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転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


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15/264

なんか、勝手に広まってない?

貯金。


 14リル。


「…………」


 俺は革袋を持ち上げた。


 ちゃり。


 音がする。


「いい音だ」


 少し前まで。


 0リル。


 本当に何もなかった。


 それが。


 14リル。


 しかも。


 昨日は9リルの香油を買わなかった。


「俺、変わったな……」


 前世の友人たちに見せてやりたい。


 欲しい物を我慢して。


 金を残した俺を。


 たぶん。


『たった9リルで何言ってんだ』


 と言われるだろうけど。


 俺にとっては大事件だ。


「さて」


 次は。


 香りつきの清めの石鹸を。


 もう少し作る。


 ミラが5リルで買った。


 一人だけ。


 これでは。


 本当に5リルで売れる商品なのか。


 まだ分からない。


「最低でも何人かに売ってみたいな」


 そのために。


 作る。


 そして。


 売る。


 地道に。


 100万リルまで。


 あと――。


「数えない」


 学習済み。


     ◇ ◇ ◇


 朝食を終えて。


 庭へ出ようとしたときだった。


 扉を叩く音。


「はーい」


 エレナが出る。


 少しして。


「レイン」


「なに?」


「お客さん」


「俺に?」


 誰?


 八歳児に客?


 玄関へ行く。


 そこにいたのは。


 知らない女性だった。


 三十歳くらいだろうか。


 買い物籠を持っている。


 レインの記憶を探す。


「…………」


 知らない。


「あの」


 女性が俺を見る。


「あなたがレイン君?」


「そうですけど」


「石鹸を作ってるって聞いて」


「…………」


 え?


「どこで?」


「パン屋のミラちゃんから」


「ああ」


 ミラ。


 宣伝してくれた?


「一個欲しいんだけど」


「…………」


 客だ。


 向こうから来た。


「あります!」


 即答した。


 でも。


「…………」


 ない。


 昨日の試作品。


 ミラに売った。


 残り。


 家で使っている分だけ。


「ごめんなさい。今、売れるのがないです」


「あら」


「作ればあります」


「どれくらい?」


「数日」


「じゃあお願いできる?」


「はい!」


「5リルよね?」


「はい!」


 女性は。


「じゃあ、できたらパン屋に預けておいてくれる?」


「分かりました」


「お願いね」


 帰っていった。


「…………」


 俺は扉を閉める。


 エレナを見る。


 エレナも俺を見る。


「母さん」


「なに?」


「今の」


「ええ」


「俺、何もしてないよね?」


「何が?」


「売りに行ってない」


「向こうから来たわね」


「…………」


 すごい。


 これ。


「商売じゃん」


「今さら?」


 母さん。


 最近ちょっと厳しくない?


     ◇ ◇ ◇


 予約。


 一個。


 5リル。


「よし」


 作ろう。


 材料を確認する。


 油。


 ある。


 灰。


 ある。


 果実の皮。


「…………」


 ない。


「母さん」


「今度はなに?」


「果物食べない?」


「急ね」


「皮が欲しい」


「そっち?」


「うん」


 エレナが呆れた顔をする。


「市場で買ってくれば?」


「…………」


 買う。


 果物を。


 皮のために。


「いくら?」


「物によるけど」


 前に市場で見た。


 リンゴっぽい果物なら。


 三個で3リル。


 でも。


 欲しいのは。


 あの柑橘っぽい皮。


「ちょっと見てくる」


 市場へ向かった。


     ◇ ◇ ◇


 果物屋。


「あった」


 黄色い果実。


 母さんが料理に使っていた物。


「これいくら?」


「二個で3リルだよ」


「…………」


 高い。


 いや。


 買えないわけじゃない。


 所持金。


 14リル。


 二個。


 3リル。


 残り11リル。


 問題は。


 俺が欲しいのは皮。


 中身ではない。


「皮だけ売ってくれません?」


「は?」


 店のおばさんが。


 すごい顔をした。


「皮?」


「うん」


「何するの?」


「石鹸作る」


「…………」


 説明するのが面倒になってきた。


「とにかく皮が欲しい」


「皮だけって言われてもねえ」


 そりゃそうだ。


 普通。


 果物は。


 皮付きで売る。


「…………」


 待て。


 捨てる場所。


 果物を使う店。


「パン屋」


 俺は走った。


     ◇ ◇ ◇


「ミラ!」


「何?」


「果物の皮ある?」


「挨拶くらいしなさいよ」


「おはよう」


「はい、おはよう」


「果物の皮ある?」


「結局それなのね」


 事情を説明する。


 香りつきの石鹸。


 果実の皮を使っていること。


 そして。


 また注文が入ったこと。


「誰?」


「名前聞くの忘れた」


「駄目じゃない」


「パン屋に預けてって言ってた」


「ああ。たぶんセラさんね」


「知ってる?」


「うちのお客さん」


 やっぱり。


 パン屋経由。


「それで皮」


「ちょっと待って」


 ミラが店の奥へ行く。


 しばらくして。


 小さな籠を持って戻ってきた。


「これ?」


「それ!」


 果実の皮。


 いくつか入っている。


「もらっていい?」


「捨てるやつだからいいけど」


「無料?」


「お金欲しいなら取るけど?」


「無料でお願いします」


「現金ね」


 最高。


 原価。


 0リル。


 いや。


 油とかはかかる。


 でも香りの部分は。


 0リル。


「これ、毎日出る?」


「毎日じゃないけど。パンや焼き菓子に使うときは」


「捨てる?」


「捨てるわね」


「全部欲しい」


「全部?」


「うん」


 ミラが俺を見る。


「そんなに石鹸作るの?」


「これから作る」


「売れるの?」


「…………」


 分からない。


 でも。


 注文は来た。


 しかも。


 向こうから。


「たぶん」


「またそれ」


 ミラが笑う。


「じゃあ取っておく」


「ありがとう!」


「その代わり」


「え?」


「今度、石鹸一個ちょうだい」


「…………」


 無料じゃなかった。


「5リル分?」


「毎回皮を取っておくなら、それくらいいいでしょ?」


 考える。


 今後。


 継続的に。


 香りの材料が手に入る。


 果実を買えば。


 二個で3リル。


 それが何回分も。


「…………」


 安い。


「いいよ」


「決まりね」


 取引成立。


 なんか。


 こういうのも。


 商売っぽい。


     ◇ ◇ ◇


 数日後。


 新しい石鹸ができた。


 形を整え。


 香りも確認。


「よし」


 前より。


 作るのにも慣れてきた。


 失敗も減った。


 完成した物を持って。


 パン屋へ。


「ミラ」


「来た」


「セラさんの分」


「預かる」


 石鹸を渡す。


「それと」


「なに?」


 ミラが。


 銅貨を出す。


 5リル。


「セラさんから預かってる」


「おお」


 受け取る。


 所持金。


 19リル。


「…………」


 いい。


 増えてる。


「あと」


「まだあるの?」


「ある」


 ミラが指を二本立てる。


「二個」


「何が?」


「石鹸」


「…………」


「欲しいって」


「誰が?」


「お客さん」


「また?」


「セラさんが話したみたい」


「…………」


 待て。


 ミラ。


 ミラのお母さん。


 近所の人。


 セラさん。


 セラさんから。


 別の人。


「なんか」


「なに?」


「勝手に広まってない?」


「いいことじゃない」


「いいことだけど」


 ちょっと怖い。


 俺。


 まだ。


 市場に店すら出してない。


 看板もない。


 広告もない。


 なのに。


 客が増えている。


「二個ね」


「一個5リルって伝えてある」


「買うって?」


「うん」


 二個。


 10リル。


「…………」


 俺の頭の中で。


 計算が始まる。


 二個。


 10リル。


 十個なら。


 50リル。


 百個なら。


 500リル。


 千個なら。


 5,000リル。


「…………」


 前より。


 数字が大きい。


「レイン?」


「何?」


「顔、怖いわよ」


「金の計算してた」


「八歳の顔じゃない」


 失礼な。


 俺は八歳だ。


 中身は三十過ぎだけど。


     ◇ ◇ ◇


 家へ帰る。


 注文。


 二個。


 嬉しい。


 ものすごく。


 嬉しい。


 でも。


 庭に置いてある。


 小さな木型を見る。


「…………」


 一度に。


 そんなに作れない。


 今は。


 少量ずつ。


 試しながら作っている。


 二個。


 三個。


 その程度ならいい。


 でも。


 十個。


 二十個。


 もし注文が増えたら?


「…………」


 作れない。


 売れるかどうかばかり。


 考えていた。


 売れなかったらどうしよう。


 そればかり。


 でも。


 逆もある。


「売れたら、どうすんだ?」


 作る場所。


 道具。


 材料。


 時間。


 全部。


 足りない。


「…………」


 商売。


 問題なくならないな。


 一個解決すると。


 次が出てくる。


 俺は小さな木型を見つめた。


「父さん」


 また。


 お願いすることが。


 増えそうだった。

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