二回目なら、もう慣れた?
それから十日ほどして、ベルクさんからラグナへ行くと連絡が来た。
今回はリーネを出てラグナへ向かい、そこで二日ほど商売をしてから戻る予定らしい。道中も含めれば、それなりの日数になる。
俺は聞いた内容を紙に書いて、その日のうちに父さんと母さんへ見せた。
「前よりちゃんとしてるじゃない」
「俺だって成長するよ」
「前回は出発する直前まで荷物を増やしてたけどな」
「あれも必要だったんだって」
父さんは笑いながら紙を受け取った。
通る道、泊まる場所、だいたいの日程。ベルクさんから聞けた範囲だけだけど、前回よりはちゃんと揃っている。
「ベルクとは俺からも話す」
「うん」
「それで問題なければ行っていい」
「よし」
「ただし」
母さんが続ける。
「無理はしないこと。ベルクさんの言うことを聞くこと。それから、勝手に一人で遠くまで行かないこと」
「分かってる」
「本当に?」
「エルダでも大丈夫だっただろ?」
「一回大丈夫だったから、次も大丈夫とは限らないの」
それは正しい。
正しいけど、こういうときの母さんは強い。
「分かりました」
「ならいいわ」
こうして、二回目の町外行きは思っていたよりあっさり決まった。
◇ ◇ ◇
許可が出たなら、次は準備だ。
前回使った物を並べてみる。
着替え。
水筒。
雨具。
布。
簡単な食べ物。
それから、自分で使っている鞄。
「……こんなもんか」
前は何が必要なのか分からなくて、思いつくたびに増やしていた。
でも今回は、一度経験している。
実際に使った物と、ほとんど使わなかった物が分かっているから、むしろ荷物は前より少なくなった。
「俺、旅慣れてきたんじゃない?」
まだ二回目だけど。
問題は金だ。
机の前に座り、三つに分けた金を見る。
貯金には触らない。
これは決定。
仕事用の650リルについても、全部持っていく必要はない。ラグナで何か商売につながりそうな物を見つけたときのために、いくらかあれば十分だ。
そして自由に使える181リル。
「……いくら持っていこう」
全部。
という言葉が一瞬だけ頭に浮かんだ。
「いやいやいや」
何のために分けたんだ。
持っていれば使う。
前世で何度も経験した。
財布に金が入っていると、なぜか使っても大丈夫な金に見えてくる。
「50リル……」
少ない気がする。
「100リル?」
これなら何か欲しい物を見つけても大体対応できそうだ。
でも、そもそも今回は買い物に行くわけじゃない。
町を見るのが目的だ。
「……80リル」
間を取った。
どうして間を取る必要があったのかは分からない。
とりあえず自由に使える金から80リル。
仕事用からも、念のため100リルだけ持っていく。
合計180リル。
「十分だろ」
仕事用は仕事にしか使わない。
自由に使えるのは80リルだけ。
これなら大丈夫だ。
◇ ◇ ◇
出発の前日。
ハンスさんの店へ顔を出すと、ちょうどベルクさんが荷物をまとめていた。
「準備できたか?」
「完璧です」
「二回目でもう完璧か」
「一回経験してますから」
「その自信が一番怖いな」
「なんでですか」
ベルクさんの荷物は、俺とは比べものにならない。
ラグナへ持っていく商品だけじゃなく、途中で必要になる物や、向こうで渡す荷物まである。
「今回は何を持っていくんです?」
「細かいのはいろいろだ。布もあるし、加工品もある。向こうで売って、別の物を仕入れて帰る」
「何を仕入れるんですか?」
「まだ全部は決めてない」
「行ってから?」
「値段を見てからだ。安くもない物を、行く前から買うって決めてどうする」
「なるほど」
確かに。
向こうで値段を見て、利益が出そうなら買う。
当たり前の話だ。
「……何だ?」
「いや、俺もそうしようかなって」
「何を仕入れる気だ?」
「まだ決めてません」
「商売する気だったのか?」
「いい物があればですよ」
せっかく仕事用の金を100リル持っていく。
見るだけで終わってもいいけど、リーネで売れそうな物があれば試してみてもいい。
「最初から買うつもりで探すなよ」
「なんでです?」
「買う理由を探し始めるからだ」
「……そんなことしませんよ」
「そうか?」
ベルクさんが妙に疑っている。
失礼な。
俺はちゃんと貯金だってしている。
現在4,900リル。
目標には全然足りないけど、昔よりは確実に増えている。
「今回は見るのが目的ですから」
「ならいいけどな」
明日の朝、町の門で待ち合わせることを確認して家へ戻った。
荷物はできている。
金も決めた。
両親の許可もある。
二回目ともなると、準備はかなり楽だった。
あとは出発するだけだ。
ラグナでは何が売っているんだろう。
どんな店があるんだろう。
仕事用100リル。
自由に使える80リル。
合わせて180リル。
……いや、合わせて考えるのはやめよう。
その二つは、まったく別の金だ。




