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転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


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作らなくても、商売になる?

ラグナから戻って、十日ほど経った。


 ダリオに修理を頼んでいた革鞄は、すっかり使える状態になって戻ってきた。買った値段が3リル、修理代が4リルだから、ここまでで7リルかかっている。


 あとは、これが本当に売れるかどうかだ。


「ハンス、これ置いてもらえない?」


「中古か?」


「うん。ラグナで仕入れて、ダリオに直してもらった」


 ハンスは鞄を手に取り、紐や縫い目を確認する。


「悪くないな」


「10リルくらいで売れると思う?」


「売れなくはないと思うが……」


「が?」


「うちに置くなら、俺の取り分もいるぞ」


「あ」


 忘れていた。


 まただ。


「じゃあ、俺が直接売った方がいい?」


「相手を探せるならな」


「それが面倒だからハンスのところに来たんだけど」


「だったら、その面倒な部分の代金を払え」


「ですよね」


 商売って、どこに行っても誰かの取り分がある。


 当たり前なんだけど、自分でやってみるとよく分かる。


「いくらなら置いてくれる?」


「お前はいくら欲しい?」


「できれば9リル」


「それだと俺が10リルで売っても1リルしか残らん」


「じゃあ11リルで」


「中古に11リル出すかどうかだな」


「……難しいな」


 安く仕入れたつもりだった。


 でも修理代がかかって、売る場所にも金がかかる。


 これなら最初からもっと状態のいい物を仕入れた方がいいのかもしれない。


「試しなら、俺が8リルで買ってもいいぞ」


「8リル?」


「ああ。いくらで売るかはこっちで決める。それで売れなくても、お前には関係ない」


 7リルかかって、8リルで売る。


 利益は1リル。


「……少なっ」


「嫌なら自分で売れ」


「売ります」


「どっちだ?」


「ハンスに」


 即答した。


 1リルでも利益は利益だ。


 それに今回は、実際に売れるか確かめるための仕入れだった。


 俺は鞄を8リルでハンスに渡した。


 これで一つ。


 ラグナで買った物が、リーネで金になった。


     ◇ ◇ ◇


 次は部品取り用の鞄だった。


 ダリオには、使える金具だけを選んでもらっている。


「全部買ってくれる?」


「全部はいらん」


「やっぱり?」


「同じ物ばっかりあっても仕方ないからな」


 ダリオは金具を机の上に並べ、その中からいくつか選んだ。


「これと、これ。あとこの二つなら使う」


「いくら?」


「まとめて3リルでどうだ?」


 元になった鞄は2リル。


 まだ使えそうな金具も少し残る。


「売った」


「早いな」


「だって1リル増えるし、残りもあるから」


「なら決まりだ」


 3リルを受け取る。


 大した金額ではない。


 でも、こっちも利益は出た。


 残った金具は、次の鞄の試作や修理に使えるかもしれないから、仕事用として取っておくことにした。


     ◇ ◇ ◇


 最初に4リルで買った二つの鞄は、少し微妙だった。


 使えると思っていた金具の一部は傷んでいて、革も思ったほど残せなかった。


 それでもダリオが使える物だけ選び、2リルで引き取ってくれた。


「半分か……」


「いらない物まで買うわけにはいかんからな」


「分かってる」


 最初の4リルが2リルになった。


 2リルの赤字。


 その代わり、何を見ればいいのかは前より分かるようになった。


 全部合わせて考える。


 仕入れに9リル。


 革鞄の修理に4リル。


 使った金は合計13リル。


 戻ってきたのは、ハンスから8リル。ダリオから3リルと2リル。


 合計13リル。


「……あれ?」


 俺は紙の上でもう一度計算した。


 13リル使った。


 13リル戻った。


「利益、ゼロじゃん」


 綺麗なくらいゼロだった。


     ◇ ◇ ◇


「でも、損もしてないんだよな」


 家に戻ってからも、紙を眺める。


 正確には、まだ手元に使える金具が少し残っている。だから完全に何も増えていないわけではない。


 ただ、ラグナまで行って、品物を選んで、持って帰って、ダリオに見てもらって、修理してもらって、ハンスに持ち込んだ。


 そこまでやって、現金の利益はゼロ。


「行商人って大変なんだな……」


 ベルクが値段に細かい理由が、少しだけ分かった気がする。


 1リル、2リルの差でも、数が増えれば大きくなる。


 運ぶ量が増えれば荷物になるし、売れなければ金が商品になったまま戻ってこない。


 それでも。


 俺は紙の一番上に書いた。


『ラグナで買った物が、リーネで売れた』


 これは事実だ。


 今回は利益を出せなかったけど、町によって物の値段や必要とされる物が違うなら、そこに商売はある。


 しかも、自分で一から商品を作らなくてもいい。


「これ、ちゃんとやれば面白いかも」


 次は、仕入れる前に修理代まで考える。


 誰に売るかも先に決める。


 ダリオが欲しがる金具の種類も聞いておく。


 今回の失敗を減らせば、少しくらい利益は残せるはずだ。


 そして次にラグナへ行ったら、カイルにも結果を話す。


 2リルで買った鞄は当たり。


 4リルの方は外れ。


 3リルの鞄は、売れたけどほとんど儲からなかった。


 あいつなら、たぶん笑うだろう。


「次は利益出すからな」


 誰もいない部屋で呟く。


 仕事用の金は、結局642リルに戻った。


 増えてはいない。


 でも減ってもいない。


 初めての仕入れなら――まあ、悪くない。


 たぶん。

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