今度は、買う理由がある
回す道具をミラの店に売ってから、しばらくはリーネで過ごした。
石鹸や鞄のことを確認したり、父さんの工房を手伝ったり、トーマのところへ遊びに行ったり。町の外へ出るようになってからも、帰ってくればやることは意外と多い。
そんなある日、ハンスの店へ顔を出すと、ちょうどベルクが来ていた。
「お、いいところに来たな」
「また何かある?」
「なんで最初から何かある前提なんだよ」
「ベルクがいるから」
「まあ、あるんだけどな」
やっぱりあるじゃないか。
ベルクは笑いながら、荷物の横に置いていた紙を広げた。
「五日後にまたラグナへ行く。前に話した白いソースの件もあるし、向こうで仕入れたい物も出てきた」
「五日後?」
「ああ。今回は向こうで三日くらいだな」
ラグナ。
その名前を聞いて、最初に浮かんだのは中古道具屋だった。
カイルにも、あの25リルの道具がどうなったか話していない。
「行く」
「早いな」
「俺も行っていいんでしょ?」
「お前の親がいいって言うならな。もう道も宿も分かってるし、俺は構わん」
そこまで聞いて、俺は少し考えた。
前回までは、町を見たいという理由が大きかった。
今回は違う。
「ベルク、中古品って町をまたいで売ったりする?」
「するぞ」
「普通に?」
「普通にっていうか、物によるな。安く仕入れられて、運ぶ手間をかけても利益が残るなら」
「やっぱりそうだよね」
ラグナの中古道具屋には、旅人が手放した物が入ってくる。
リーネではあまり見かけない物もあった。
だったら、ラグナで安く買ってリーネで売れる物もあるんじゃないか。
「何だ。また買い物する気か?」
「仕入れ」
「言い方変えただけじゃないだろうな」
「今回はちゃんと考えてるって」
ベルクが怪しそうに俺を見る。
失礼な。
俺だって前回の経験から学んでいる。
「いきなりいっぱい買わない。少しだけ買って、リーネで売れるか試す」
「それならまあ、商売としては普通だな」
「でしょ?」
「何を買うか決まってるのか?」
「まだ」
「誰に売る?」
「まだ」
「いくらで売れる?」
「……まだ」
ベルクが黙った。
「だから、それをラグナで探すんだよ」
「順番だけは間違えるなよ」
「分かってる」
買ってから考えるんじゃない。
売れそうな物を探して、値段を見て、リーネでいくらなら売れそうか考える。
それから買う。
完璧だ。
◇ ◇ ◇
家に戻って両親に話すと、今回も許可はすぐに出た。
前と同じベルクとの旅で、行き先もラグナ。宿も分かっているし、前回きちんと帰ってきたことも大きいらしい。
「今度は何買ってくるの?」
母さんが聞いてくる。
「まだ決めてないよ」
「その方が怖いんだけど」
「今回は仕入れだから」
「前も仕事用のお金で道具買ってなかった?」
「あれはちゃんと使えたよ」
「ミラちゃんのところに売ったんでしょ?」
「そう。20リルで」
「いくらかかったの?」
「……28リル」
母さんが笑った。
「8リル減ってるじゃない」
「その分、いろいろ分かったからいいんだよ」
「ならいいけど」
よくないと思ってそうな言い方だった。
でも今回は違う。
最初から売るために買う。
つまり、本当の仕入れだ。
◇ ◇ ◇
出発前日。
俺は机の上に三つの袋を並べた。
貯金には触らない。
自由に使う金も持っていくけど、今回の目的はそっちじゃない。
問題は仕事用だ。
前回ラグナへ持っていった100リルから25リルを使い、その後の改良に3リル。ミラの店へ20リルで売ったから、仕事用の金は今、642リルある。
その中から、今回は80リルだけ持っていくことにした。
「全部持っていく必要はないよな」
仕入れを試すだけだ。
むしろ、持っていく金を決めておけば使いすぎることもない。
自由に使う金は171リルのまま。そのうち今回は40リルだけ持っていく。
仕事用80リル。
自由40リル。
合わせて120リル。
もちろん、全部使うつもりはない。
紙にも書いておく。
『ラグナで売れそうな物を探す』
その下に、もう一つ。
『買う前に、リーネで売れるか考える』
「よし」
これなら大丈夫だ。
目的もある。
予算も決めた。
買う前に考えることまで決めた。
ここまで準備しておけば、さすがに変な物を買って帰ってくることはないだろう。
机の端には、いまだに使い道の分からない6リルの金属の筒が転がっていた。
俺はそれを引き出しの中へしまった。
今回は、あれとは違う。




