こっちは、使っていい金だから
中古道具屋を出た時点で、今回の仕事はほとんど終わったような気分だった。
仕入れ予算15リルのうち、使ったのは7リルだけ。条件に合わない物を無理に買わず、残り8リルをちゃんと持って店を出た。
前回より明らかに成長している。
「さて」
あとは自由時間だ。
ベルクとは夕方に宿で合流することになっている。それまでまだ時間はあるし、せっかくラグナまで来たんだから町を見て回ろう。
もちろん、無駄遣いをするつもりはない。
ただ。
自由に使うために持ってきた40リルは、一枚も使っていなかった。
「……こっちは使っていい金だからな」
誰に言うでもなく確認してから、俺は大通りへ向かった。
◇ ◇ ◇
最初に買ったのは、串に刺した肉だった。
通りを歩いていると、焼けた肉の匂いがしてきた。それだけなら通り過ぎられたと思う。
問題は、見たことのない赤いタレが塗られていたことだ。
「それ、何の味?」
「香辛料と果物を煮たタレだよ。一本2リル」
食べたことがない。
なら、仕方ない。
「一本ください」
2リル。
一口食べると、最初に甘さが来て、その後から少し辛い。
「うまっ」
買って正解だった。
これは浪費じゃない。
昼飯だ。
……昼飯は宿でも食べられるけど、旅先の料理を知るのも大事だろう。
残り38リル。
◇ ◇ ◇
次に立ち止まったのは、旅人向けの雑貨を並べている露店だった。
小さな布袋や紐、簡単な食器に混じって、細長い革の帯が置かれている。
「これ何?」
「荷物をまとめる帯だよ。締めて固定するんだ」
実際に使って見せてもらう。
袋を二つ重ねて革帯を回し、金具で留める。かなりしっかり固定された。
「便利だな」
「旅するなら一本あると使えるよ。4リル」
4リル。
俺も町の外へ出ることが増えている。
荷物だって増える。
「一本ください」
これは必要な物だ。
少なくとも串肉よりは必要だと思う。
残り34リル。
◇ ◇ ◇
その次は飲み物だった。
歩いていたら喉が渇いた。
1リル。
これは仕方ない。
残り33リル。
その次に、小さな焼き菓子を見つけた。
リーネでは見たことのない形だった。
三個で2リル。
自分で一個食べて、残りは家への土産にすればいい。
残り31リル。
「まだ全然あるな」
40リル持ってきて、使ったのは9リル。
しかも全部ちゃんと理由がある。
問題ない。
◇ ◇ ◇
少し細い通りへ入ったところで、今度は古着を並べている店を見つけた。
中古道具屋には何度も行っているけど、服をちゃんと見るのは初めてだった。
「へえ……」
旅人が売っていった物も多いらしい。
厚手の上着や帽子、腰に巻く布。リーネで普段見る物とは少し形が違う物もある。
その中で、濃い色の上着が目に入った。
丈は短めで、動きやすそうだ。
「それなら9リルだよ」
「9リルか」
着てみる。
少し大きいけど、悪くない。
今持っている服で困っているわけではない。
でも町の外へ出ることは増えた。
少しくらい丈夫な上着があっても――。
「……いや」
脱いだ。
「やめときます」
「あら、そう?」
「はい」
危ない。
今のは完全に欲しかっただけだ。
俺は店を出た。
「よし」
ちゃんと我慢できた。
やっぱり今日は調子がいい。
◇ ◇ ◇
その直後。
別の店で、腰につけられる小さな革の入れ物を見つけた。
「……これいいな」
小銭を入れるには少し大きい。
紙や小さな道具を入れるにはちょうどいい。
値段は5リル。
俺はすでに鞄を持っている。
ラグナで4リルの革袋を買ったこともある。
家には父さんからもらった仕切り付きの箱もある。
「……でも腰につけられるんだよな」
便利だ。
鞄を開けなくてもすぐ取り出せる。
町の外へ出るなら、こういう小物入れが一つくらいあってもいい。
「これください」
5リル。
残り26リル。
さっき9リルの上着を我慢したんだから、それより安い。
むしろ4リル節約したとも言える。
……いや、言えないか。
◇ ◇ ◇
夕方まで町を歩き、宿へ戻った。
部屋に荷物を置いてから、今日使った金を確認する。
まず仕事用。
持ってきた80リルから、仕入れに7リル。
残り73リル。
「完璧」
問題はない。
次に自由に使う金。
袋の中身を机に出す。
「……26リル」
最初は40リルだった。
つまり14リル使った。
「そんな使った?」
一つずつ思い出す。
串肉2リル。
荷物をまとめる革帯4リル。
飲み物1リル。
焼き菓子2リル。
腰につける小物入れ5リル。
合計14リル。
「……合ってるな」
一個一個は高くない。
上着だって我慢した。
なのに、気づけば仕入れに使った7リルの倍を使っている。
仕事ではあれだけ値段を確認して、状態を見て、売る相手まで考えた。
5リルの道具すら条件に合わなければ買わなかった。
その数時間後。
自分の物には14リル使っていた。
「いや、でも自由に使う金だし」
そのために分けている。
貯金には触っていない。
仕事用の金にも手を出していない。
だから何も悪くない。
……悪くはない。
俺は今日買った小物入れを腰につけてみた。
「うん。便利」
やっぱり買って正解だった。
たぶん。
少なくとも、6リルの筒よりは。




