俺も、外でやってみたい
それから、次にラグナへ来るまで少し間が空いた。
ベルクの予定と俺の都合が合わなかっただけで、何か問題があったわけじゃない。その間もリーネではいつも通り過ごして、ハンスの店を覗いたり、ダリオさんのところへ顔を出したり、トーマと飯を食ったりしていた。
そして久しぶりに中古道具屋へ行くと、カイルは帳簿とにらめっこしていた。
「珍しいことしてる」
「失礼だな」
「いつも品物いじってるじゃん」
「オルドに覚えろって言われたんだよ」
そういえば、成人するまでに仕入れや帳簿も教えると言われたらしい。
覗き込んでみると、品物の名前と仕入れ値、売った値段なんかが並んでいる。数字を見るだけなら難しくなさそうだけど、それを毎日きちんと残すとなると面倒そうだ。
「どう?」
「面倒くさい」
「やっぱり?」
「でも、見てると面白い」
「どっちだよ」
「面倒なのと面白いのは別だろ」
それはちょっと分かる。
俺も金を数えるのは好きだ。
減っているとき以外は。
◇ ◇ ◇
昼過ぎになって客が途切れると、カイルが帳簿を閉じた。
「これ、前ならオルドが全部やってたの?」
「ほとんどな。俺は売った物を書いたりするくらい」
「仕入れも?」
「ついていったことはあるけど、値段を決めるのはオルドだった」
「今は?」
「少しずつやらされてる。この前なんか、俺に一つ決めさせた」
「買ったの?」
「買った」
「売れた?」
「まだ」
「駄目じゃん」
「昨日仕入れたんだよ!」
怒られた。
その品物を見せてもらうと、旅で使う小さな鍋だった。少しへこんでいるけど穴はなく、まだ十分使えるらしい。
「いくらで売るの?」
「それは言わない」
「なんで?」
「お前、安かったら買おうとするだろ」
「しないよ」
「今、一回鍋見たじゃん」
「見るくらいいいだろ」
「いらないだろ?」
「……今は」
「ほら」
危ない。
別に欲しくはない。
ただ、安いなら何かに使えるかもしれないと思っただけだ。
これは欲しいとは違う。
たぶん。
◇ ◇ ◇
その日の店じまいを手伝っていると、カイルが急に話しかけてきた。
「前にさ」
「うん?」
「お前、町を回って商売するって言ってたじゃん」
「言ったね」
「いろんな町で、売れる物を探すって」
「うん」
木箱を棚の下へ押し込みながら答える。
「俺、あれから考えてたんだけど」
「何を?」
「成人した後のこと」
俺は手を止めた。
前に聞いたときは、まだ決まっていないと言っていた。
「決まった?」
「全部じゃないけど」
「どこまで?」
「俺、たぶん店を持ちたいわけじゃないんだと思う」
「中古道具屋を?」
「中古道具屋に限らず」
カイルは店の中を見回した。
「ここは好きだよ。オルドにも世話になったし、店の仕事も嫌いじゃない」
「うん」
「でも、自分の店を持って、ずっとそこにいるって考えると……なんか違う」
少し前なら、そこで言葉が止まっていたと思う。
今日は違った。
「外に出てみたい」
「旅?」
「旅だけしたいわけじゃない」
前にも似たことを言っていた。
カイルは少し考えてから、今度は続けた。
「いろんな町で商売をやってみたい」
「商売?」
「うん」
「何売るの?」
「それは知らない」
「決まってないじゃん」
「お前にだけは言われたくない」
「俺は決めないって決めたんだよ」
「それ便利すぎるだろ」
笑いながら言われた。
「でも、たぶんそういうことなんだと思う」
「どういうこと?」
「中古品だけ扱いたいわけじゃない。知らない町に行って、何が売れてるのか見たり、値段を比べたり、仕入れたり……そういうのをやってみたい」
「ああ」
「ここで覚えたことが、他でも使えるのか試してみたい」
それを聞いて、少し笑ってしまった。
「何だよ」
「いや」
「言えよ」
「似てるなと思って」
「何が?」
「俺がやりたいことと」
カイルが黙った。
俺も黙る。
言ってから、思っていた以上に似ていることに気づいた。
俺は町を回って、売れる物を探したい。
カイルも外へ出て、町ごとの商売を見てみたい。
俺は思いついたら、とりあえず試したくなる。
カイルは買う前に値段や状態や売る相手を考える。
同じではない。
でも、向いている方向はかなり近い。
「……確かに」
カイルも気づいたらしい。
「だろ?」
「でも、お前の場合は変な物も作るんだろ?」
「変な物って言うなよ。売れてるから」
「売れてるのもある、だろ」
「筒は作ってないから!」
「誰も筒とは言ってない」
「……くそ」
笑われた。
◇ ◇ ◇
店を出て宿へ戻る途中、さっきの話を何度も思い返した。
カイルは自分で考えた。
オルドさんとも話した。
その上で、外に出て商売をしてみたいと言った。
俺が誘ったからじゃない。
俺と組むために考えたわけでもない。
それでも、やりたいことはかなり近かった。
「だったら……」
前から考えていたことが、今度はもっとはっきり浮かぶ。
町を回るなら、一人より二人の方ができることは増える。
俺が突っ走りそうになったとき、一度止まって考えるやつがいるのも悪くない。
何より、カイルとはもう何度も一緒に品物を選んでいる。
知らない相手を探すより、ずっといい。
あとは。
カイルが俺と一緒にやりたいと思うかどうかだ。
そこだけは、俺が考えても分からない。
だったら次は、ちゃんと聞けばいい。




