この店に、ずっといるの?
次にラグナへ来たときも、特別なことはなかった。
中古道具屋を覗いて、入ったばかりの品物をカイルと一緒に見る。条件に合う物が二つあったので値段を聞いたけど、リーネへ持って帰ってもほとんど利益が出なさそうだったから、今回は買わなかった。
「最近、本当に買わなくなったな」
「言い方が悪い」
「前はもっと買ってたじゃん」
「必要な物は買ってるよ」
「6リルの筒とか?」
「それはもう忘れてくれない?」
「まだ持ってる?」
「……持ってる」
捨てるのもなんとなく悔しくて、今も部屋の引き出しに入っている。
いつか使い道が分かるかもしれない。
たぶん。
◇ ◇ ◇
店が閉まった後、いつもの食堂へ向かった。
最近はどちらから誘うともなく、時間が合えば一緒に食べることが増えている。
「俺、もうすぐ成人なんだよね」
料理を待ちながら言うと、カイルが顔を上げた。
「知ってる。同い年くらいなんだから」
「カイルはいつ?」
「俺ももう少し」
「そっか」
前に将来の話をしたときは、まだ決めていないと言っていた。
俺の方は、あれから少しだけ考えがまとまった。
「俺さ、成人したら自分でも町を回ってみようと思ってる」
「ベルクとじゃなくて?」
「ベルクについていくこともあると思う。でも、それだけじゃなくて」
「一人で?」
「そこはまだ考えてる」
商品を探す。
売る相手を探す。
荷物や旅の金を管理する。
一人でもできるだろうけど、全部一人でやりたいかと言われると微妙だ。
「何売るの?」
「それも町によって変える」
「決まってないだけじゃん」
「違う。決めないって決めたんだよ」
「それ、便利だな」
「ちゃんと考えた結果だから」
カイルが笑った。
俺も笑いながら、運ばれてきた料理に手をつける。
しばらく食べてから、今度は俺が聞いた。
「カイルは?」
「何?」
「成人したらどうするか。前はまだ分からないって言ってたじゃん」
「ああ」
「決まった?」
カイルの手が少し止まった。
「まだ全部は決めてない」
「全部は?」
「たぶん、この店には残らない」
思っていたよりはっきりした答えだった。
「そうなの?」
「たぶんだけど」
「オルドさんには?」
「まだ話してない」
「じゃあ、先に話した方がいいんじゃない?」
「分かってるよ」
少しだけ不機嫌そうに返された。
これは俺が口を出すところじゃなかったかもしれない。
「店が嫌になったとか?」
「違う」
そこはすぐに否定した。
「オルドにはずっと世話になってるし、店も嫌いじゃない。むしろ残った方が楽だと思う」
「じゃあなんで?」
「……お前のせいかも」
「俺?」
「悪い意味じゃない」
「びっくりするから、その言い方やめて」
カイルは少し考えてから続けた。
「俺、ずっとラグナにいたから」
「うん」
「旅人は店に来るし、いろんな町の物も入ってくる。でも、自分で外へ行ったことはほとんどない」
「ああ……」
「前は、それで別に何とも思ってなかった」
中古道具屋にいれば、外から物が来る。
旅人も来る。
ラグナにいながら、別の町の話を聞くこともできる。
「でもお前、来るたびに違う話するだろ」
「そう?」
「エルダに行ったとか、リーネでこれが売れたとか、ラグナの物を持って帰ったらどうだったとか」
「商売の話ばっかりだな」
「本当にそればっかりだな」
二人で笑う。
「それ聞いてたら、一回くらい自分でも外を見てみたくなった」
「一回?」
「一回で済むかは知らない」
「じゃあ、旅したいの?」
「旅そのものがしたいっていうより……」
カイルが少し考える。
「他の町でも、自分が今まで覚えたことが使えるのか見てみたい」
「中古品?」
「それだけじゃないよ。店にいると、誰が何を欲しがるとか、この値段なら売れるとか、そういうの見るだろ」
「うん」
「別の町だと、それが全然違うのかなって」
なんとなく分かった。
俺が初めてエルダへ行ったときに感じたことに近いのかもしれない。
同じ物でも町が変われば値段が違う。
売れる物も違う。
ラグナへ来て、それをもっと強く感じた。
「面白いよ」
「何が?」
「町の外」
「お前はもう何回も行ってるからだろ」
「最初は馬車で尻痛くなったけど」
「それは嫌だな」
「あと宿によって飯が全然違う」
「それはちょっと楽しそう」
カイルが笑った。
◇ ◇ ◇
食事を終えて、店の近くまで一緒に戻った。
もう辺りは暗い。
「でも、オルドさんにはちゃんと話すんだろ?」
「話すよ」
「ならいいけど」
「なんでお前が心配するんだよ」
「ずっと世話になってるって言ってたから」
「だからこそ、ちゃんと決めてから話したいんだよ」
「ああ、そっか」
カイルは店の前で足を止めた。
「まだ出ていくって決めたわけじゃないからな」
「分かってる」
「成人してすぐかも分からない」
「うん」
「ただ、ずっとここにいるって決めるのも違う気がする」
前に聞いたときより、少しだけ答えが見えている。
俺もそうだった。
何屋になるかは分からない。
それでも、町の外へ出て商売をしてみたいことは分かった。
「じゃあ、お互いまだ途中だな」
「何が?」
「十五歳になってから何するか」
「そうだな」
「俺もまだ決まってないし」
「お前は決めないって決めたんだろ?」
「そこ覚えてるの?」
「便利そうだったから」
また笑われた。
「じゃあ、また明日」
「うん」
カイルが店へ入っていく。
俺は宿へ向かって歩き出した。
誰かと組む。
少し前にハンスから言われた言葉が、ふと頭に浮かぶ。
でも、まだ何も言わなかった。
カイルにはカイルの決めることがある。
俺が誘うとしても。
それは、あいつが自分で答えを出してからだ。




