9.襲撃と喪失(1)
*** 9 ***
炎をまとった小石が飛び交い、砂煙が広がっていく。
夜の闇に炎がパチパチと音をたて、黒の中に血のような赤が浮かび上がる。
何が起きたのか理解できないエレオノーラは叫ぶことも出来なかった。
「エレオノーラ、怪我はない?」
「え、えぇ……」
リベルトがエレオノーラを抱えて部屋を飛び出さなければ、爆発に巻き込まれていた。
それほど威力のあった爆撃は炎の柱を空に伸ばしていた。
「あら、避けられちゃったのねぇ」
「……フィアンマ公爵令嬢?」
炎を背景に、黒いブーツで砂利を踏み鳴らしながらロゼッタが姿を現す。
二つに結った赤色の髪が炎の威力に揺れて、太陽のフレアのようにギラギラとしていた。
リオナのお気に入りに与えられる戦闘服をまとい、ロゼッタがエレオノーラを捕捉すると妖艶に舌なめずりをした。
「そんなに男の匂いをぷんぷんさせていたらバレバレですわよぉ。エレナ様ぁ?」
「どうしてあなたが……」
「エレナ様が男に誘惑されたって聞いてぇ。連れ戻すよう命を受けましたのぉ。わたくしに命じるなんて、王族の方々もなかなか目の付け所が違いますわねぇ」
自信に満ちた恍惚の笑みで瞳にエレオノーラを映しこむ。
あまりに威圧的で恐ろしい魔女の姿に戦慄が走るが、負けていられないとエレオノーラは手に汗を握りしめた。
(フィアンマ公爵令嬢は強い。魔女の育成学園で火の魔女として好成績を収めたと有名な方だもの)
弱いエレオノーラを見せれば、ロゼッタはもっと調子に乗る。
ただでさえ魔法の使えないエレオノーラには不利な状況だ。
なんとか隙を見つけて状況を打破しなくてはと、沈黙を選んでロゼッタに抵抗を示した。
「実はわたくし、前からエレナ様に腹が立っておりましたのぉ」
クスクスと嘲笑を浮かべ、高圧的にエレオノーラを一瞥する。
「魔力も持たないのに、ルドヴィカ様やビビアナ様と並ぶなんてあきらかおかしいですわよねぇ? 王族たるもの、最強でなくては示しがつきませんことよ?」
長年抱えていたエレオノーラのコンプレックスを刺激し、煽っていく。
こうして話している間にも、建物の炎は大きくなっていき、黒煙が空に浮かぶ月を飲み込んでいった。
「わたくしの方がずっと強い。ここで男を滅し、エレナ様を捕まえれば──」
赤いルージュが蠱惑の微笑みに色を添える。
「わたくしの次期当主の座も確実ですのよぉ!!」
ロゼッタが手を前に突き出すと、炎の塊が放たれる。
あまりに早く、屋根や床の木材を巻き込んでエレオノーラに一直線に炎が向かっていった。
(ダメだ、避けられない!)
せっかくここまで来たのに――!!
声を上げることも出来ず、エレオノーラは熱波に耳を塞いで視界を閉ざした。
だがいつまで経ってもエレオノーラの身体は熱に焼かれない。
室内の温度は上昇し、全身汗で濡れているが、身体の感覚は残っている。
何がなんだかわからないまま、エレオノーラが目を開くと、リベルトがエレオノーラの前に出て片膝をつき、剣を構えてロゼッタと対立していた。
「リベルト……?」
リベルトが息を深く吐き、グッとかかとを踏み出してロゼッタに斬りかかる。
力強さと俊敏さがロゼッタに襲いかかり、焦ったロゼッタが炎を暴発させて大きく後退した。
「何っ!? 剣で炎を斬ったですって!?」




