気づけば、成人が近づいていた
それからも、時間は思ったより早く過ぎていった。
ベルクがラグナへ向かうとき、都合が合えば俺もついていく。中古道具屋で条件の合う物があれば仕入れ、なければ何も買わない。
最初の頃みたいに、ラグナへ行くだけで何もかもが珍しく感じることはなくなっていた。見慣れた道も増え、宿の場所を確認する必要もない。ここへ来ること自体が、少しずつ日常に近づいていた。
「今日、何かある?」
「仕入れ?」
「いや、飯」
「ああ。店終わったら」
「じゃあこの前のところ行こう」
「また?」
「安いし」
カイルとも、そんな約束をするようになった。
店で会えば中古品を見る。でも、それだけじゃない。
何も仕入れない日でも一緒に飯を食べたり、ラグナの店を見て回ったりする。俺がリーネの話をして、カイルがラグナの話をすることも増えた。
いつの間にか、仕入れを手伝ってもらうために会う相手ではなくなっていた。
◇ ◇ ◇
リーネでの生活も、大きく変わったわけではない。
石鹸は俺が毎回動かなくても作られて、ハンスの店で売れている。カバンもダリオが必要な分を作り、白いソースはミラの店ですっかり定着した。
ベルクが町の外で白いソースの作り方を売る話も続いていたけど、俺が毎回ついていくわけではない。
俺が始めたものなのに、俺がいなくても回っている。
昔なら暇になったと考えたかもしれない。
今は、その空いた時間で町の外へ出るようになった。
「なんか増えたな」
机の上に紙を広げる。
石鹸。
カバン。
白いソース。
中古品の仕入れ。
全部を自分で作っているわけじゃない。それでも少しずつ金が入ってくる。
だったら、確認しておくものがある。
「久しぶりに数えるか」
三つの財布を机に並べた。
◇ ◇ ◇
まず、貯金。
十四歳になったときは4,900リルだった。
それから石鹸の取り分や、町の外の商売で入った金の一部を少しずつ移している。
「5,380リル」
増えている。
480リル。
「……悪くない」
100万リルまでは、まだ994,620リルあるけど。
そこは考えないことにした。
次に仕事用。
前に数えたときは650リルで、その後いろいろ使って、仕入れを始めた頃は642リルだった。
中古品で大きく儲かったわけではない。それでも、小さな利益を積み重ねながら、他の仕事からも少し足している。
「701リル」
こっちも増えた。
そして最後。
自由に使う金。
「……」
数える。
もう一回数える。
「96リル」
十四歳になったときは181リルあった。
途中で少し足している。
なのに減っている。
「おかしいな」
いや、おかしくはない。
ラグナへ行けば飯を食う。
気になる物も買う。
リーネでも普通に使っている。
全部覚えているかと聞かれたら、かなり怪しい。
「でも、貯金は増えてるし」
三つに分けた意味はちゃんとある。
自由に使う金が減っても、貯金には手を出していない。
仕事用にも手を出していない。
つまり、この仕組みは成功している。
「……俺に自由に使わせると減るってこと以外は」
そこだけは、十四歳になっても変わっていなかった。
◇ ◇ ◇
「あとどれくらいだっけ?」
夕食のとき、母さんに聞いた。
「何が?」
「俺が成人するまで」
母さんが少し考える。
「もう数ヶ月ね」
「そんな近い?」
「自分の年齢でしょう?」
「分かってるけど」
十四歳になったときは、あと一年あった。
その間にエルダへ行ったり、ラグナへ何度も行ったり、カイルと知り合ったり、中古品を仕入れてみたり。
気づけば、その一年もかなり減っている。
「成人したら、何か変わる?」
「急に別人にはならないわよ」
「そうじゃなくて」
「自分でできることは増えるでしょうね。でも、その分、自分で決めることも増えるわ」
父さんも食事をしながら頷いた。
「仕事を選ぶのも、町を出るのも、お前次第になる」
「町を出るのも?」
「今だって絶対に駄目とは言わんが、成人した後まで父親の許可を取る必要はないだろ」
「ああ……」
その言葉で、ふと思い出した。
カイルも同じだ。
あいつも成人したら、あの店に残るのか、別のことをするのか決める。
前に聞いたときは、まだ分からないと言っていた。
「どうしたの?」
「いや。なんでもない」
俺は食事を続けた。
成人まで、あと数ヶ月。
前は遠くにあると思っていた十五歳が、いつの間にかすぐそこまで来ていた。
そしてたぶん。
十五歳になったら、今までと同じことだけを続けるわけでもない。
何をするかは、まだ決めてないけど。
それを考える時間は、そろそろ始めてもよさそうだった。




