白いソース、売ってもいい?
ベルクさんと別れたあと、そのままミラの店へ向かった。
白いソースを町の外で扱う権利を売る。話だけ聞けば俺にとって悪い話じゃないし、むしろかなり興味がある。でも、ベルクさんに言われた通り、俺一人で決めるのは違う気がした。
白いソースを思いついたのは俺だ。
でも、今の形になるまで一緒に試したのはミラだし、実際に商品として売っているのはミラの家のパン屋だ。
「こんにちはー」
「あ、レイン」
店に入ると、ミラがちょうどパンを並べていた。
「珍しいね。今日はパン買いに来た?」
「それもいいんだけど、ちょっと話があって」
「何?」
「おじさんもいる?」
「いるよ。呼んでくる?」
「お願い」
少し待つと、奥からミラの父親も出てきた。
「どうした?」
「白いソースのことで、相談があるんです」
◇ ◇ ◇
「作り方を?」
「はい」
二人にベルクさんとの話を説明した。
ベルクさんが白いソースを食べたこと。
リーネの外でも使えると思っていること。
完成したソースを運ぶんじゃなく、作り方そのものを別の町へ持っていきたいと言われたこと。
「そんなものまで売れるんだね」
ミラが少し驚いた顔をする。
「俺もびっくりした」
「でも、言われてみればそうか。作り方を知らなきゃ、同じものは作れないもんね」
「そうなんだよ」
俺もベルクさんと話すまで、そこまで具体的に考えたことはなかった。
ミラの父親は少し考えてから口を開いた。
「それで、こっちには何か影響があるのか?」
「そこは大丈夫です。リーネでは今まで通り作って売っていいって話にするつもりです」
「なら、うちとしては困らんな」
「あと、ベルクさんが町の外で作り方を扱うとしても、教えた店が勝手に他へ広めないように約束させるって」
「なるほどな」
父親が頷く。
ここまでは問題なさそうだ。
俺は少し迷ってから、本題を口にした。
「それで……白いソースって、俺とミラで一緒に作ったじゃないですか」
「うん」
「だから、俺だけでベルクさんに作り方を売っていいのかなって」
ミラが一瞬きょとんとした。
「そこ気にしてたの?」
「気にするでしょ」
「レインが作ろうって言い出したんじゃん」
「でも最初から今の味だったわけじゃないし」
最初に作ったものなんて、かなりひどかった。
うまく混ざらなかったり、油っぽすぎたり、味がおかしかったり。そこから何度も二人で試して、今の白いソースになった。
「私、一人だったらそもそも作ってないよ」
「それはそうだけど」
「作り方を知ってたのもレインでしょ?」
「大体だけね」
「大体すぎて失敗したけどね」
「それは言わなくていい」
ミラが笑う。
◇ ◇ ◇
「俺も、レインが話を受けていいと思うぞ」
ミラの父親が言った。
「いいんですか?」
「ああ。元になる作り方を持ってきたのはお前だ。うちはそれを一緒に試して、今は店で使わせてもらってる」
「でも――」
「それに、町の外で誰が使おうが、うちの商売ができなくなるわけじゃないんだろ?」
「はい。リーネでは今まで通りです」
「なら問題ない」
思っていたよりあっさりしている。
「もっと何か言われるかと思ってました」
「例えば?」
「売った金を分けろ、とか」
「レイン」
ミラがじっとこっちを見る。
「はい」
「私たちを何だと思ってるの?」
「いや、そういう意味じゃなくて!」
言い方を完全に間違えた。
ミラの父親が横で笑っている。
「冗談だよ」
「やめてよ」
「でも、私たちは今まで通り白いソースを使えるんでしょ?」
「もちろん」
「なら、それでいいよ。パンもちゃんと売れてるし」
ミラが並んでいるパンを見る。
白いソースを使ったパンは、今では店に普通に並ぶ商品の一つになっている。
「分かった。じゃあベルクさんと話してみる」
「うん」
「ありがとう」
これで一つ気になっていたことが片づいた。
◇ ◇ ◇
「ところでさ」
帰ろうとしたところで、ミラに呼び止められた。
「何?」
「その作り方、いくらで売るの?」
「……それなんだよ」
「決めてないの?」
「全然」
物ならまだ分かる。
材料費があって、作る手間があって、そこに利益を乗せる。
でも作り方には材料費がない。
一回教えれば終わりだ。
「安くしすぎたら損だよね」
「そう」
「高すぎたらベルクさん買わないよね」
「そう」
「じゃあ、いくら?」
「だから分かんないんだって」
ミラが笑う。
「レイン、お金の話好きなのに」
「好きだから困ってるんだよ」
安く売って後悔するのは嫌だ。
でも欲張りすぎて話がなくなるのも嫌だ。
これは難しい。
「……ハンスさんに聞こうかな」
「結局そこ?」
「だってこういうとき頼れるんだもん」
自分でも笑ってしまった。
作り方を売る許可はもらった。
次は値段。
物を売るときとは違う、新しい悩みが待っていた。




