次は、先に決めておこう
初めての仕入れが終わってから、俺は少しだけやり方を変えた。
ラグナで商品を見つけてから考えるんじゃない。リーネで何が必要とされているのかを先に調べて、それを探しに行く。
考えてみれば、当たり前の話だった。
「この前の金具なら、どれが一番欲しい?」
ダリオの工房で聞くと、作業中だったダリオが手を止めた。
「また仕入れるのか?」
「次にラグナへ行くときね」
「気が早いな」
「先に決めておいた方がいいって分かったから」
「それはそうだな」
前回持ち帰った金具をいくつか見せてもらう。
ダリオが特に使いやすいと言ったのは、鞄の紐を留める金具と、紐を通すための丈夫な輪だった。
「この辺なら使う機会は多い。状態が良くて、新しい物を買うより安いならな」
「どこを見ればいい?」
「ここだ」
ダリオが留め具の可動部分を指す。
「動けばいいってもんじゃない。何度も使われて削れてる物は避けろ。輪の方も、変形してるのはやめた方がいい」
「革は?」
「お前が持ってきたくらい古い物なら、無理して取らなくていい。使える革を探すなら、もっと状態のいい物を買った方が早い」
なるほど。
紙に書いていく。
金具。
削れを見る。
変形した物は避ける。
革は無理に狙わない。
「値段は?」
「そこまで俺に決めさせるのか?」
「買ってくれる値段が分からないと仕入れられないじゃん」
「まあ、それもそうか」
ダリオは少し考えた。
「物によるが、前に持ってきたようなのなら、一個1リルより安く仕入れられるなら考えてもいい」
「絶対買ってくれる?」
「状態を見てからだ」
「やっぱり?」
「中古なんだから当たり前だろ」
確約はしてくれないらしい。
でも、前回よりはずっといい。
少なくとも何を探せばいいかは分かった。
◇ ◇ ◇
数日後、ベルクがリーネへ戻ってきた。
次の旅の話を聞く前に、俺は前回の仕入れについて話してみる。
「13リル使って、13リル戻った」
「見事だな」
「利益ゼロなんだけど」
「損もしなかったんだろ?」
「まあ」
「最初ならそんなもんじゃないか?」
もっと笑われると思っていた。
「修理代が思ったよりかかった」
「だろうな」
「あと、店に置いてもらうなら、その店の利益も必要だった」
「そりゃそうだ」
「分かってたつもりだったんだけどな」
自分の商品をハンスに置いてもらうときだって、同じことは考えていた。
でも中古品を仕入れて売ろうとした途端、頭の中では「安く買って高く売る」だけになっていた。
「ベルクは仕入れる前に売る値段まで決めてる?」
「全部じゃない。行った先で見つける物もあるからな」
「じゃあ、どうするの?」
「分からない物には、出せる金を少なくする」
「ああ」
それなら分かる。
「売れるか分からない物に100リル使うのと、5リル使うのじゃ全然違うだろ?」
「確かに」
「絶対に当てるなんて無理だ。外したときに困らないようにする方が大事だな」
俺は紙に一行書き足した。
『分からない物ほど、少なく買う』
「それ、前に教えてくれればよかったのに」
「聞かれてないからな」
「教えてよ」
「自分でやって失敗した方が覚えるだろ?」
「利益ゼロだから失敗ではない」
「そういうことにしとくか」
なんか腹立つな。
◇ ◇ ◇
「それで、次はどこ行くの?」
「ラグナ」
「行く」
「まだ日も言ってないぞ」
「いつ?」
「八日後」
思ったより早い。
でも、今度は準備することがある。
「今回もついていっていい?」
「家で許可もらえ。俺は構わん」
「分かった」
「また中古品か?」
「今度はちゃんと利益出す」
「欲張るなよ」
「少しくらいは出したいよ」
利益ゼロを二回続けたら、さすがに何をしているのか分からない。
今度こそ、仕入れを商売にしたい。
◇ ◇ ◇
出発までの八日間で、俺は他にも少し聞いて回った。
ハンスには、ラグナから中古品を持ってくるなら何が置きやすいか。
父さんには、職人が中古でも欲しがりそうな道具はあるか。
ダリオには、もう一度金具の状態について確認した。
何でも買ってくるつもりはない。
今回狙うのは、まず鞄に使える金具。
次に、小さくて運びやすい道具。これは状態と値段が良くて、リーネで使う人が想像できる物だけ。
修理が必要な完成品は、今回は避ける。
「予算は……」
机の上で仕事用の金を数える。
642リル。
その中から今回持っていくのは、前と同じ80リル。
でも仕入れに使っていいのは、最初から決めておく。
「15リル」
前回は店に着いてから20リルと決めた。
今回は出発前に決めた。
狙う物も決めた。
売る相手の候補もいる。
紙にも大きく書いておく。
『仕入れ予算 15リルまで』
これならカイルにも文句は言われないだろう。
……いや、別にあいつに認めてもらう必要はないんだけど。
自由に使う金は、今回も40リルだけ持っていくことにした。
仕事用80リル。
そのうち仕入れは15リルまで。
自由40リル。
そして貯金には触らない。
「完璧だな」
前回より明らかに準備できている。
あとはラグナで、条件に合う物を探すだけだ。
問題があるとすれば。
15リルで何も見つからなかったとき、本当に何も買わずに帰れるかどうか。
「……帰れるだろ」
たぶん。
今回は、先に決めたんだから。




