オルドに、話したらしい
次にラグナへ来たのは、それから少し経ってからだった。
いつものように中古道具屋へ向かうと、カイルは店の奥で古い道具を布で拭いていた。俺に気づくと軽く手を上げ、そのまま作業を続ける。
「なんか入った?」
「昨日少し入った。金具はあんまりない」
「そっか」
「見る?」
「見る」
最近は挨拶より先にこの話をしている気がする。
カイルが出してくれた箱を二人で覗く。使えそうな物はいくつかあったけど、値段まで考えるとわざわざリーネへ持って帰るほどではなかった。
「今日はなしだな」
「だと思った」
「なら最初から言ってよ」
「自分で見た方がいいだろ」
「まあ、そうだけど」
箱を戻す。
するとカイルが、思い出したように言った。
「そういえば、オルドに話した」
「え?」
「成人した後のこと」
「ああ」
前に飯を食べながら話したことを思い出す。
ずっと店に残るとは決めていない。
ラグナの外も見てみたい。
でも、まだオルドさんには話していないと言っていた。
「ちゃんと話したんだ」
「話せって言ったのお前だろ」
「言ったけど。どうだった?」
「普通」
「普通?」
「うん」
それだけ言うと、カイルは次の道具を拭き始めた。
「いや、そこもうちょっと教えてよ」
「何を?」
「怒られたとか、驚かれたとか」
「別に」
「本当に?」
「俺も驚いた」
カイル自身、もっと何か言われると思っていたらしい。
◇ ◇ ◇
昼になり、オルドさんと交代で休憩を取ったカイルと外へ出た。
近くの店でパンと肉を買い、道沿いの腰掛けに座る。
「どうやって話したの?」
「普通にだよ」
「その普通が分からないんだって」
「面倒くさいな」
そう言いながらも、カイルは話してくれた。
店を閉めた後、オルドさんに時間をもらったらしい。
「成人した後、店に残らないかもしれないって言った」
「うん」
「外の町も見てみたいって」
「うん」
「そしたら、『そうか』って」
「終わり?」
「俺もそう思った」
カイルは苦笑する。
「だから、いいのかって聞いた」
「なんて?」
「『何がだ』って」
「オルドさんっぽいな」
「だろ?」
カイルはパンを一口食べてから続けた。
「それで、店を出てもいいのかって聞いたらさ」
「うん」
「『お前をこの店に縛るために面倒見てきたわけじゃない』って」
思っていたより、ずっとはっきりした言葉だった。
「……いい人だな」
「知ってる」
「自分で言う?」
「俺の話だぞ」
「そうだけど」
カイルは少し笑った。
でも、すぐに表情を戻す。
「そのあと結構言われたけどな」
「何を?」
「出ていくのは好きにすればいい。でも、何をするかも決めずに出ていくのは駄目だって」
「ああ」
「外を見たいだけなら、一度旅して戻ってきてもいい。別の仕事がしたいなら探せ。誰かと働くなら、そいつが信用できるか考えろって」
「ちゃんとしてる」
「あと、成人するまでは店で覚えられることを覚えろって」
「それは?」
「仕入れとか、帳簿とか。今までオルドがやってたことも少しずつ教えるって」
「いいじゃん」
「うん」
カイルが短く答える。
その顔は、前に将来の話をしたときより少しすっきりして見えた。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、店を出るの?」
「だから、まだ決めてないって」
「でも出てもいいんだろ?」
「いいって言われたから出る、ってのも違うだろ」
「まあね」
「何するか決めないと」
前と同じ答えのようで、少し違う。
前は、店に残るかどうかから迷っていた。
今はもう、その先を考え始めている。
「何かやりたいことないの?」
「それを考えてる」
「中古品の店を自分でやるとか」
「それならここにいればいいだろ」
「確かに」
「別の町で同じ店を出すのも、今はあんまり考えてない」
「じゃあ何だろうな」
「お前が考えるなよ」
「気になるじゃん」
「自分のこと考えろよ」
「俺は考えたよ」
「何屋になるか決めないって?」
「そう」
「やっぱり何も決まってないじゃん」
「違うって」
前にもしたような話になって、二人で笑った。
ただ、俺の方は本当に少しずつ見えてきている。
町を回る。
そこで売れる物を探す。
必要なら新しい物も作る。
一つの商売だけに決めず、いろいろ試す。
問題は、それを全部一人でやるのかどうか。
◇ ◇ ◇
昼を食べ終え、店へ戻る。
入口ではオルドさんが客と話していた。
俺たちに気づくと、客を見送った後で声をかけてくる。
「レイン、また来たのか」
「また来ました」
「こいつ、お前が来るようになってから外の町の話ばっかり聞くようになってな」
「オルド、それ言わなくていいって」
「本当のことだろ」
カイルは嫌そうな顔をしたけど、オルドさんは楽しそうに笑っている。
「別にいいだろ。知らない町が気になるくらい」
「悪いとは言ってない。前は旅人の話を聞いても、ほとんど興味なかったからな」
「……そうだったの?」
「余計なこと言うなって」
「へえ」
「お前も面白がるなよ」
カイルに睨まれた。
俺は笑いながら、いつもの箱の前にしゃがみ込む。
「でも、俺のせいって本当だったんだ」
「だから悪い意味じゃないって前にも言っただろ」
「分かってるよ」
その横にカイルもしゃがむ。
オルドさんはそれ以上何も言わず、店の奥へ戻っていった。
店を出てもいい。
オルドさんから、そう言われたらしい。
でも、カイルはまだ行き先を決めていない。
俺は、成人したら町を回って商売をしてみたい。
そして一人で全部やるより、誰かと組むという選択肢もある。
そこまで考えて。
隣で中古品を選んでいるカイルを見る。
「何?」
「いや」
今なら誘ってもいいんだろうか。
そう思ったけど、口には出さなかった。
カイルはまだ、自分で何をするのか考えている途中だ。
だったら、もう少しだけ待とう。
誘うなら。
こいつ自身がどうしたいのか、もう少し見えてからでいい。




