これなら、無駄じゃないよな?
それから何度か試して、回す道具は少しずつ形を変えていった。
父さんに作ってもらった木の先端は、やっぱり太すぎた。そこで金属を扱える職人に相談し、もっと細くて軽い物を作ってもらうことにした。
もちろん、タダではない。
「……3リルか」
完成した部品を見ながら呟く。
最初の道具が25リル。
追加で3リル。
合計28リル。
仕事用の金は、これで622リルになった。
「増えてない?」
隣にいたミラが聞いてくる。
「何が?」
「最初25リルだったよね?」
「改良には金がかかるんだよ」
「ふうん」
「その顔やめて」
「何も言ってないよ」
言ってないけど、何を考えているのかは分かる。
俺だって少しだけ思っている。
これ、本当に28リルもかける必要あった?
でも、もう作ってしまった。
あとは便利になればいい。
◇ ◇ ◇
新しい先端は、前よりかなり細い。
それだけでも材料から受ける抵抗が減り、持ち手を回しやすくなった。さらに器が動かないよう、厨房の作業台に簡単な支えをつけてもらっている。
「じゃあ、やってみるよ」
「うん」
今回はミラに器を押さえてもらう必要もない。
俺は片手で道具を支えながら、もう片方の手で持ち手を回す。
材料が混ざっていく。
「おお……」
「前より全然いいね」
「でしょ?」
少しずつ油を加えながら回す。
以前の試作品より軽い。もちろん力はいるけど、腕全体を使って延々とかき混ぜるよりは楽だった。
しばらくして、白いソースができあがる。
「できた」
ミラが少し味見する。
「うん。いつもの味」
「よし!」
俺も味を見る。
問題ない。
ちゃんとできている。
「ほら!」
「何?」
「無駄じゃなかった!」
「そこ?」
「そこ大事だから」
28リル使った。
でも、ちゃんと使える物になった。
つまりこれは浪費ではない。
投資だ。
「で、どれくらい楽になった?」
「え?」
「前より」
「……それは」
改めて考える。
確かに楽にはなった。
でも、材料を入れるのは人だし、道具を回すのも人だ。劇的に時間が短くなったわけでもない。
「ちょっと?」
「28リルで?」
「長く使えば得になるから」
「壊れなければね」
「壊れないよ」
「なんで分かるの?」
「……大事に使うから」
ミラが笑った。
いいんだ。
少なくとも、前より作業は楽になった。
それだけで十分意味はある。
◇ ◇ ◇
その後、何度か実際の仕込みで使ってもらった。
少量だけ作るなら普通に混ぜた方が早い。でも、ある程度まとめて作るときには、こっちの方が腕が疲れにくいらしい。
「じゃあ、使えるってことだよね?」
「使えるよ。これなら店にあってもいいかも」
「でしょ?」
そこで俺は満足しかけて――手を止めた。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「これ、誰の?」
「レインのでしょ?」
「だよね」
当たり前だ。
道具を買ったのも俺。
改良に金を出したのも俺。
なのにこのままここへ置いて、ミラたちが使い続けるつもりになっていた。
「俺、28リル払って、ミラたちに道具あげようとしてない?」
「今気づいたの?」
「いや、だって白いソースに使うために作ったから……」
「でもレインのお金でしょ?」
「仕事用の」
「だったら、なおさらじゃない?」
その通りだった。
仕事用の金から出しているのに、一銭も戻ってこなければ仕事どころか贈り物だ。
「じゃあ、持って帰る?」
「それは困るなあ」
「困るの?」
「あると楽だもん」
ミラはもう一度道具を眺めた。
「20リルなら、うちで買うよ」
「え?」
「これからも使うなら、その方がいいでしょ?」
「いいの?」
「28リルは出さないよ?」
「そこは分かってる」
試作品だし、俺も実験に使った。
最初に買った道具をそのまま渡すわけでもなく、父さんや職人に手伝ってもらいながら形にした物だ。20リルで買ってもらえるなら、十分だと思う。
「じゃあ、20リルで」
「決まり」
こうして、回す道具はミラの店に残ることになった。
仕事用の金は20リル戻って、642リル。
28リル使って、20リル戻った。
差し引き8リル。
「……8リルか」
「何?」
「今回の勉強代」
「便利な言葉見つけたね」
「本当に勉強にはなったから」
8リルで、回転する仕組みが混ぜる作業にも使えると分かった。それに、先端の形や固定の仕方で使いやすさがかなり変わることも分かった。
そして何より、思いつきで買った物でも、ちゃんと使える形にできることがある。
「ほら、やっぱり無駄じゃなかった」
「最初から8リル使うつもりだった?」
「それは……違うけど」
「じゃあ、次も同じように買っていいって話にはならないからね」
「分かってるよ」
もちろん分かっている。
全部が成功するわけじゃない。
6リルの金属の筒なんて、いまだに何に使うのか分からないままだ。
でも今回の買い物は、少なくとも使える物になった。
しかも20リルも戻ってきた。
「……やっぱり、気になったら試してみるのも大事だな」
「レイン?」
「何でもない」
危ない。
今の結論を口に出したら、たぶんまた何か言われる。
でも次にラグナへ行ったとき、カイルには教えてやろう。
あの25リル。
ちゃんと無駄じゃなかったぞ、と。




