作り方って、どうやって売るの?
作り方を売る。
言っている意味は分かる。でも、いざ自分が売る側になると、分からないことだらけだった。
「ベルクさんに作り方を教えたら、それで終わりですか?」
「何がだ?」
「俺、もう作っちゃ駄目とか」
「なんでそうなる」
「だって売るんですよね?」
物なら売れば手元からなくなる。
でも作り方は、教えたところで俺の頭から消えるわけじゃない。
「そこから決めるんだよ」
「決める?」
「俺が何を買って、お前がどこまで認めるかだ」
ベルクさんはそう言うと、近くの店を指した。
「立ち話もなんだ。座るぞ」
◇ ◇ ◇
飲み物を一つずつ頼み、向かい合って座る。
「まず、俺が欲しいのは白いソースそのものじゃない」
「作り方ですよね」
「ああ。それを別の町へ持っていきたい」
「ベルクさんが作って売るんじゃなくて?」
「俺が毎日作るより、パン屋や料理屋に教えたほうが早いだろ」
「それはそうか」
ベルクさんは町から町へ移動する。
どこかで店を構えて白いソースを作り続けるなんて、そもそも仕事に合っていない。
「じゃあベルクさんが、向こうの店に作り方を売る?」
「そういう形を考えてる」
「……それ、俺がベルクさんに教えたら、何軒にでも売れるってことですか?」
「何も決めなきゃな」
それは困る。
一回分の金をもらって、ベルクさんが十軒にも百軒にも教えたらどうなる。
いや、百軒回るのも大変だろうけど。
「嫌そうな顔するな」
「だって、それなら俺が直接売ったほうが儲かりません?」
「お前が町から町へ回って、一軒ずつ教えるならな」
「……無理ですね」
「だろ?」
そこがベルクさんの価値か。
俺には作り方がある。
ベルクさんには、町の外の店や商人との繋がりがある。
片方だけじゃできない。
「じゃあ、ベルクさんが売るたびに俺にも少しください」
「そういうやり方もある」
「あるんだ」
「だが、俺はあまりやりたくない」
「なんでです?」
「面倒だからだ」
即答だった。
「何軒に教えた。いくらで売った。お前の取り分はいくらだ。町に戻るたびに全部確認するのか?」
「……面倒ですね」
「俺も面倒だ」
そこは意見が一致した。
◇ ◇ ◇
「だから俺としては、最初にまとめて払うほうが楽だ」
「まとめて?」
「金を払う。その代わり、決めた範囲では俺が好きに扱えるようにする」
「なるほど」
最初に金を受け取る。
そのあとは、ベルクさんが何軒に教えていくら稼ごうと関係ない。
分かりやすい。
ただ、一つ気になる。
「リーネは?」
「ん?」
「ミラの店では、もう白いソース使ってます」
「ああ」
「ベルクさんに売ったから、ミラが使えなくなるのは困ります」
「別に止める気はないぞ」
「じゃあ、リーネは今まで通り?」
「そこは最初から外せばいい」
ベルクさんは指を一本立てた。
「リーネでは、お前とミラたちが今まで通り使う。俺が買うのは町の外で扱う権利。それならどうだ?」
「それなら……」
かなり分かりやすい。
「でも、ベルクさんが作り方を教えた店が、さらに別の人に教えたら?」
「そこも決める」
「決められるんですか?」
「守るかどうかは相手次第だが、最初から何も言わないよりはいい」
現代みたいに契約書を何十枚も作るわけじゃない。
それでも商人同士なら、誰から何を教わって、どこまで使っていいかくらいは約束するらしい。
「俺が教える相手には、その店で作って売るのはいいが、作り方そのものを勝手に他へ売るなと伝える」
「破ったら?」
「次から俺とは商売できなくなるかもな」
「それ、結構効きそう」
「商人は信用で食ってるからな」
ベルクさんと取引できなくなる。
さらに他の商人にも話が広がるかもしれない。
少なくとも、何の意味もない約束ではなさそうだ。
◇ ◇ ◇
「なんとなく分かってきました」
「そうか?」
「俺が売るのは、作り方だけじゃないんですね」
白いソースの作り方。
それをどこで使っていいか。
誰に教えていいか。
そこまで含めて決める。
「物を売るより面倒ですね」
「だから先に話してるんだろ」
「石鹸なら五個渡して終わりだったのに」
「それと比べるな」
ベルクさんが呆れたように笑った。
でも、面白い。
物を作って売る。
誰かに作ってもらって売る。
町の外へ持っていって売る。
そして今度は、作り方そのものを売る。
同じ商売でも、いろんなやり方があるらしい。
「じゃあ、それでいきましょう」
「待て」
「え?」
「お前だけで決めるのか?」
ベルクさんに言われて、一瞬止まる。
「……駄目?」
「白いソース、お前一人で完成させたのか?」
「あ」
ミラだ。
最初に思いついたのは俺でも、何度も一緒に試して今の形にした。
それに今、実際に作って売っているのはミラの家のパン屋だ。
「一回、ミラたちに話してきます」
「そのほうがいい」
「危なかった……」
「こういう話は、後から揉めると面倒だからな」
危うく自分の物みたいに全部決めるところだった。
ベルクさんが止めてくれて助かった。
「話がまとまったら、また来い」
「分かりました」
「そのときは金の話だ」
「……金」
思わず反応する。
「そこだけ嬉しそうだな」
「いやいや」
否定しながら、頭の中では別のことを考えていた。
作り方って、いくらで売れるんだろう。
全然分からない。
でも。
かなり気になる。




