2.男の人って未知(2)
美味しいものを一緒に食べて、幸せを分かち合いたい。
きっといつか、リベルトも心からの笑顔を見せてくれるだろう。
リベルトの身体が細いことも気になっていた。
あれではエレオノーラが負けた気分になる。
獣になるのは嫌だが、男性らしさというものを追求するのもアリかも知れないと、エレオノーラはほくそ笑んでいた。
「今度パーティーを開こうと思ってるの。あなたたちも参加してね」
チキンステーキを切り分けて塩とレモンにつけて食す。
優雅に食事を進めるリオナが何の前触れもなく宣告したので、姉たちは顔を合わせてうなずいた。
「お母様、私は遠慮いたします」
リオナの誘いにエレオノーラはすぐさま断りを入れる。
「えー、またぁ? だからお友達が出来ないのよぉ?」
「あはは……」
笑い過ごそうとしたが、リオナが物足りなさそうに見つめてくるので口角がヒクヒクしてしまう。
「蛾のお姫様と友達になりたがる人なんていないわけで……」と心の中でぼやいた。
黒色が最上位とされる国で、白い王族は飾りにもならない。
見栄と利益のための繋がりを求める貴族にエレオノーラは用なしだ。
しいていえば笑いものにして楽しむ娯楽のための姫君であった。
「母上。エレナの立場もお考えになってください。私だったら耐えられぬ苦痛をエレナは耐えているのですから」
「むぅ……放っておけばいいのに。そんなのねじ伏せちゃえ」
「母上とエレナは違うのです」
「はーい」
リオナとルドヴィカの会話はエレオノーラの心に棘を刺していく。
二人に悪気はない。
むしろエレオノーラを大切に思っているからこそ、それぞれの意見がぶつかっているだけだ。
大事にされているはずなのに、イヤになる。
こんなことで悲しくなるなんて、王族に生まれておきながら贅沢なのかもしれない。
だからといってこんな色に生まれたかったわけじゃない。
本の世界に入り込めば、雑音は耳に入らない。
知らない世界にエレオノーラを連れていってくれる。
エレオノーラなんかを家族として扱ってくれるのだから、家族に愚痴を言えるはずがなかった。
血が繋がっていなければ、王族でなければ……エレオノーラはただの石ころだ。
こんな暗い気持ちになるのは嫌だから、耳を塞ぐ。
魔女としては劣等生でも、いろんな貪欲に知識を求めていけば何か変わるかもしれない。
欲張りにならない程度に、魔女として、姫として――。
家族での食事を終え、さっそく昼食に出た料理を部屋に運んでもらう。
美味しかったのでいち早くリベルトに食べてもらいたいと、急いで部屋に戻るとリベルトを引っ張って席に座らせた。
煌びやかな料理が並び、リベルトは圧倒されているようだ。
リベルトがエレオノーラの世界を広げてくれるように、エレオノーラもリベルトに与えられるものは何でもあげたくなっていた。
「ローズマリーソルトにつけて食べるの。チキンにはレモンをかけてさっぱりとした味わいよ」
格別に美味しかったチキンステーキを指すが、リベルトは手を動かそうとしない。
「……お腹空いてなかった?」
また、嫌な思いをさせただろうか?
不安になってエレオノーラが一歩引いていると、リベルトは首を横に振って視線を落とす。
「ちゃんとした食べ方、わからないから」
「食べ方?」
「多分、汚い。……キレイだったから」
キレイ、とはどういう意味だろう?
疑問に思うが、肩をすくませるリベルトの気持ちはなんとなくわかる。
“蛾の姫”と指をさされたくないエレオノーラと同じように、リベルトだって恥ずかしい思いはしたくないのだろう。
エレオノーラがいると、リベルトは気が休まらないかもしれない。
ただ美味しいものを素直に美味しいと言えるようになってほしい。
ここにはリベルトを脅かす者はいないのだと実感してほしくて、エレオノーラはあえて席を外そうとした。
しかしリベルトがエレオノーラの手首を掴み、離れるのを阻止してくる。
「リベルト?」
「行かないで。……一人に、なりたくない」
はじめてリベルトから願いを口にした。
それがこの上なくうれしくて、胸がぎゅっとわしづかみにされる。
今までエレオノーラは無能の自分が嫌いだった。
家族の重荷にしかなれないことが嫌で、人前に出ることを恐れて、知識で武装しようとした。
発揮することもなく、積読のように溜まるだけ。
その知識だってエレオノーラが許可された範囲で得られるもののみ。
何もできないと思っていたエレオノーラに、出来ることがあるかもしれない。
少なくともリベルトの味方になることはできる。
不安でいっぱいのはずのリベルトが安心して過ごせる場所を作ってあげたい。
必要とされている感覚に、エレオノーラの内側がじわじわとあたたかくなり、目頭が熱くなった。
「汚くてもいいよ。そんなの後からいくらでも身につけられる。今、食べているものを分かち合えるのは今だけだから。私はリベルトといろんなことを共有したいよ」
「……うん」
はじめて――リベルトが口角を緩めて微笑んだ。
その笑顔がかわいいよりも綺麗だと思ってしまうのは、やっぱりエレオノーラは異常だからかもしれない――。




