3.接近(1)
*** 3 ***
リベルトがやってきて早十日。
夜の静寂に本を読みながら、エレオノーラは下腹部からくる鈍痛に頬を火照らせた。
額からじわじわと汗がにじみ、指を触れさせれば冷たい汗がべっとりと付着した。
毎月訪れる女性の性は慣れるものではない。
瞼は重くなるし、頭は縄で絞めつめられたみたいに痛む。
腰は油断すればピキッと逝ってしまいそうで、歩き方はカクカクと不自然なものになった。
(女性って不自由……! 毎月毎月やってられないわ!)
ホットタオルでお腹を温めよう。
少しでも痛みをやわらげたい一心で寝室から出る。
アリシアを呼ぶことも出来たが、さすがに深夜に呼びつけるのはバツが悪い。
壁沿いに暗闇の中を手さぐりに歩き、洗い場でホットタオルを用意してすぐに戻ろうとせかせかと歩いていると……
「な、なに?」
ドスッ……と足首を痛める寸前の重みを蹴り飛ばしてしまった。
右手を前に突き出して暗闇を探る。
人肌のあたたかさに触れ、夜目に慣れてくると、相手の輪郭が浮かび上がった。
「……リベルト?」
「あ……ごめ……」
リベルトが壁に寄りかかり、膝を抱えて丸くなっていた。
「こんなところで何を……。どうして寝室で寝てないの?」
エレオノーラの問いかけにリベルトは決まり悪そうに顔を逸らす。
自分から話してくれるほど、リベルトの口は緩くなってはくれていなかった。
「眠れないの?」
「……うん」
出会って十日は経過したのだから、ある程度は緊張も解けていると思っていたが、まだまだ怯えは強い。
リベルトにとっては敵の巣に放り込まれたようなものだ。
簡単に警戒心は解けないのだと、エレオノーラは鈍痛に思考が霞む中ぼんやりと考えていた。
「リベルトは私が守るから大丈夫よ」
「え……」
強張ったリベルトの手を取り、隣に腰かけて幅広の肩に寄りかかる。
驚いたリベルトの肩が跳ね、毛先がエレオノーラの額をくすぐった。
(暗さに馴染む髪。……いいなぁ)
ボーッとしながらエレオノーラは目を閉じ、頬の熱さに疲れた息を吐く。
「私ね、魔力がないの。魔力って髪色に反映してるんだけど、私は白銀だから魔力はからっきしということなんだ」
大半の魔女は水・火・風・大地の四属性の魔法を使い、結界魔法を扱える存在は重宝される。
王族は各四属性に加え、強大な結界を張れる特異な魔女だった。
ルドヴィカもビビアナも島を守る立派な結界を張れるのに、エレオノーラだけが何もできない。
「リベルトは綺麗な黒髪ね。……ううん、きっとリベルトだから素敵に見えるんだわ」
リベルトの産みの母はきっと魔力の高い貴族女性だろう。
女性であれば希代の魔女として名を馳せていたかもしれない。
がっかりしただろうか?
女を産めなくては意味がないと、リベルトを抱きしめることもなかっただろうか?
そう思うと胸が痛む。
エレオノーラは王族に生まれてしまったために、周りから蔑まれる存在となってしまった。
王族は魔女の国の象徴だ。
王族の地位を落とさんとする存在は誰も望んでいなかった。
白銀の髪は恥でしかないのだから、母や姉たちにないものとして扱われてもおかしくないのに……。
あの人たちは愛情深く接してくれたと、エレオノーラの瞳に涙が浮かんだ。
「リベルトを守れるくらい強くなるわ。そうじゃなきゃ、悔しいもの」
周りに侮辱されようとも、王族の誇りを持てと言われ育ってきた。
エレオノーラが欲しくてたまらない魔力の塊を持っていても、リベルトは男というだけで愛されなかった。
男か女か。
それだけの違いで、生きることを窮屈にしていた。
(リベルトって、私と似てるんだ。だから大事にしたいのかな? 男の人をもっと知りたいなんて……変だよね)
「エレオノーラは、キレイだよ」
「えっ?」
顔を上げると、耳まで真っ赤にして膝に顔をうずめるリベルトがいた。
とんでもないことを聞いてしまったのでは? と食い入るようにリベルトを凝視すると、リベルトは羞恥に耐えられないと更に丸くなってしまう。
「その……男の俺と目を合わせて話してくれる。対等に接してくれる。そう思ったらエレオノーラのこと……そう見えるようになって……」
(待って。それはさすがにダメだよ……)
そのくすぐったい姿にエレオノーラの心臓は大きく跳ね、頬が熱くなる。
次第にもっと見てみたいと欲と、リベルトの新しい反応を見たくなって胸が高鳴った。
「ねぇ。今、名前を呼んでくれた?」
「ちっ……!」




