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転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


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13/264

名前をつけるの、難しくない?

名前。


 商品には名前が必要だ。


 たぶん。


「…………」


 俺は机の上の石鹸を見つめていた。


 四角い。


 前より形も綺麗。


 ちゃんと商品っぽくなった。


 でも。


 名前がない。


「アルト石鹸」


 違う。


「レイン石鹸」


 もっと違う。


「よく落ちる石鹸」


 洗剤の通販みたいだ。


「汚れ落とし君」


 最悪。


「…………」


 俺。


 こんなに名前つけるの下手だった?


 前世で何かに名前をつける機会なんて。


 ほとんどなかった。


 ゲームの主人公くらい。


 しかも大体。


 名前を考えるのが面倒になって。


 いつも似たような名前を使っていた。


「商品名……」


 かっこよすぎるのも嫌だ。


 八歳の子供が突然。


 横文字っぽい謎の名前を出してもおかしい。


 そもそも。


 この世界に英語はない。


「…………」


 一人で考えるのやめよう。


     ◇ ◇ ◇


「母さん」


「なに?」


「これに名前つけて」


 エレナが料理の手を止める。


「石鹸に?」


「うん」


「石鹸じゃ駄目なの?」


「商品名」


「しょうひんめい?」


「あー……」


 そうか。


 言葉自体が通じない可能性もある。


「例えば」


 考える。


「父さんが椅子を作るじゃん」


「ええ」


「その椅子に名前をつけて売る感じ」


「椅子は椅子じゃない?」


「…………」


 駄目だ。


 例が悪かった。


「とにかく、これ専用の名前」


「どうして?」


「高く売れそうだから」


「…………」


 エレナが俺を見る。


「正直ね」


「大事だから」


 名前がある。


 ただの石鹸じゃない。


 何々という石鹸。


 その方が。


 なんとなく価値がある気がする。


 前世の俺も。


 そういう物に何度も金を払っていた。


「名前ねえ……」


 エレナが石鹸を見る。


「白くないわね」


「うん」


「いい香りもしない」


「うん」


「形は綺麗になったわね」


「褒めるところ少なくない?」


「だって本当だもの」


 厳しい。


「じゃあ……四角石鹸?」


「却下」


「早いわね」


「俺と同じくらいセンスないよ」


「失礼ね」


 母。


 脱落。


     ◇ ◇ ◇


「父さん」


「嫌な予感がする」


「まだ何も言ってないよ」


「最近のお前は工房に来るたび何か頼む」


 否定できない。


「今日は物じゃない」


「金か?」


「違う」


「じゃあなんだ?」


「名前」


「名前?」


 石鹸を見せる。


「これの商品名考えて」


「母さんに聞け」


「駄目だった」


「何て言った?」


「四角石鹸」


「いいじゃねえか」


「夫婦だなあ!」


 同じセンスしてる。


「じゃあ父さんなら?」


 ガルドが腕を組む。


 石鹸を見る。


 考える。


「…………」


 少し期待する。


「ガルド印」


「絶対嫌だ」


「なんでだよ!」


「父さん何も作ってないじゃん!」


「型作ったぞ!」


「そこ!?」


 危ない。


 この家族に任せていたら。


 ガルド印の四角石鹸になる。


「もういい」


「じゃあ聞くなよ」


 父。


 脱落。


     ◇ ◇ ◇


 翌日。


 俺は石鹸を一個持って。


 ミラのパン屋へ向かった。


「というわけで」


「どういうわけ?」


「名前を考えてほしい」


 ミラが石鹸を見る。


「名前?」


「そう」


「石鹸じゃないの?」


「母さんと同じこと言わないで」


 俺は説明した。


 これから石鹸をもっと売りたいこと。


 形も揃えたこと。


 ただの石鹸ではなく。


 名前のついた商品として売りたいこと。


「へえ」


 ミラが少し感心したように石鹸を見る。


「確かに、前より綺麗ね」


「でしょ?」


「でも色は地味」


「それも母さんに言われた」


「匂いも普通」


「それも言われた」


「じゃあ何がいいの?」


「洗いやすい」


「そこは変わってないのね」


「あと」


 考える。


「今のところ、この町じゃ俺しか売ってない」


「あ」


 ミラが笑う。


「それはすごいじゃない」


「でしょ?」


 そこ。


 重要。


 この町では。


 石鹸自体が珍しい。


 なら。


 今のうちに名前を覚えてもらう。


「作ってるのはレインなんでしょ?」


「うん」


「じゃあ、レインの石鹸でいいんじゃない?」


「それはダサくない?」


「そう?」


「自分の名前そのままって……」


 そこで。


 止まる。


「…………」


 待てよ。


 前世。


 人の名前がそのまま会社名。


 ブランド名。


 店名。


 普通にあった。


 むしろ。


 最初は人の名前から始まったものも多い。


「……ありなのか?」


「何が?」


「レイン」


 俺の名前。


 この世界の人間には。


 普通の名前。


 でも。


 前世の俺からすると。


 雨。


 レイン。


 水。


 洗う。


「…………」


 悪くない。


 いや。


 むしろ。


「使えるじゃん」


「何が?」


「レインって名前」


「今さら?」


「違う違う」


 洗う。


 水。


 清潔。


 そこに。


 レイン。


 偶然だけど。


 相性がいい。


「レイン石鹸……」


 さっき自分で考えたときは。


 死ぬほどダサく感じた。


 でも。


「レインの石鹸」


 少し言い方を変える。


「……まだダサいな」


「何なのよ」


 ミラが笑う。


「じゃあレインじゃなくて、家の名前は?」


「アルト?」


「アルトの石鹸」


「うーん」


 悪くはない。


 でも。


 何か足りない。


「綺麗になる……」


 俺は呟く。


「洗う」


「うん」


「汚れが落ちる」


「そうね」


「清潔になる」


 ミラが少し考える。


「清らかになる?」


「清らか?」


「ほら。神殿とかで使う言い方」


「ああ」


 レインの記憶にもある。


 この世界にも。


 清らか。


 清める。


 そういう意味の言葉がある。


「清める……」


 洗う。


 清潔。


 石鹸。


「じゃあ」


 俺は石鹸を見る。


「清めの石鹸?」


「分かりやすい」


「ダサくない?」


「レイン石鹸よりは」


「やっぱダサかったんじゃん!」


 笑われた。


 でも。


 清めの石鹸。


「…………」


 悪くない。


 何の商品なのか。


 なんとなく分かる。


 変に格好つけてない。


 覚えやすい。


 この世界の人間にも意味が通じる。


「清めの石鹸」


 もう一度言う。


「うん」


 ミラが頷く。


「私はいいと思う」


「じゃあ」


 決める?


 これから。


 俺が作る商品。


 最初の商品。


 その名前。


「……清めの石鹸」


 よし。


「これにする」


「決まり?」


「決まり」


 意外と。


 一人で悩んでいた時間より。


 人に相談した方が早かった。


     ◇ ◇ ◇


「で」


 ミラが言う。


「いくらなの?」


「え?」


「その新しい石鹸」


「あ」


 そうだった。


 形を綺麗にした。


 名前もつけた。


 次は。


 値段。


 今まで。


 一個3リル。


 母さんなら。


 形が綺麗なら4リルでも買うと言った。


「…………」


 なら。


「4リル」


「高くなった」


「形が綺麗になった」


「うん」


「名前もついた」


「名前に1リル払うの?」


「そう言われると弱いな」


 でも。


 ここは。


 試す。


「4リル」


 もう一度言う。


 ミラが石鹸を見る。


「まあ……いいんじゃない?」


「買う?」


「一個なら」


「…………」


 買う?


 本当に?


「買うの?」


「何よ」


「いや」


 嬉しい。


「じゃあ4リル」


「はい」


 銅貨。


 四枚。


 受け取る。


「…………」


 売れた。


 一個4リル。


 初めて。


 3リルより高く。


「売れた……」


「そんな驚く?」


「だって」


 追加でかかった金。


 ほぼ0リル。


 父さんの端材。


 形を整えた。


 名前をつけた。


 それだけ。


 販売価格。


 3リルから。


 4リル。


「…………」


 すごい。


 価値って。


 作れるんだ。


「ミラ」


「なに?」


「ありがとう」


「どういたしまして?」


 俺は4リルを革袋に入れた。


 現在の所持金。


 9リル。


 少し。


 戻ってきた。


「よし」


 清めの石鹸。


 一個4リル。


 ここから。


 もっと売る。


 そして。


 もっと稼ぐ。


 100万リル。


 まだまだ遠い。


 でも。


 昨日より。


 少しだけ。


 商売のやり方が分かってきた気がする。


「レイン」


「ん?」


「名前つけただけで満足しないでよ」


「分かってる」


「まだ匂い、微妙だからね」


「…………」


 そこ。


 やっぱり直さないと駄目?


 香油。


 一番安くて9リル。


 現在の所持金。


 9リル。


「…………」


 ぴったりじゃん。


 いや。


 違う。


 絶対に違う。


 これは運命じゃない。


 たぶん。

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