9.襲撃と喪失(4)
至って真面目で本気なジーナの発言に、ルイーザの目つきが更に鋭くなる。
誰がどう見ても二人の相性は悪く、ジーナが語れば語るほどルイーザの逆鱗に触れていた。
「あの二人、応援してるとワクワクするんだよ」
「お前は昔からそうだった。……昔のことなのに、いつまでも私から消えてくれない」
ルイーザの剣を握る手に力が入る。
ルイーザは盲目に、執着をむき出しにしてジーナを睨んでいた。
頑固で融通の利かないルイーザに、ジーナはあきれてため息をつく。
「ルイーザは今、騎士として最強。それでいいだろ? 昔のことなんかどうでもいいことさ」
「そう、そのはずなんだ。だけどお前がいる限り、私は真に最強とは言えないだろう。……これまでは機会がなかったが」
冷徹な表情だったルイーザの口角が歪に歪む。
ようやくジーナと戦う機会を得て、ルイーザは血に興奮した獣のように目をぎらつかせていた。
「今がその機会なのだろう。正当な理由でお前と戦える」
「えーっ!? ちょっと待って! 穏便にいこうぜ、ルイーザよぉ……」
「いざ勝負っ!!」
聞く耳を持たず、ルイーザはジーナに突っ込んで斬りかかる。
「くそっ……! 姫さん! イレーネ! あたしのことは気にすんな!」
近くまで駆けつけていたエレオノーラたちにジーナは気づくと、ルイーザの攻撃を受け止めながら声を張る。
「やるしかねぇ」と気を張ってルイーザの足止めに専念をした。
(ジーナ様……! ごめんなさい、すぐに戻ります!)
今、エレオノーラが出ても足手まといだ。
ならばせめて隙を作るために思いついた策を遂行するために全力で走るしかない。
「大丈夫ですよ。ジーナ様は強いですから」
「イレーネさん……」
イレーネが誇らしげに歯を見せて笑う。
そして建物の影に駆け込み、物陰に隠しおいていた弓矢を取り出してエレオノーラに渡した。
「弓、扱えるんですよね。矢尻に火薬を練り込んであります。これをあの魔女に放てば軽く爆発すると思います」
「わかりました。ありがとうございます、イレーネさん」
火を扱う魔女でも、自分で発した炎以外からは身を守れない。
火薬を練り込んだ矢でロゼッタに攻撃し、火の勢いが増したところでアルコール度数の高い酒を投げれば一気に爆発だ。
危険ではあるが、躊躇っている余裕はない。
協力して状況を打破しようと、二人は頷き合って、ロゼッタの隙を伺ってリベルトとの戦いに集中した。
「ちょこまかと逃げてぇ……! 男は全員滅びなさいっ!」
容赦なく炎を打ち込んでくるロゼッタに、リベルトは真っ向勝負はせずに高速移動で回避しながら斬りこんでいく。
高火力の魔法を使い続け、ロゼッタには疲労の色が見え始めていた。
戦い慣れているわけでもなく、段々と足腰に限界が来て、リベルトが炎を突き抜けてついに袈裟懸けにロゼッタを斬りつけた。
「キャアアアッ!? 男のくせにぃいい! そうやって女を傷つけてきた劣等種がああ!!」
激しい怒りにロゼッタは身を震わせ、炎の勢いに毛を逆立てる。
一撃でリベルトを倒そうと、巨大な炎の玉を生成することに気を集中させた。
リベルトに集中している今が好機。
エレオノーラは弓を構え、ロゼッタを確実に射抜くと気迫を込めて矢を放った。
「ぎゃっ!?」
矢はロゼッタの背中に見事命中。
衝撃にロゼッタは炎を身にまとい防御を固めようとしたが、火薬に引火して激しく暴発した。
「ぎゃああああっ! あつっ!? いだあああああいい!!」
混乱したロゼッタは炎を巻き散らす。
少ない火薬ではロゼッタを混乱させる程度の威力しかないが、アルコールがあればしばらく再起不能には出来る。
エレオノーラはイレーネと共に酒瓶をもって、ロゼッタに攻め寄せて中のアルコールを炎に投げこんだ。
ロゼッタの炎なのか、暴発してコントロール不能の炎なのか。
燃え盛る炎の中でロゼッタの赤い瞳がエレオノーラを捕らえると、憎悪に濁らせていった。
「出来損ないの王女がああああっ!!」
絶叫をあげながらロゼッタは炎を振り払おうと暴れまわり、デタラメに火の玉を放つ。
ロゼッタの怒りがこもった火の玉はエレオノーラにも向かってきたが、リベルトがエレオノーラを抱きかかえてなんとか逃げ延びる。
しかし暴走は攻撃対象を選定しておらず、町の人たちにも火の玉は襲いかかった。
「キャアアアアッ!!」
「イレーネさん!?」
それは無差別で、どう向かってくるかもわからない。逃げていたイレーネを、火の玉は容赦なく追いかけて爆発音をたてて直撃した。
エレオノーラはリベルトの腕から抜け出し、急いで服を脱いでイレーネの身体にこびりつく火を消そうとする。
なんとか火は消し飛ばせたが、すでにイレーネは全身にやけどを負って重傷となっていた。
(どうしよう! 早く治療しないと!)
「誰か! 誰か治癒魔法を使える人はいませんか!?」




