↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
121/264

帰り道は、少し短い?

翌朝。


 まだ少し眠い目をこすりながら、宿の外へ出た。


 ベルクさんはすでに馬車の確認を始めている。俺も自分の荷物を積み、忘れ物がないか鞄の中をもう一度確かめた。


 トーマへの土産。


 家族への土産。


 自分用に買った馬車の飾りは、鞄の外で揺れている。


「忘れ物ないか?」


「大丈夫です」


「本当に?」


「たぶん」


「今確認したばかりだろ」


「絶対って言って忘れてたら恥ずかしいので」


「便利な逃げ道だな」


 最後に部屋を確認して、宿を出る。


 二日しかいなかったエルダ。


 来たときは知らない町だったのに、離れるとなると少し寂しい。


「また来ればいい」


「声に出てました?」


「顔見れば分かる」


「またそれだ」


 俺の顔は、もう少し秘密を守ってほしい。


     ◇ ◇ ◇


 エルダの門を抜け、馬車は東へ進む。


 来たときと同じ道だ。


 でも、不思議と景色の見え方が違った。


「あそこ、来るとき休んだところですよね?」


「よく覚えてるな」


「尻が痛くて降ろしてもらったので」


「覚え方がひどいな」


 初日は見るもの全部が知らない景色だった。


 今は「あそこ通った」「この辺で休んだ」と思い出せる場所がある。


 道を知っているだけで、少し気持ちが楽になるらしい。


「帰りのほうが早く感じるかも」


「まだ出たばっかりだぞ」


「気分の話です」


「今日の夜にも同じこと言ってたら認めてやる」


 それは自信がない。


     ◇ ◇ ◇


 昼前、一度馬車を止めて休憩する。


 馬に水を飲ませているベルクさんを見て、思い出した。


「そうだ。鞄どうです?」


「これか?」


 ベルクさんが背負っていた改良版の鞄を下ろす。


 ダリオさんが手を入れた、旅向けの試作品。


 肩紐を少し広くして、底は前回傷みが目立った角を中心に補強してある。


「行きで三日使って、エルダでも使って、今日が帰り一日目ですよね」


「数えてたのか」


「俺が頼んだんだから気になりますよ」


「今のところは前よりいい」


「肩?」


「ああ。重くなれば痛くはなるが、前よりは楽だな」


「おお」


 ちゃんと改善している。


「底は?」


「まだ問題ない」


 鞄をひっくり返して見せてもらう。


 地面に置いた跡や汚れはあるけど、前回みたいに角が目立って傷んではいない。


「じゃあ成功?」


「早い」


「やっぱり?」


「帰りも使うって昨日言っただろ」


「ちょっとくらい喜んでもいいじゃないですか」


「良くなってるとは言ってる」


 ベルクさんは鞄を背負い直した。


「ただ、これで何度も旅したわけじゃない。底だって一往復で駄目になるなら困るだろ」


「確かに」


 前回だって一日だけなら問題は見えなかったかもしれない。


 何日も使って、荷物を入れて、地面に置いて、馬車にも載せる。


 それで初めて分かることがある。


「帰ったらダリオさんにそのまま言ってくださいね」


「お前も聞いてただろ」


「作った本人に直接言ったほうがいいです」


「分かったよ」


 これで忘れない。


 たぶん。


     ◇ ◇ ◇


 帰り道は、本当に少し短く感じた。


 距離が縮んだわけじゃない。


 馬車が急に速くなったわけでもない。


 ただ、次に何があるか分かる。


 休む場所。


 道の曲がり方。


 泊まる場所まで、あとどれくらいか。


 それだけで、行きより気持ちに余裕があった。


 一日目の宿に着いても、前みたいに周りを全部見て回ることはしなかった。


 飯を食べて、少しベルクさんと話して、早めに寝る。


 翌朝、また馬車へ乗る。


 二日目も同じように進んだ。


 途中ですれ違った商人とベルクさんが少し話をしたけど、俺はもう「知らない人と急に話し始めた」と驚かなかった。


 これがベルクさんの日常なんだろう。


     ◇ ◇ ◇


 三日目。


 朝から馬車に揺られながら、俺は前を見ていた。


「ベルクさん」


「何だ?」


「まだ?」


「もう少し」


「それ昨日も聞いた気がする」


「昨日は宿までだろ」


「今日は?」


「リーネまで」


 それを聞くだけで、少し姿勢が良くなる。


 見慣れた景色が増えてきた。


 街道沿いの畑。


 前にも見た小さな林。


 行きでは気にしていなかった分かれ道。


「……帰ってきた感じするな」


「まだ門にも着いてないぞ」


「分かってますよ」


 でも、エルダへ近づいたときとは違う。


 知らない町が見えてくる楽しさじゃない。


 知っている場所へ戻ってくる安心感だ。


「レイン」


「はい?」


「見えてきたぞ」


「え?」


 ベルクさんが前を指す。


 街道の先。


 まだ小さいけど、見覚えのある町の姿があった。


「……リーネだ」


 三日かけてエルダへ行って。


 二日過ごして。


 また三日かけて戻ってきた。


 初めての町の外。


 初めての長い馬車旅。


 知らない店を見て、知らない人と話して、知らない町で飯を食って寝た。


 出発したときと同じ町が、今は少し違って見える。


「帰ってきた」


「ああ」


 鞄についた小さな馬車が、馬車の揺れに合わせて揺れている。


 家に帰ったら、話すことが山ほどある。


 父さんと母さん。


 トーマ。


 ハンスさん。


 セラさん。


 ダリオさん。


「……結構忙しいな」


「帰って早々何がだ?」


「こっちの話です」


 まずは家だ。


 もう少しで、リーネに着く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。