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転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


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12/264

高く売るには、金がかかる

高く売る。


 言うだけなら簡単だ。


 問題は。


「どうやって?」


 翌朝。


 俺は完成した石鹸を一個、机の上に置いていた。


「…………」


 改めて見る。


 地味。


 四角。


 灰色っぽい。


 匂い。


「……微妙」


 臭いわけではない。


 ただ。


 いい匂いでもない。


 洗濯に使う道具としてなら。


 これでもいい。


 実際。


 一個3リルで売れた。


 買った人が、また欲しいとも言ってくれた。


 でも。


 これを5リル。


 10リル。


 もっと高く。


 そう考えると。


「欲しくはならないよな」


 必要だから買う。


 それだけだ。


 前世の商品は違った。


 同じような物でも。


 見た目がいい。


 香りがいい。


 箱が綺麗。


 名前がおしゃれ。


 それだけで値段が変わった。


「よし」


 市場調査だ。


 今度こそ。


 本当の。


     ◇ ◇ ◇


 所持金。


 5リル。


 今日は使わない。


 見るだけ。


 市場に着いて。


 まず向かったのは香油を扱う店だった。


 前に石鹸について聞いたとき。


 店員が代わりに出してきた物だ。


 小さな瓶が並んでいる。


 花。


 木。


 柑橘っぽいもの。


 いろんな香りがする。


「これ、いくらですか?」


「そっちは15リル」


「…………」


 終了。


「こっちは?」


「20リル」


「…………」


 悪化した。


「一番安いのは?」


「これだな。9リル」


 所持金。


 5リル。


「ありがとうございました」


「買わないのか?」


「買えません」


 正直に言った。


 香り。


 却下。


 いや。


 いつかは使える。


 今じゃない。


 次。


 布。


 石鹸を包めば。


 そのまま渡すより見栄えがいい。


「この布、いくらですか?」


「その大きさなら4リル」


「…………」


 買える。


 買えるけど。


 布一枚で4リル。


 石鹸一個より高い。


「もっと安いのは?」


「端切れならあるよ」


 店の人が小さな布切れを出す。


「まとめて2リル」


「何枚?」


「これ全部」


 見る。


 色も。


 大きさも。


 バラバラ。


「…………」


 悪くない。


 買える。


 2リル。


 残り3リル。


 いや。


 待て。


「今日は見るだけ」


 自分に言い聞かせる。


 次。


 紐。


 1リル。


 買える。


 次。


 小さな木箱。


 3リル。


 買える。


 次。


 飾りに使えそうな乾燥した花。


 2リル。


 買える。


「…………」


 全部買えるじゃん。


 いや。


 全部は買えない。


 布。


 2リル。


 紐。


 1リル。


 木箱。


 3リル。


 花。


 2リル。


 合計。


 8リル。


 所持金。


 5リル。


「高く売るために破産する」


 本末転倒だった。


     ◇ ◇ ◇


 市場の端に座る。


「…………」


 どうする?


 金をかければ。


 見栄えは良くなる。


 香りもつけられる。


 でも。


 その分。


 原価が上がる。


 高く売っても。


 儲からない。


「意味ないじゃん」


 むしろ。


 金をかけずに。


 高く見せる。


 それが一番いい。


「…………」


 そんな都合のいい方法。


 ある?


 考える。


 前世。


 包装。


 ブランド。


 デザイン。


 広告。


「名前……」


 商品名。


 それなら。


 金はかからない。


 今の石鹸には名前がない。


 俺も。


 ミラも。


 母さんも。


 ただ石鹸と呼んでいる。


「でも名前つけただけで高くなるか?」


 怪しい。


 ただ。


 何もないよりはいい。


 もう一つ。


 形。


 これも。


 父さんに型を作ってもらえば。


 ほぼ金はかからない。


「…………」


 あるじゃん。


 金使わなくても。


 できること。


     ◇ ◇ ◇


「父さん」


「今度は何だ?」


 工房。


 最近。


 俺が来るたびに。


 ガルドが少し警戒するようになった。


「お願いがある」


「金なら貸さないぞ」


「違う」


「油?」


「違う」


「じゃあなんだ?」


「木の型作って」


「…………」


 ガルドが俺を見る。


「型?」


「同じ大きさの四角が作れるやつ」


 石鹸を見せながら説明する。


 今は大きな箱で固めてから切っている。


 だから。


 大きさが揃わない。


 なら最初から。


 同じ大きさになるような型があればいい。


「こんな感じ」


 木の板に炭で描く。


 ガルドが見る。


「作れる?」


「これくらいなら」


「本当?」


「ああ。端材でいいだろ?」


「うん!」


「ただし」


 来た。


「いくら?」


「金の話じゃねえよ」


「あ」


 最近。


 何でも金だと思ってしまう。


「お前が使ってる灰汁」


「うん」


「あれ、強いんだろ?」


「たぶん」


「木が傷まないか?」


「…………」


 考えてなかった。


「試してみないと分からない」


「じゃあ最初から何個も作るのはやめとけ」


「一個?」


「まず一個」


「分かった」


 こういうところ。


 父さんはちゃんとしている。


 俺より。


 ずっと。


     ◇ ◇ ◇


 しばらくして。


 試作品ができた。


「おお……」


 小さな木型。


 簡単な物だけど。


 今までの箱より。


 かなり使いやすそうだ。


「ありがとう!」


「売れたら何か奢れよ」


「必要経費?」


「ただの親孝行だ」


「それは経費にならないな」


「返せ」


「嘘です!」


 危ない。


 没収されるところだった。


 型を持って庭へ行く。


 前回の記録を見る。


 天秤で量る。


 材料を使う。


 混ぜる。


 型へ入れる。


「…………」


 いい。


 これ。


 かなりいい。


 まだ完成していないのに。


 すでに。


 前より商品っぽい。


     ◇ ◇ ◇


 数日後。


 型から外す。


「おお」


 四角。


 ちゃんと四角。


 前までの。


 切りました。


 角が欠けました。


 厚さバラバラです。


 そんな石鹸とは違う。


「商品じゃん」


 同じ石鹸なのに。


 形が揃っただけで。


 ちゃんと売り物に見える。


 エレナにも見せる。


「どう?」


「あら」


 手に取らず。


 近くから見る。


「前より綺麗ね」


「でしょ?」


「これならお店に並んでいても変じゃないかも」


「…………」


 来た。


 欲しかった言葉。


「母さん」


「なに?」


「これ、いくらなら買う?」


「またそれ?」


「大事だから」


 エレナが考える。


「今までのが3リルでしょ?」


「うん」


「…………4リル?」


「1リル上がった!」


 形を変えただけ。


 追加費用。


 ほぼ0リル。


 それで。


 1リル上がった。


「…………」


 これだ。


 俺が求めていたのは。


 これ。


 金をかけずに。


 価値を上げる。


「父さん!」


「今度はなんだ!」


 工房へ走る。


「型、もっと作れる?」


「使えたのか?」


「使えた!」


「なら作れるけど」


「何個?」


「端材なら余ってるからな」


「十個!」


「多いわ!」


「じゃあ五個!」


「何する気だ?」


「儲ける!」


 ガルドが笑った。


「分かりやすいな、お前」


 当然だ。


 目標。


 100万リル。


 そのためなら。


 形だって。


 見た目だって。


 何でも使う。


     ◇ ◇ ◇


 その夜。


 俺は新しい石鹸を見ながら考えた。


 一個3リル。


 それが。


 形を整えれば。


 4リルでも買ってもらえるかもしれない。


 じゃあ。


 さらに何か一つ。


 価値を足したら?


「5リル……?」


 さらに。


 もう一つ。


「6リル?」


 楽しくなってきた。


 金をかけずに。


 価値だけ増やす。


 これができれば。


 一個あたりの利益は大きくなる。


「名前」


 形はできた。


 次。


 名前。


 でも。


「石鹸の商品名って、何つければいいんだ?」


 前世でも。


 商品名なんて考えたことがない。


 俺は四角い石鹸を見つめる。


「アルト石鹸……」


 ダサい。


「レイン石鹸……」


 もっとダサい。


「スーパー石鹸……」


 最悪だ。


「…………」


 ネーミングセンス。


 転生特典には。


 含まれていなかったらしい。

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