今度は、ちゃんと残った
ラグナからリーネへ戻った翌日、俺は仕入れた物を持ってダリオの工房へ向かった。
今回は全部で7リル。前回と違って、修理して鞄として売るつもりはない。
狙いは最初から金具だ。
「どう?」
作業台に二つの古い鞄を置く。
ダリオは返事をする前に、一つずつ金具を外して確認し始めた。
「前よりいいな」
「本当?」
「ああ。これは使える。こっちも問題ない」
留め具を動かしたり、輪の歪みを見たりしながら、使える物と使えない物を分けていく。
俺も横から覗き込んだ。
「それは?」
「使える」
「こっちは?」
「これは少し削れてるな。使えなくはないが、俺なら買わん」
「ああ、それ迷ったやつだ」
「なら次は外せばいい」
前回みたいに、持ち帰ってから初めて状態の悪さに気づいたわけじゃない。
迷った物が一つあったくらいで、ほとんどは狙った通りだった。
「で、いくら?」
「全部まとめてなら、10リルでどうだ?」
「10リル?」
「嫌なら持って帰れ」
「売る売る」
即答した。
7リルで仕入れて、10リルで売れた。
3リル残った。
「……利益出た」
「そりゃよかったな」
「初めてだよ」
「お前、普段から物売ってるだろ」
「そうじゃなくて!」
作った物でもない。
考えた商品でもない。
別の町で安く仕入れて、必要としている人のところへ持ってきただけ。
それで金が増えた。
「これ、ちゃんと商売じゃん」
「だから最初からそう言ってるだろ」
ダリオに笑われた。
でも俺にとっては結構大きい。
前回は13リル使って13リル戻った。
今回は7リル使って10リル戻った。
少ないけど、前に進んでいる。
◇ ◇ ◇
家へ戻って、仕事用の金を数え直した。
ラグナへ行く前は642リル。
7リル使って、10リル戻ったから645リル。
「増えたな」
たった3リル。
石鹸や白いソースの作り方を売ったときと比べれば、小さい。
それでも、今回の3リルはちょっと嬉しかった。
紙にも結果を書いておく。
『仕入れ7リル』
『売却10リル』
『利益3リル』
その下に、もう一つ。
『カイルと選んだ』
前回も一緒に見てもらった。
ただ、そのときは俺もカイルも、リーネで何が売れるのか分かっていなかった。
今回は違う。
ダリオに欲しい物を聞いて、状態の基準を教えてもらい、それをカイルにも伝えた。
俺一人でラグナを歩いていたら、たぶん同じ7リルの使い方にはならなかったと思う。
「……あいつ、中古品見るの上手いんだよな」
当たり前といえば当たり前だ。
ずっと中古道具屋を手伝っているんだから。
次にラグナへ行ったら、結果を教えてやろう。
◇ ◇ ◇
それから、ラグナへ行く機会は何度かあった。
毎回同じように中古品を買ったわけじゃない。条件に合う物がなければ何も買わなかったし、数リル分だけ仕入れて帰ることもあった。
カイルも、最初みたいに一から説明することはなくなった。
「金具は?」
「こっち。昨日入った」
「状態は?」
「半分くらいは使えそう」
「値段は?」
「それはオルドに聞いて」
「そこまで教えてよ」
「俺が勝手に決めたら怒られる」
そんなやり取りが普通になった。
逆に俺がリーネで何が売れたのかを話すと、カイルも次からそれを覚えている。
「前に持っていった細い留め具、売れた?」
「ダリオはいらないって」
「じゃあこれは外すか」
「うん」
俺がリーネ側の需要を見る。
カイルがラグナ側で品物を見る。
まだ一緒に商売をしているわけじゃない。
俺がラグナへ来たときだけ、少し手伝ってもらっているだけだ。
それでも、最初に一人で中古品を見ていた頃より、明らかに外れは減っていた。
◇ ◇ ◇
季節が少し進んだ頃。
いつものように店へ顔を出すと、カイルが店先で木箱を整理していた。
「お、来た」
「その反応、最初と全然違うな」
「何回目だと思ってるんだよ」
「分かんない」
「俺も」
もう数えるのをやめていた。
俺は店先にしゃがみ込み、カイルが分けている道具を見る。
「これ新しい?」
「三日前に入った」
「こっちは?」
「それはやめとけ。壊れてる」
「まだ何も言ってないけど」
「買おうとしただろ」
「見てただけ」
「手に取ってた」
戻す。
壊れているなら仕方ない。
「最近、先に止めるようになったよな」
「どうせ聞くから」
「俺が買うとは限らないだろ」
「この前も似たようなこと言って買ったじゃん」
「……あれは使えたからいいんだよ」
カイルが笑う。
俺も笑いながら、次の箱を覗き込んだ。
ラグナへ来る目的は、ベルクの仕事についていくこと。
町を見ること。
仕入れをすること。
最初はそれだけだった。
でも最近は、ここへ来ればカイルがいるというのも、少しだけその中に混ざっている。
友達なのかと聞かれたら。
今なら、前ほど否定する理由はなかった。




