今回は、買う物を決めてきた
四回目のラグナともなると、到着したときの感動はさすがに薄くなっていた。
宿も道も、よく使う店の場所も分かる。最初は町全体が知らない場所だったのに、今では大通りを歩きながら別のことを考えられるくらいには慣れた。
そして今回、向かう場所も最初から決まっている。
「来たよ」
中古道具屋へ入ると、棚の整理をしていたカイルが振り返った。
「また来た」
「もう少し歓迎してくれてもよくない?」
「いらっしゃいませ」
「急に店員になるなよ」
「客なんだろ?」
「そうだけど」
前より明らかに雑になっている。
まあ、俺もこっちの方が話しやすいけど。
「今日はちゃんと決めてきたから」
「何を?」
「仕入れ」
「ああ。前のやつどうだった?」
そうだった。
まずは結果を伝えないといけない。
「全部合わせて利益ゼロ」
「駄目だったんじゃん」
「違う。損もゼロ」
「それ儲かってないだろ」
「最初なんだからいいんだよ」
俺は前回買った物がどうなったのかを説明した。
2リルで買った鞄は、金具の状態が良くて当たり。4リルで買った二つは、使えない金具も混ざっていて外れ気味。
3リルの革鞄は修理して売れたけど、修理代まで考えるとほとんど利益が残らなかった。
「だから今回は修理して売る物は買わない」
「へえ」
「あと、金具は削れてないか見る。変形してるのも駄目」
「へえ」
「予算は15リル」
「……どうしたの?」
「なんだよ」
「前よりちゃんとしてる」
「前もちゃんとしてたよ」
「80リル持ってきて、店に来てから20リルまでって決めた人が?」
「今回は出発前に決めたから!」
そこはちゃんと違う。
紙まで見せると、カイルが笑った。
「本当に書いてある」
「疑ってたの?」
「ちょっと」
「失礼だな」
今回は自信がある。
何を買うか。
誰に売るか。
いくらまで使うか。
全部決めてきた。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、金具から見る?」
「うん」
前回と同じように、売り物にならない鞄が置かれている場所へ向かう。
ただし今回は、鞄そのものより金具を見る。
「これは?」
「待って」
俺は留め具を何度か動かした。
ちゃんと動く。
次に可動部分を見る。
「……ちょっと削れてる?」
「削れてるね」
「じゃあやめる」
「早いな」
「今回は基準があるから」
次。
革はボロボロだけど、金具は綺麗な鞄。
「これは良さそう」
「俺もそう思う」
「いくらだろ」
「オルドに聞いてみる?」
「聞こう」
売り場へ持っていく。
オルドさんは鞄を見ると、すぐに値段を出した。
「3リルでいいぞ」
金具は大きな留め具が二つ。
輪になった物が三つ。
他にも小さな部品が残っている。
「買う」
「決めるの早いね」
「これはダリオが使うって言ってた種類だから」
3リルを払う。
残り12リル。
今回はちゃんと、買う前から売る相手が見えている。
「次」
「楽しそうだね」
「そりゃ楽しいよ」
安い物を見つけるだけじゃない。
条件に合う物を探して、その中から使える物を見つける。
なんだか宝探しみたいだ。
◇ ◇ ◇
二つ目は、なかなか見つからなかった。
金具が良くても値段が高かったり、安くても状態が悪かったりする。
「これ、5リルならどう?」
カイルが持ってきたのは、かなり古い旅鞄だった。
「金具多いな」
「七個ある」
一緒に状態を見る。
二つは少し怪しい。
でも残り五つは悪くない。
「5リル……」
一個1リル。
ダリオが言っていた基準には収まる。
「買う?」
「ちょっと待って」
俺はもう一度確認する。
削れ。
変形。
動き。
「これとこれは駄目そう」
「うん」
「残り五個なら……」
5リル。
ちょうど一個1リル。
ダリオは「1リルより安く仕入れられるなら考える」と言っていた。
「やめる」
「買わないの?」
「これだと安くない」
「ああ」
「一個1リルより安くしたいんだよ」
「じゃあ、いくらなら買う?」
「4リルなら」
言ってから、オルドさんを見る。
「4リルにならない?」
「値切るのか?」
「5リルだと利益出なさそうだから」
オルドさんが鞄を見る。
「それなら4リルでいいぞ」
「いいの?」
「その状態じゃ長く置いても仕方ないからな」
「買います」
4リルを払う。
これで合計7リル。
予算は残り8リル。
「今のは良かったんじゃない?」
カイルが言う。
「だろ?」
「5リルなら買わなかった?」
「たぶん」
「たぶんなんだ」
「……買わなかった」
危ない。
ここは言い切っておこう。
◇ ◇ ◇
その後も店の中を見て回った。
狙っていた金具は、もう十分かもしれない。
合計7リル。
予算はあと8リル残っている。
「他に何かないかな」
「金具以外も見るの?」
「小さい道具なら見る」
「誰に売るか分かるやつだけ?」
「そう」
「じゃあこれは?」
カイルが棚の下から出したのは、小さな金属の道具だった。
先端が細く、持ち手がついている。
「何これ?」
「革に印つけるやつ」
「ダリオ使うかな」
「さあ」
「いくら?」
「6リル」
手に取ってみる。
状態はいい。
小さいから運ぶのも楽。
そして何より、なんとなく使えそうだ。
「……」
「欲しい?」
「ちょっと」
「誰に売るの?」
「ダリオ」
「買うって言ってた?」
「言ってない」
「じゃあ?」
「聞いてからの方がいいな」
棚へ戻す。
6リル。
前ならたぶん買っていた。
「買わないんだ」
「今回は金具を仕入れに来たから」
「小さい道具も見るって言ってなかった?」
「言ったけど、誰が買うか分からない物はやめる」
「へえ」
「なんだよ、その反応」
「いや。ちゃんと帰れそうだなと思って」
「俺を何だと思ってるんだよ」
カイルが笑う。
俺も少し笑った。
仕事用の80リルを持ってきた。
仕入れ予算は15リル。
今使ったのは7リル。
残り8リル。
でも、使わなくてもいい。
「今日はこれで終わりにする」
「まだ8リルあるよ?」
「余ったら持って帰る」
「前と言ってること違うじゃん」
「学んだんだよ」
言ってやった。
今回は本当に、前よりちゃんとできたと思う。
7リルで仕入れて、8リルを使わずに残した。
条件に合わない物も買わなかった。
これなら文句はないだろう。
「じゃあ、自由に使う方はいくら残ってるの?」
店を出ようとしたところで、カイルが聞いた。
足が止まる。
「……40リル」
「そっちは使ってないんだ」
「まだ」
「ふうん」
なんだ、その「まだ」って。
俺はちゃんと仕入れを終えた。
仕事用の金も守った。
自由に使う40リルは、仕事とは関係ない。
つまり。
この後の買い物には、何の問題もない。
……はずだ。




