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転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


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16/264

売れるなら、もっと作ればいい

注文。


 二個。


 売上予定。


 10リル。


「…………」


 嬉しい。


 ものすごく嬉しい。


 でも。


 俺は庭に置かれた木型を見ていた。


 一個。


「足りない」


 今までは。


 一個作る。


 様子を見る。


 また一個作る。


 それでよかった。


 試作品だったから。


 でも。


 売れる。


 それも。


 少しずつ注文が増えている。


「だったら」


 答えは簡単だ。


「もっと作ればいい」


 問題。


 どうやって?


     ◇ ◇ ◇


「父さん」


「やっぱり来たか」


「え?」


 工房へ入った瞬間。


 ガルドが言った。


「何?」


「昨日、お前がずっと型を見てたからな」


「…………」


 読まれている。


「何個欲しい?」


「とりあえず十個」


「多い」


「じゃあ五個」


「減らせばいいって話じゃねえ」


「作れない?」


「作れる」


「じゃあお願い」


「待て」


 ガルドが手を止める。


「なんで一個ずつ必要なんだ?」


「え?」


「石鹸、一個につき型一個なんだろ?」


「うん」


「面倒じゃないか?」


「…………」


 確かに。


 五個作る。


 型も五個。


 十個なら。


 十個。


 百個なら。


「百個……」


 工房が木型で埋まる。


「じゃあどうするの?」


「お前、最初は大きな箱で作って切ってただろ」


「うん」


「それじゃ駄目なのか?」


「大きさがバラバラになる」


「同じ大きさに切ればいいだろ」


「それが難しいんだよ」


 包丁で。


 なんとなく。


 この辺。


 そんな切り方をしていた。


 結果。


 大きい。


 小さい。


 斜め。


 欠ける。


 商品としては微妙。


「じゃあ」


 ガルドが端材を一つ持つ。


「切る場所を最初から決めればいい」


「どうやって?」


「印をつける」


「…………」


 あ。


「箱の大きさを決めて」


「おう」


「同じ位置に印をつけて」


「そこに合わせて切る」


「…………」


 できるじゃん。


 ものすごく。


 普通の方法で。


「父さん」


「なんだ?」


「天才?」


「お前が馬鹿なだけじゃないか?」


「それは言わない約束」


 俺。


 現代知識。


 現代知識。


 そればかり考えていた。


 でも。


 物を作ることに関しては。


 父さんの方が。


 圧倒的に先輩だ。


     ◇ ◇ ◇


「だったら」


 俺は木の板を持つ。


「一度に十個作れる箱とか作れる?」


「大きさは?」


「今の石鹸が十個分」


「それなら作れる」


「本当?」


「ただ」


 ガルドが言う。


「いきなり十個はやめとけ」


「なんで?」


「失敗したら?」


「…………」


 十個。


 全部。


 失敗。


 油。


 消える。


 金。


 消える。


「怖っ」


「まず五個くらいにしろ」


「はい」


 素直に従った。


 金が絡むと。


 俺は素直になれる。


     ◇ ◇ ◇


 ガルドが作ったのは。


 今までより横長の木箱だった。


 そして。


 箱の縁に。


 等間隔で小さな印がある。


「ここに合わせて切ればいい」


「おお……」


 単純。


 でも。


 使いやすい。


「あと」


 ガルドが。


 薄い木の板を出す。


「これは?」


「切るときの目安」


 石鹸の上に当てる。


 真っ直ぐ。


 切る位置が分かる。


「…………」


 すごい。


「父さん」


「なんだ?」


「これ売れるんじゃない?」


「何を?」


「この道具」


「石鹸作ってる奴がお前しかいないだろ」


「…………」


 確かに。


 市場。


 狭すぎる。


「とりあえず使ってみろ」


「うん」


 新しい型。


 材料。


 天秤。


 記録用の木板。


 並べる。


「…………」


 なんか。


 工房っぽくなってきた。


 庭だけど。


     ◇ ◇ ◇


 作る。


 今までの記録を見る。


 天秤で量る。


 材料を準備する。


 少量ずつ試してきた。


 その中で。


 一番安定していた組み合わせを使う。


 もちろん。


 完全じゃない。


 この世界の材料は。


 毎回同じとも限らない。


 灰だって。


 油だって。


 状態が違う。


 だから。


 様子を見ながら。


 慎重に。


「…………」


 今までより多いな」


 当たり前だけど。


 ちょっと緊張する。


 失敗したら。


 一個じゃない。


 五個分。


「金……」


 材料が。


 銅貨に見えてきた。


「絶対失敗したくない」


 慎重になる。


 混ぜる。


 確認する。


 型へ。


「よし」


 あとは待つ。


     ◇ ◇ ◇


 数日後。


「…………」


 固まっている。


「来た」


 型から外す。


 横長の塊。


 ガルドがつけてくれた印。


 それに合わせる。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 四つ。


 五つ。


「おお……」


 並べる。


 五個。


 大きさ。


 ほぼ同じ。


 形。


 今までより揃っている。


「商品だ」


 これ。


 完全に。


 商品だ。


「父さん!」


「なんだ!」


「来て!」


「今仕事中だ!」


「いいから!」


「よくねえよ!」


 結局。


 来てくれた。


「見て」


「おお」


「五個」


「できたな」


「全部同じくらい」


「そりゃそのために作ったからな」


「もっと喜んでよ」


「俺が作った道具だぞ」


「そうだった」


 ガルドが一個を見る。


「前より綺麗になったな」


「でしょ?」


「これなら売り物っぽい」


「母さんにも同じこと言われた」


 両親。


 評価基準が似ている。


「父さん」


「ん?」


「ありがとう」


「おう」


「これでいっぱい作れる」


「調子に乗るなよ」


「大丈夫」


「お前の大丈夫は信用できん」


 ひどい。


 でも。


 反論しづらい。


     ◇ ◇ ◇


 五個。


 うち。


 二個は予約分。


 ミラに渡す。


「できたよ」


「早かったわね」


「生産体制を改善した」


「…………」


「何?」


「本当に八歳?」


「八歳です」


 最近。


 何回目だ。


 これ。


「二個で10リルね」


 ミラから。


 銅貨十枚。


「ありがとう」


 革袋へ。


 所持金。


 29リル。


「…………」


 増えた。


 前回。


 19リル。


 そこから。


 10リル。


「いいね」


 そして。


 手元には。


 まだ三個。


 一個5リル。


 全部売れれば。


 15リル。


「…………」


 44リル。


 見えてきた。


 50リル。


 少し前まで。


 1リル稼ぐために。


 父さんの工房を掃除していた。


 それが。


 今。


 一度に五個の商品を作れる。


「レイン」


「ん?」


「その残りも売るの?」


「もちろん」


「じゃあ一個置いてく?」


「ここに?」


「欲しいって人が来たら売れるでしょ」


「…………」


 俺はミラを見る。


 パン屋を見る。


 毎日。


 人が来る。


 俺より。


 圧倒的に。


 客が来る。


「置いてく」


「じゃあ預かる」


「待って」


「何?」


 大事なこと。


「売れたら、ミラはいくら?」


「え?」


「手数料」


「てすうりょう?」


「ここで売ってもらうんだから」


 無料で。


 ずっと。


 というわけにはいかない。


 果実の皮も。


 取っておいてもらっている。


 石鹸も。


 客に紹介してくれている。


「一個売れたら……」


 考える。


 5リル。


 そこから。


 ミラに。


「1リル?」


「くれるの?」


「うん」


「いいの?」


「その代わり売って」


 ミラが笑った。


「いいわよ」


 決まり。


 俺がいなくても。


 商品が売れる。


「…………」


 待て。


 これ。


 かなり大きくない?


 俺は八歳。


 一日中。


 市場で店番なんてできない。


 でも。


 パン屋に置いてもらえば。


 ミラが売ってくれる。


 売れたら。


 1リル。


 俺には。


 4リル。


 もちろん。


 そこから材料費は引かれる。


 それでも。


「…………」


 いける。


 なんか。


 また一歩。


 進んだ気がする。


「じゃあ三個置いてく」


「全部?」


「うん」


「売れなかったら?」


「…………」


 考えてなかった。


「そのときは持って帰る」


「分かった」


 店の端。


 邪魔にならない場所に。


 清めの石鹸。


 三個。


 並ぶ。


「…………」


 パン屋なのに。


 石鹸。


 違和感。


 すごい。


「大丈夫かな?」


「今さら?」


 ミラが笑う。


「もうみんな、うちで聞いてくるわよ」


「石鹸を?」


「そう」


「…………」


 いつの間に。


 俺の知らないところで。


 ここ。


 石鹸屋にもなってない?


     ◇ ◇ ◇


 翌日。


 パン屋へ行った。


「ミラ」


「レイン」


「売れた?」


「一個」


「もう!?」


 昨日置いた。


 今日。


 一個。


「はい」


 ミラが。


 銅貨四枚を渡してくる。


「私の1リルは引いたわよ」


「…………」


 4リル。


 何もしていない。


 昨日。


 商品を置いた。


 今日。


 来たら。


 4リル。


「…………」


 すごい。


 これ。


「俺がいなくても金が増える」


「言い方が嫌ね」


「でもそうじゃん」


 商品を作る。


 置く。


 売ってもらう。


 金が入る。


「…………」


 前世で。


 働かずに金が入ってくる生活。


 何度。


 夢見ただろう。


「これだ」


「何が?」


「俺が求めてた生活」


「石鹸作ってるじゃない」


「…………」


 そうだった。


 まだ。


 全然働いていた。


 でも。


 いい。


 方向は合ってる。


 俺は受け取った4リルを革袋へ入れる。


 所持金。


 33リル。


 残り。


 二個。


「もっと作ろう」


 売れるなら。


 もっと作る。


 もっと置く。


 もっと売る。


 そして。


 もっと貯める。


 単純だ。


 ものすごく。


 単純。


 ただ。


 このときの俺は。


 まだ気づいていなかった。


 石鹸を増やすということは。


 当然。


 必要な油も増えるということに。


 そして。


 油の値段は。


 俺の都合に合わせて。


 安くなってはくれない。

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