9.襲撃と喪失(3)
風を切る音と共に、鋭い金属音が鳴る。
リベルトが剣を両手で握り、炎を斬り裂いて全力でロゼッタを抑え込もうと俊敏に動いた。
いつのまにここまで強くなったのだろう、とエレオノーラは圧倒されて立ち尽くす。
エレオノーラが護身術を教えるまでもなく、剣を手にしたリベルトは別人のように鋭い動きを見せていた。
「うぉーっ! こういうのは燃えるわ~! リベルトやべーよ、この短期間で上達しすぎっ!!」
「ジーナ様!? よくご無事で!」
リベルトの戦う姿にジーナが興奮して鼻を膨らませる。
爆発から逃れていたようで、エレオノーラは安堵に胸をなでおろした。
「大丈夫だよ、姫さん。リベルトは負けない。リベルトを信じなよ」
「信、じる……」
ジーナの確信を持った言葉にエレオノーラは、弱気になっていた自分を恥じ、手の甲で頬を強く拭った。
めげていられない。
少しでも活路を見いだすために動くんだ。
エレオノーラはロゼッタと戦うリベルトにこの場を託し、頭をフル回転させて走り出す。
(炎に対抗するには水! 令嬢を無力化するには水が一番有効!)
宿屋となれば必ず近くに井戸があるはず。
そこに溜まった水を放出して、ロゼッタに鋭利な水を飛ばせることが出来れば道は切り開けるかもしれない。
問題はそれだけの水量がなく、水を攻撃に変えるための道具もない。
ならば他の手段を考えるしかないのだが、いったいどうやって……。
(! あれって……!)
宿屋の裏に小屋がある。
幸いにもまだ炎の被害は受けていないようだ。
宿屋であり、食堂も兼ねていることからおそらくあれは酒蔵だ。
エレオノーラの頭の中にこれまで読んだ本の知識が一気にあふれ出し、必ず切り開けると思いきり酒蔵の扉を開いた。
(やっぱり! ワインに蒸留酒! 十分なアルコールがあるわ!)
水がダメならば、火を逆手に取る。
対抗するならばこれだと、エレオノーラは酒瓶に記載されたアルコール度数を確認した。
蓋を開けてもいないのにアルコールの匂いが強く、エレオノーラは目眩を覚えながらなんとかして何本か酒瓶を抱えて小屋を出た。
これを使って活路を開く。
リベルトを信じているから、エレオノーラは自分に出来ることを全力でやるだけだとがむしゃらになっていた。
炎が燃え上がる宿屋のわき道を全力で走ると、エレオノーラの白銀の髪が火の影に染まって橙色に輝く。
俯いてばかりのお姫様はどこにもいなかった。
アルコール瓶を抱えてエレオノーラが町の表に出ると、炎は近隣の建物にまで燃え広がっていた。
黒煙が空を覆っていく光景に、エレオノーラは既視感を抱く。
「いっ!? あっ……?」
強烈な痛みが頭を貫き、割れそうな痛みに酒瓶を落としそうになる。
とっさに身を丸めて回避するも、あまりの痛みに立ちあがれない。
(私は……この炎を見たことがある……?)
一体どこで?
思い出せない。
城から出たことのないエレオノーラにこんなに戦慄な記憶があるはずもないのに――。
「エレナさんっ!!」
火汗をかいてなんとか動こうと足を踏ん張らせているエレオノーラに、イレーネが急いて駆けてくる。
イレーネはエレオノーラの異常に気づくと、酒瓶の半分を受け取って手を差し出し、引っ張り上げた。
「ありがとう! イレーネさん!」
「いいえ! それより敵が増えてジーナ様が!」
「敵……?」
ロゼッタだけではない。
エレオノーラを連れ戻そうとリオナかルドヴィカが動いているのだろうか?
それともリベルトを殺そうとしてのこと?
無関係の町の人たちを巻き込むなんて、到底許せることではない。
ただリベルトと一緒にいたいだけなのに、どうしてここまで批難されなくてはならないのか。
魔女が男を下に見ているとはいえ、あまりにやっていることが過激すぎるとエレオノーラは憤りを感じずにはいられなかった。
リベルトがロゼッタと渡り合うすぐそばで、ジーナも剣を抜いて戦っている。
メラメラと業火を瞳に燃やし、ジーナに斬りこんでいくのは、以前関門で出会った騎士のルイーザだ。
魔法は一切使わず、剣技だけでジーナと渡り合い、金属のぶつかり合う音が炎に負けずと響いていた。
「ルイーザさぁ、ずっと付いてきてたわけぇ? どんだけあたしが好きなんだよ!」
ジーナのからかいにルイーザは表情を険しくさせ、刃を滑らせて思いきり横に斬る。
「おおっと!?」とジーナは身体を屈折させて身軽に避け、その柔軟を生かしてルイーザの足元を蹴り飛ばした。
「足を使うとは卑怯な! 剣で勝負しろ!」
「やなこった! ほら、あたしって足が長いだろ? 使ってやらないと宝の持ち腐れってやつさ!」
「ほざけたことを……! そもそも第三王女を誘惑した男をかばうとは、失望したぞ!」
「別にかばってねーし。それに愛の逃避行なんて面白いじゃん! 何もない人生はつまらない!」




