お前は、何をするつもり?
ラグナに来るたび、カイルとは商売の話をするようになった。
最初は中古品の値段や状態の話ばかりだったけど、最近はそれだけじゃない。リーネで何が売れているとか、ベルクがどんな物を運んでいるとか、別の町では同じ物でも値段が違うとか。俺が知っていることを話せば、カイルも店で聞いた旅人の話を返してくる。
その日も店の奥で品物を見ながら話していると、カイルが突然聞いてきた。
「そういえば、お前は成人したら何するんだ?」
「前に話したじゃん」
「町を回るって話だろ。それは覚えてる」
「じゃあ何?」
「何しに回るんだよ」
「……商売?」
「そこを聞いてるんだけど」
呆れた顔をされた。
言われてみれば、俺の中ではなんとなく形になってきたけど、カイルには詳しく話していなかった。
「町によって売れる物って違うだろ?」
「まあな」
「ラグナで安く買える物をリーネに持って帰ったら売れることもあるし、逆もあると思うんだよ」
「それは分かる」
「だから、そういうのを探したい」
安く買って高く売る。
言葉にすれば単純だけど、それだけじゃない。
「あと、何か思いついたら作ってみたい」
「また変な道具買うの?」
「なんでそうなるんだよ」
「前例があるから」
「作る方だって。石鹸とか、カバンとか、白いソースみたいな」
「ああ、そっちか」
「そっちかって何だよ」
俺の信用はどうなっているんだ。
まあ、6リルの筒を買った男の信用なんてそんなものかもしれない。
「自分で全部作るつもり?」
「いや。それはやらない」
そこはもう分かっている。
石鹸だって今はセラさんが作っているし、カバンはダリオさんたちが作る。白いソースだって、俺が毎日パン屋へ行って混ぜているわけじゃない。
「作れる人を探して、売れるなら任せる。俺はまた別の物を探す」
「忙しそうだな」
「楽しそうじゃない?」
「お前は楽しそうだな」
「カイルは?」
「何が?」
「そういうの、興味ない?」
聞いてから、少しだけまずかったかなと思った。
誘ったわけじゃない。
でも、今のカイルに聞けば、そう聞こえる可能性はある。
ところがカイルは特に気にした様子もなく、少し考えた。
「町によって値段が違うのは面白いと思う」
「だよな」
「店でもたまにあるし」
「何が?」
「旅人が売りに来た物。本人は安いと思ってるけど、ラグナだと普通だったり、その逆だったり」
「それ、もっと早く教えてよ」
「聞かれてないし」
「そういうの大事じゃん」
「お前の商売にはな」
なるほど。
中古道具屋だから、いろんな町から来た品物を見る。
それを売りに来る旅人とも話す。
俺とは違う形で、カイルも町ごとの違いを見ていたらしい。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、別の町に行っても仕入れとかできそう?」
「何を買うかによる」
「中古品なら?」
「今の店にあるような物なら、多少は」
「値段も分かる?」
「ラグナの値段なら」
「それでも十分じゃない?」
「別の町で同じ値段とは限らないだろ」
「……確かに」
そこが大事なのか。
俺なら「だいたいこれくらいだろ」で買ってしまいそうなところを、カイルは一度止まって考える。
「じゃあ、知らない町に行ったらどうする?」
「まず見る」
「何を?」
「店。市場。客」
「客?」
「何を買ってるか見ないと、売れるか分からないだろ」
「ああ」
「あと、何軒か値段を見る。一軒だけ見ても高いのか安いのか分からないし」
「なるほど」
普通のことを言っているだけなのかもしれない。
でも、その普通を俺は飛ばすことがある。
面白そうな物を見つける。
欲しくなる。
商売に使える気がする。
買う。
そして後から考える。
……書き出すと、かなり駄目だな。
「何笑ってんの?」
「いや。カイルと一緒なら、無駄遣い減りそうだなって」
「お前の無駄遣いまで面倒見る気はないぞ」
「仕事用だけでいいから」
「仕事用でも変なの買うだろ」
「最近は減ったよ」
「減っただけだろ」
否定できなかった。
◇ ◇ ◇
店を出た後も、さっきの話が頭に残っていた。
俺は新しい物を見つけるのが好きだ。
知らない町へ行けば、何が売れるのか考えたくなる。思いついたら試したくなるし、上手くいきそうなら金も使う。
カイルは、その前に見る。
値段を見る。
状態を見る。
誰が買うのかを見る。
俺がやらないわけじゃない。でも、俺よりずっと自然にそれをやっている。
逆に、カイルは自分から新しい商売を始めたいわけではなさそうだった。
店にある物を見て、値段を考えて、客を見る。
そこから何かを思いついて走り出すのは、たぶん俺の方だ。
「……合うんじゃない?」
思わず口から出た。
「何が?」
隣を歩いていたカイルが振り向く。
「いや、なんでもない」
「また変なこと考えてる?」
「失礼だな」
「じゃあ何?」
「まだ内緒」
「気持ち悪いな」
「そこまで言う?」
カイルは呆れながら歩き出した。
俺もその横を歩く。
誰かと組むなら。
少なくとも、俺と同じことが得意なやつを選ぶ必要はなさそうだ。
俺が見つけて、動く。
その前に、こいつが一度ちゃんと見る。
たぶん、その方が上手くいく。
あとはカイルが、自分で何をしたいのか。
それが決まったら、一度ちゃんと話してみよう。




