成人したら、何をする?
成人まであと数ヶ月。
そう意識してから、俺は十五歳になった後のことを考えるようになった。
今まで町の外へ出るときは、ほとんどベルクについていっている。馬車も旅の日程もベルクが用意して、そのついでに俺がラグナやエルダで動いていた。
でも成人したら、それだけじゃなくてもいい。
「自分で行けばいいんだよな」
ラグナへ行きたいならラグナへ。
別の町を見たいなら、そこへ。
ベルクの予定に合わせなくても、自分の商売のために町を出られる。
そう考えると、急にできることが増えた気がした。
◇ ◇ ◇
「ベルクって、一人で旅することもある?」
「あるぞ」
ちょうどリーネへ来ていたベルクに聞くと、当然のように返された。
「荷物多いのに?」
「量によるな。荷が多ければ馬車を使うし、人を雇うこともある」
「じゃあ、自分で町を回って商売するなら?」
「何を売るんだ?」
「それを今考えてる」
「先にそこ決めろよ」
「まだ成人してないから」
「数ヶ月で決まるのか?」
「……たぶん」
ベルクが笑う。
でも、考えていること自体は本気だった。
「例えば、リーネで物を仕入れてラグナへ持っていく。帰りにラグナで仕入れて、リーネで売る」
「普通だな」
「普通でいいんだよ」
「悪いとは言ってない」
今までは、俺が作った物や考えた物を売ることが多かった。
でも中古品の仕入れをやってみて、別に自分で商品を作らなくても金になると分かった。
「じゃあ、何持っていけばいいと思う?」
「俺に聞いたら俺の商売になるだろ」
「ちょっとくらい教えてよ」
「自分でやりたいんじゃなかったのか?」
確かに。
「……じゃあ、何を考えればいい?」
「それなら教えられる」
ベルクが指を折る。
「何を持っていくか。どこで売るか。どれだけ運べるか。旅にいくらかかるか。それと、売れなかったときどうするか」
「多くない?」
「商売しに町を出るんだろ?」
「そうだけど」
「旅行じゃないんだからな」
紙に書いてみる。
商品。
売り先。
荷物。
旅の金。
売れなかった場合。
書くだけなら五つ。
でも、一つずつ考えると面倒そうだ。
◇ ◇ ◇
家へ帰ってから、実際に考えてみた。
まず商品。
リーネからラグナへ持っていくなら何がいい?
石鹸。
「……勝手に持っていくわけにはいかないな」
今はセラが作って、ハンスが売っている。
町の外へ広げるなら二人とも交えて話した方がいい。
カバン。
「これもダリオだな」
俺の商品ではあるけど、作っているのはダリオだ。
数を増やすなら勝手には決められない。
白いソース。
「これはもっと無理」
持ち運ぶ商品じゃないし、作り方を売る権利はベルクに渡している。
既存の商品だけでも、思ったより自由には動かせない。
「じゃあ、新しい商品?」
それなら一から考える必要がある。
次。
売り先。
ラグナなら知っている店は増えた。
でも中古道具屋に石鹸を持っていっても仕方ない。
食堂にカバンを持っていくのも違う。
「先に店探さないと駄目か」
さらに荷物。
馬車を使えば運べる。
でも当然、金がかかる。
宿代も食事代も必要になる。
「……あれ?」
中古品の仕入れで3リル儲かって喜んでいたけど。
あれはベルクの旅についていっていたから成立していた。
自分一人でラグナへ行って、宿に泊まって、帰ってくるなら。
「3リルじゃ全然足りないじゃん」
前にベルクから言われたことを、今さら実感した。
移動そのものに金がかかるなら、それ以上に稼がないと意味がない。
しかも売れなければ、商品を抱えて帰ってくる。
「……商売って面倒だな」
今さらだけど。
◇ ◇ ◇
翌日、紙を持ってハンスの店へ行った。
「何だこれは?」
「成人した後に、町の外でも商売しようと思って」
「ほう」
「考えたら面倒なことがいっぱい出てきた」
「それで?」
「ハンスなら何とかしてくれるかなって」
「帰れ」
「早いよ!」
笑われながら、紙を見せる。
ハンスは一通り読んでから、机に置いた。
「別に間違ってはいない」
「じゃあできる?」
「できるかどうかと、一人でできるかどうかは別だ」
「一人で?」
「お前は商品を考えるのは好きだろう」
「うん」
「売るのも嫌いじゃない」
「うん」
「荷物の数を確認して、宿を決めて、使った金を書いて、売れ残りを数えて、次の仕入れを考えて――全部毎回やりたいか?」
「……」
想像する。
嫌ではない。
できないとも思わない。
でも。
「面倒くさい」
「だろうな」
「でもベルクはやってるじゃん」
「あいつはそれが仕事だ」
「俺も仕事にするかもしれない」
「なら覚えればいい。ただ、お前が全部やる必要があるかは別の話だ」
そこで少し引っかかった。
「どういうこと?」
「商売が大きくなれば、一人で全部やっている奴の方が少ない」
「人を雇うってこと?」
「それも一つだな。誰かと組むこともある」
「組む……」
「今すぐ考える話じゃない。まず自分が何をしたいのか決めろ」
「そっか」
俺は紙を受け取った。
自分で町の外へ行く。
自分で商品を探す。
自分で売る。
そこまでは面白そうだ。
でも、そのために必要な細かいことを全部一人で抱えるのは、あまり面白そうじゃない。
「誰かと組む、か」
店を出ながら呟く。
何人か顔が浮かんだ。
父さんは工房がある。
ダリオもそう。
トーマは宿を継ぐつもりだ。
ベルクはすでに自分の商売をしている。
そして。
ラグナの中古道具屋で、値段と状態を見比べながら俺の買い物に口を出してくるやつもいる。
「……いや」
まだ早い。
そもそもカイルだって、成人した後どうするのか決めていない。
俺自身も同じだ。
まずは、自分が何をしたいのか。
そこから決めないとな。




