8.北の領地へ(7)
(アリシア、元気かな……?)
大好きなアリシアを思い、とうに見えなくなった城の方面を見る。
ルドヴィカが襲ってきた時、アリシアは顔面蒼白だった。
おそらく脅されていたのだろう。
エレオノーラの専属メイドなのに、守ってやれなかったことは今でも悔いていた。
「ご飯出来ましたよー!」
激しい特訓でぶつかり合う二人に、エレオノーラは駆け寄って声をかける。
するとジーナは瞬時に木刀を引いて、子どものように無邪気な笑みを浮かべて草原を走り出した。
「飯だ飯だー! 腹減ったー!」
食べることに素直なジーナに、エレオノーラはほっこりとした癒しを感じる。
本音を言えなかったエレオノーラにとって、ジーナの素直さは見習いたい。
「リベルトも。ちゃんと食べて体力つけようね」
隣に立つリベルトの手を取り、歩き出そうとする。
だがリベルトは動こうとせず、エレオノーラに詰め寄った。
すがるようにエレオノーラの肩に頭をのせ、腰に手を回してくる。
突然甘えん坊になったリベルトに驚き、エレオノーラは瞬きを繰り返すと、リベルトの背をそっと撫でた。
「どうしたの?」
「早く強くなりたい」
「リベルトは十分強いよ。 私はこうしてギュッとしてもらえて幸せだもの」
「……うん」
消えそうな小さな声で頷くリベルト。
元気のない姿に、エレオノーラの胸が締め付けられる。
こうしたふとした瞬間に、リベルトの言いたいことが分からなくなる時があった。
もしかしたらジーナなら汲み取ることが出来るかもしれない。
エレオノーラはリベルトの傍にいたが、男性に関しては無知だ。
男性の住まう領地の辺境伯となれば、男性の生態や悩みを熟知しているかもしれない……。
「……いいな」
「エレオノーラ?」
「行こうか。今日はね、私がおにぎりを握ったの。想いをこめてしっかり握ったからね」
あれからイレーネに具体的に効力を教えてもらい、おにぎりに気持ちを込めて握ると、災いを退けてくれると学んだ。
エレオノーラは古い伝承の知識を得られた気分に鼻歌を歌う。
今、とても幸せな状況にあるのだから、これ以上欲張ってはいけない。
エレオノーラはいつまでも離れてくれない影から目をつむり、見ないふりをするしかなかった。
「うん、うまーい! 何個でも食べれるな!」
両手におにぎりを持ち、とろけた笑顔のジーナ。
「ジーナ様、明日の分も兼ねとりますから食べ尽くさんといてくださいね。領地に着くまでになくなりはったら本末転倒です」
「わかってるけどさぁ。エレナが握ったやつって元気になるんだよ」
「私のですか?」
「うん。なんか気合入ってんな~って。意外と疲れてないんだよなぁ。おかげで帰り道もサクサク帰れてるし」
領地へと戻る道は想定よりも順調で、トラブルもなく進んでいた。
王都を出てから色んな町を通り、人々の暮らしを見てエレオノーラは考えることばかりであった。
魔力の高い人にばかり囲まれていたエレオノーラにとって、アリシアのように茶色の髪をした人が平民として生活している光景が新鮮だった。
城に集まるのは高等魔女であり、赤や青といった華やかな色が多かったから。
王都から遠ざかればエレオノーラみたいな人もいるだろうと期待したが、残念ながら白い髪の女性は老婆以外見ることはなかった。
「早く領地を見てほしいですわ。エレナさんみたいな美人さん、モテはるんやろうなぁ」
「美人では……」
「そんな謙遜しんといてください」
と言われても受け取り方に困ってしまう。
エレオノーラはリベルトに一直線のため、今さら女性たちにモテたとしても申し訳なさが上回ると、回避したい事項であった。
それはそうとしてついに北の領地にたどり着くと、期待値は上昇した。
「楽しみです。イレーネさんのこともたくさん教えてくださいね」
エレオノーラの言葉に、イレーネは切なく表情を曇らせた。
「うちは魔法が使えんので……。ジーナ様がおらんかったら、きっと惨めやったんやろうなぁ」
イレーネの呟きはエレオノーラには痛いほどに理解できた。
北の領地にいる女性について、イレーネは私見を混ぜながらエレオノーラに語ってくれた。
見た目においては魔女との違いはない。
だいたいが茶髪か金髪の女性だと教えてくれた。
さすがに黒髪に近い色を持つ女性は一人もいない。
魔法が使えない分、女性たちはたくましく生きる力を身に着けていた。
魔女ならば魔法で楽をしてしまうようなことも、手塩にかけて高品質のものを作り出す。
イレーネは馬の調教技術や育成を得意としており、ジーナの外出に同行することが多くなったという経緯があった。
この国は魔法を活用して生活する。
特に王都は魔法に優れた人が集まっており、なおさらエレオノーラは劣等感が酷かったのだと知った。




