作り方は、どうやって売る?
昼前に宿へ戻ると、ベルクさんはちょうど荷物を置きに戻ってきたところだった。
朝より荷物が減っているところを見ると、何軒か取引を終えてきたらしい。俺が声をかけると、ベルクさんは返事をしながら俺の腰元へ目を向けた。
「で、それは?」
「何がです?」
「朝にはなかっただろ、その袋」
「……よく見てますね」
「変なもん買うなって言ったばっかりだからな」
別に変な物ではない。
壊れているのは留め具だけだし、紐を替えれば普通に使える。しかも中が二つに分かれているから、小銭や細かい物を入れるのにちょうどいい。
「4リルでした」
「まあ、それならいいんじゃないか」
「ですよね」
「で、もう一個は?」
「……なんで分かるんですか」
「その顔で一個だけなわけないだろ」
俺は仕方なく、荷物から金属の筒を取り出した。
ベルクさんが受け取って、ひっくり返したり中を覗いたりする。
「何だこれ?」
「分かりません」
「……いくら?」
「6リル」
「何に使うんだ?」
「これから考えます」
ベルクさんはしばらく黙っていた。
「まあ、自分の金なら好きにしろ」
「もっと何か言わないんですか?」
「言って返すなら言うけどな」
返さない。
まだ使えないと決まったわけでもないし、そもそも6リルだ。
自由に使うための金から出したんだから、仕事用の金にも貯金にも手をつけていない。
「ちゃんと70リル残ってます」
「まだ初日の昼だけどな」
「……午後は使いませんよ」
「そうしてくれ」
信用がない。
◇ ◇ ◇
昼食を済ませたあと、俺はベルクさんと一緒に宿を出た。
今度は町を見るためじゃない。白いソースの作り方を、ベルクさんがどう売るのかを見るためだ。
「今から行くところ、知り合いなんですか?」
「前に何度か取引したことがある。食堂やってる奴でな」
「もう白いソースの話は?」
「してない」
「じゃあ、いきなり作り方を売るんですか?」
「いきなりそんな話して買うと思うか?」
「……思わないですね」
俺だって、味も知らない料理の作り方に金を払えと言われたら困る。
ベルクさんは今回、白いソースそのものを少しだけ持ってきていた。リーネを出る前に作った物ではなく、ラグナで材料を揃えて作るための準備もしてあるらしい。
「まず食わせる。気に入ったら、どう使えるか話す。そのあとで作り方の話だ」
「値段は?」
「まだ決めてない」
「決めてないんですか?」
「相手も材料の値段も違うからな」
俺が300リルで売ったときとは、また話が違うらしい。
ベルクさんは俺から町の外で扱う権利ごと買っている。今度は、その権利を使って店ごとに作り方を教えて金を取る。
同じ作り方を売るのに、相手によって値段が変わる。
少し気になった。
◇ ◇ ◇
連れてこられたのは、大通りから一本入ったところにある食堂だった。
昼の忙しい時間を外したからか、客は数人しか残っていない。ベルクさんが店主らしい男に声をかけると、向こうもすぐに気づいた。
「ベルクじゃないか。久しぶりだな」
「しばらくだな。ちょっと面白い物持ってきたんだが、時間あるか?」
「売り物か?」
「気に入ればな」
それだけで、店主は俺たちを厨房に近い席へ案内した。
俺は少し離れたところに座る。口を出さない約束だから、今日は見ているだけだ。
ベルクさんが用意してきた材料を見せながら、店主に何か説明していく。全部を話しているわけではなく、油や卵を使うことと、どういう料理に合わせられるかを簡単に話しているようだった。
しばらくして、小さな器に白いソースが用意された。
店主がパンにつけて口へ運ぶ。
「……なんだこれ」
もう一口。
今度は少し多めにつけている。
「悪くないだろ?」
「悪くないどころじゃない。これ、肉にも合うか?」
「合う。野菜にも使える」
「どうやって作る?」
来た。
俺は黙ったまま、ベルクさんを見る。
「そこからは商売の話だ」
ベルクさんは笑った。
店主も一瞬黙ったあと、同じように笑う。
「やっぱりか」
「俺も商売で来てるからな」
「いくらだ?」
「その前に聞きたい。こっちじゃ油と卵、いくらで仕入れてる?」
値段を言う前に、材料の値段を聞く。
店主が普段の仕入れについて話し始めると、ベルクさんは何度か質問を挟んだ。油をどれくらい使うのか、卵は安定して入るのか、この店なら何に使うつもりなのか。
俺が作り方を売ったときとは全然違う。
俺は自分の知っている物を作って、値段を考えて、ベルクさんに売った。
でもベルクさんは、買う相手がそれを使って本当に金にできるかまで見ている。
「なるほど……」
小さく呟く。
作り方を知っているだけじゃ、作り方を売る商売にはならないらしい。
そして俺は、もう一つ気づいた。
ベルクさんがこの店からいくら取るのか、まだ聞いていない。
俺が300リルで渡したものが、ここでいくらになるのか。
それを考えた瞬間、急にものすごく気になってきた。




