?」
「商売するなら必要だろ」
「ああ」
そこは大事だ。
俺には仕事用の金がある。
今は701リル。
でも、これまで俺が貯めた仕事用の金を、そのまま二人の金にしていいのかは別の話だ。
「それも決めないとな」
「あと、儲かったらどう分ける?」
「半分ずつ?」
「毎回?」
「……駄目?」
「知らない。だから考えるんだろ」
「そうだね」
誘えば終わりじゃなかった。
むしろ、ここから決めることが一気に増えた。
使う金。
利益の分け方。
誰が何をするのか。
最初にどこへ行くのか。
「面倒だな」
「誘ったやつが言うなよ」
「でも、ちょっと楽しくない?」
「まあ、それは分かる」
カイルが笑った。
その答えを聞いて、少し安心する。
「じゃあ、決まり?」
「何が?」
「一緒にやるって」
「まだオルドにも話す」
「あ」
「お前、忘れてただろ」
「忘れてないよ」
「今の間は何だよ」
「確認しただけ」
「何を?」
「……カイルがちゃんとしてるか」
「帰るぞ」
「ごめんって!」
立ち上がろうとしたカイルを慌てて止める。
もちろん、本当に今すぐ何かが始まるわけじゃない。
カイルはオルドさんともう一度話す必要がある。
俺だって父さんと母さんには話しておきたい。
成人したら、二人で町の外へ出て商売をする。
そう決めただけだ。
でも、それだけで昨日までとは少し違う。
今までは、俺が一人で何をするかを考えていた。
これからは二人で考える。
俺が思いついたことを、カイルが止めることもあるだろう。
逆に、カイルが見つけた物から俺が何か思いつくこともあるかもしれない。
どうなるかは、まだ分からない。
ただ一つだけ。
これなら一人でやるより、面白くなりそうだった。




