作り方って、いくら?
ミラたちに確認を取った翌日。
俺はハンスさんの店へ向かっていた。
ただし、今日は最初から答えを聞きに行くつもりじゃない。
昨日の夜、自分でも考えてみた。
白いソースの作り方には、油や卵みたいな材料費がない。一度ベルクさんに教えれば、それだけで終わる。
だからといって、安くていいわけでもない。
ベルクさんはそれを別の町へ持っていって、パン屋や料理屋に教えるつもりだ。うまくいけば、何度も金に変えられる。
なら、その分も値段に入るはずだ。
「……でも、結局いくらなんだ?」
そこだけは、考えても答えが出なかった。
◇ ◇ ◇
「というわけなんです」
「なるほどな」
一通り話を聞いたハンスさんは、店の台に肘をついた。
「ミラたちには確認したのか?」
「しました。リーネでは今まで通り使えるなら問題ないって」
「ベルクが欲しいのは?」
「町の外で作り方を扱う権利です。教えた相手が勝手に別の人へ広めないようにもするって」
「そこまで話したなら、前よりはましだな」
「前よりは?」
「昔のお前なら、値段だけ聞きに来てただろ」
「……否定できない」
少なくとも今回は、自分でも考えてから来た。
「それで、いくらです?」
「結局聞くのか」
「参考にするだけです」
「便利な言い方を覚えたな」
ハンスさんが笑う。
「まず、いつもの考え方は使いにくい」
「材料費がないから?」
「ああ。石鹸なら材料と作る手間がある。鞄だって革や金具が必要だ。だが、作り方そのものは一度知れば何度でも使える」
「だから高い?」
「そうとも限らん」
「え?」
てっきりそうなると思った。
「誰も欲しがらない作り方なら、いくら珍しくても価値は低い」
「ああ……」
「逆に、それを知れば長く稼げるなら高くても欲しがる奴はいる」
白いソースが珍しい。
それだけじゃ値段は決まらない。
実際に使って金になるかどうか。
「じゃあ、ベルクさんがどれくらい稼げるかで考える?」
「それも一つだな」
「でも、まだ他の町で売れるか分からないですよ」
「だからベルクにも危険がある」
言われてみればそうだ。
ベルクさんが金を払って作り方を買っても、他の町で誰も欲しがらなければ損をする。
「……難しくない?」
「簡単なら商人は苦労しない」
「ですよね」
◇ ◇ ◇
「もう一つある」
ハンスさんが続ける。
「お前がどこまで渡すかだ」
「どこまで?」
「例えばベルク一人が使えるだけなのか。他の店へ教えて金を取っていいのか。町をいくつ回ってもいいのか。それで価値は変わる」
「今回は、町の外ならベルクさんが他の店に教えていいです」
「なら、かなり自由に使えるな」
「その代わりリーネは別です」
「それでいい」
ハンスさんが頷く。
俺が売ろうとしているのは、単なる作り方じゃない。
ベルクさんが町の外で、それを使って商売するところまで含めた話だ。
そう考えると、昨日より少しだけ価値が見えてきた。
「ハンスさんなら、いくらにします?」
「決めない」
「そこをなんとか」
「嫌だ」
「即答……」
「値段まで俺が決めたら、ベルクと商売するのは誰なんだ?」
「俺です」
「なら、お前が決めろ」
正論だった。
聞く相手を間違えた。
いや、聞く相手は合っていたけど、欲しい答えはもらえなかった。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、どうやって決めればいいんです?」
「自分がいくらなら手放してもいいか考えろ」
「手放す?」
「作り方を忘れるわけじゃない。だが、町の外でベルクが自由に商売できるようにするんだろ?」
「はい」
「あとから『もっと取れた』と思っても遅い。それでも納得できる額を考えろ」
「なるほど……」
「それと、相手がその値段で買うかは別の話だ」
「交渉するってこと?」
「そういうことだ」
俺が値段を出す。
ベルクさんが高いと言うかもしれない。
逆に、すぐ買うかもしれない。
そこから話す。
「分かりました」
「決まったのか?」
「まだです」
「おい」
「でも、考え方は分かりました」
俺は店を出た。
帰り道でも、ずっと考える。
安すぎるのは嫌だ。
高すぎて話がなくなるのも困る。
でも、ベルクさんが町の外で何度も使えるなら、それなりの値段にはなるはずだ。
石鹸を何個売れば、その額になる?
鞄なら?
今まで自分が稼いできた金額とも比べてみる。
「……よし」
すぐには決められなかった。
それでも家に着くころには、俺なりに一つの金額が浮かんでいた。
高いのか。
安いのか。
正直、まだ分からない。
でも次は、それをベルクさんにぶつけてみよう。




