また、あの店へ
五日後、俺は再びラグナに来ていた。
前回と同じ道を通り、同じ宿に泊まる。初めて来たときは町へ入っただけであちこちに目が行ったけど、今回は少し余裕があった。
「じゃあ俺は取引先回ってくる。昼には一回戻るぞ」
「分かりました」
「今回は何リル使うつもりだ?」
「使う前提で聞かないでください」
「違うのか?」
「見るだけです」
「前も聞いたな、それ」
ベルクさんは笑いながら宿を出ていった。
今回は自由に使う金を60リルだけ持ってきた。残りはリーネに置いてあるし、仕事用の金も前回と同じく100リルだけ持ってきている。
貯金の4,900リルはもちろん家だ。
わざわざ旅先へ持ってくる理由なんてない。
これなら、使いすぎることもない。
たぶん。
◇ ◇ ◇
宿を出て、まずは前回歩かなかった通りを見て回った。
何度か町の外へ出るようになってから、見るところも少し変わった気がする。珍しい物だけじゃなく、値段や客の入り方、どんな人が何を買っているのかも気になるようになった。
それでも、気づけば足は見覚えのある道へ向いていた。
「……まあ、来るよな」
中古道具屋の前で立ち止まる。
別にカイルに会うためだけに来たわけじゃない。
前回から時間が経っているんだから、品物がどれくらい変わったのか見ておきたい。中古品を扱う店なら、その変化を見るのも勉強になる。
そういうことにして、中へ入った。
「いらっしゃい」
声が聞こえる。
棚の向こうから出てきたのは、前と同じカイルだった。
「あ」
「久しぶり」
「……また来たのか」
「その反応何?」
「いや、本当にまた来ると思ってなかったから」
「ラグナに用事があったんだよ」
「この店に?」
「ラグナに」
「じゃあ、この店は?」
「ついで」
「ふうん」
なんだ、その顔。
「何?」
「別に」
前より少しだけ話し方が雑になっている。
俺もその方が楽だからいいけど。
「そうだ。あの筒」
「使い道分かった?」
「まだ」
「まだ持ってるの?」
「持ってるよ」
「捨てればいいのに」
「6リルしたんだぞ」
「もう払った金は戻ってこないだろ」
「……」
こいつ、たまに嫌なところを突いてくるな。
「それより、結構変わった?」
「何が?」
「品物。前に来たときから」
「ああ。半分くらいは変わってると思う」
「そんなに?」
「売れるし、持ち込まれるから」
言われて店内を見ると、確かに覚えている物がかなり減っていた。
前に見た鍋はない。8リルだった謎の道具も消えている。
「あれ売れたんだ」
「何?」
「木の柄に金属の輪がついてたやつ」
「ああ。職人が買ってった」
「何に使う物だったの?」
「革を加工するときに使う道具だったらしい」
「知ってたの?」
「買った人が教えてくれた」
やっぱり用途が分からないまま売っていたのか。
「じゃあ、俺の筒も本当はすごい道具かもしれない」
「かもしれないな」
「だろ?」
「ただの筒かもしれないけど」
「そっちは言わなくていい」
店の中を見て回る。
前回より古い工具が増えていて、逆に食器は少なくなっていた。鞄も何個かあるけど、今のところ欲しい物はない。
「これ、いくら?」
「9リル」
「新品だと?」
「たぶん15くらい」
「こっちは?」
「11」
「なんでこっちの方が高いの?」
「ほとんど使ってないから」
気になった物の値段を聞いていくと、カイルは普通に答えてくれる。
そのうち、俺が商品を手に取る前から説明されるようになった。
「それは持ち手が割れてる」
「まだ何も聞いてないけど」
「どうせ聞くだろ」
「……まあ、聞こうと思ってた」
「そっちは18。新品なら30くらい」
「高っ」
「新品より安い」
「そうだけどさ」
なんだか、前より会話が楽になった。
俺が質問するたびにカイルも作業を止めることはなく、棚を整理しながら答えている。
「カイルって、毎日ここにいるの?」
「だいたい」
「休みは?」
「あるよ。店主がいる日なら出かけることもあるし」
「今日、店主は?」
「奥」
「いたんだ」
「いるよ」
そういえば、まだ会ったことがない。
カイルが店主ではないことは知っているけど、二回来たときもずっとカイルが店に出ていた。
「家も近いの?」
「ここ」
「ここ?」
「上に住んでる」
「ああ、そういうことか」
店の二階が住居になっているらしい。
「店主って父親?」
何気なく聞いた。
「違う」
「あ、ごめん」
「別に。親はもういないから」
思っていなかった答えが返ってきた。
どう返すべきか一瞬迷う。
「……そっか」
「昔の話だよ」
カイルはそれだけ言って、棚の上の箱を動かした。
無理に詳しく聞くのも違う気がする。
「じゃあ、店主と一緒に住んでるんだ」
「うん。小さい頃から世話になってる」
「それで店も手伝ってる?」
「そんな感じ」
カイルの言い方は軽かった。
でも、前に「働いてるっていうか、手伝ってる」と言っていた意味が少し分かった気がする。
俺はそれ以上聞かず、また商品を見る。
「お」
棚の下に、小さな木箱があった。
蓋を開けると、中がいくつかに仕切られている。
「これ便利そう」
「5リル」
「安いな」
「蓋がちょっと歪んでる」
「閉まる?」
「一応」
開けたり閉めたりしてみる。
紙を入れるには小さいけど、細かい物を分けるには使えそうだ。
家には父さんにもらった仕切り箱がある。
つまり、これは必要ない。
「……」
「買うの?」
「いや」
「珍しい」
「俺を何だと思ってる?」
「使い道の分からない筒を買う客」
否定できない。
俺は木箱を棚へ戻した。
今日はまだ、何も買っていない。
カイルと少し話して、前とは違う商品を見て、それだけだ。
それなのに、前回よりこの店が面白く感じる。
「またラグナ来たら寄るよ」
「何も買わないのに?」
「今日は、だろ」
「次は買うんだ」
「……そういう意味じゃない」
カイルが少し笑った。
俺も店を出る。
自由に使える金は60リル。
仕事用は100リル。
どっちも一切減っていない。
完璧だ。
店を出てまだ午前中だということを除けば。




