2.白の魔女と黒の男(2) ※
まるで子どもの世話をしている気分だ。
加えてシャツのボタンを外していくたびに肌色がチラ見えしてワクワクが止まらない。
つい触ってみたい欲が勝り、衣服を脱がすついでにリベルトの腹に手をあてて男性というものを知ろうとした。
するとリベルトは顔を赤くし、エレオノーラを突き飛ばして背中を向けてしまった。
「じっ、自分で脱げるから!」
「……そう?」
チャンスを逃してしまい、エレオノーラはつまらないと唇を尖らせる。
いそいそとバスタブに隠れて衣服を脱ぐリベルトを覗き見しつつ、今度は髪を触ってやろうと手のひらで石鹸を溶かした。
(リベルトってちゃんと喋れるのね。……怖がっていただけかな?)
リオナに鎖を引かれていた時は生気を感じないくらいに虚ろだった。
今はある程度意思表示が出来ており、表情の移り変わりもある。
北の領地での暮らしはどうだったかわからないが、本に書かれているほど男性が別の生き物とは思えなかった。
背後で水の跳ねる音がする。
どうやらリベルトがバスタブに身体を沈めたようだ。
お湯が溢れ、タイルの上に立つエレオノーラの裸足を濡らしていく。
今が好機とエレオノーラは鼻息を荒くし、泡立つ手をリベルトの前に持っていった。
「髪、洗うね!」
「えっ!?」
リベルトが抵抗するより先にエレオノーラは泡を髪に付着させる。
汚れた匂いがするかと思ったが、意外にも無臭だ。
今まで身体が冷えていたのか、湯に入って血色を取り戻していくリベルトを見下ろしながらエレオノーラは上機嫌に石鹸の泡をかきたてた。
「えっと……自分で、やるから……」
「いいから。私がやりたいの! 気にしない!」
困惑するリベルトを無視してエレオノーラは汚れの落ちていく黒髪を堪能する。
毛の質はやわらかいようだ。
繊細で細く、汚れさえ落ちればすぐに指通りが良くなるだろう。
これは見事な黒髪が見られるかもしれないと興奮して手を動かしているうちに、泡が立ちすぎてしまい、リベルトは顔まで泡まみれになっていた。
「わあっ! ごめんね! すぐに流すから!」
これではリベルトの息が止まってしまうと、慌ててお湯を桶で掬い、泡を落としていく。
すべてを流しきると、汚れが付着した泡がバスタブの隅に移動して溜まっていった。
相当汚れていたんだと、エレオノーラが呆けていると、リベルトは眉をひそめて顔に張り付いた黒髪を指でかき分ける。
今まで泡で隠れていた本当の色と、男性の身体付きがあらわとなってエレオノーラを釘付けにした。
(すごい……。本当に男性なんだ)
痩せてはいるが、女性とはあきらかに異なる身体付き。
二の腕の盛り上がりや、浮き出た首筋。
エレオノーラよりも横幅の広い鎖骨。
どこをとっても筋っぽいラインが出来ており、汗が伝うとやけに色っぽく見えた。
後ろから肩に触れてみると、肌の熱が直に伝わり息を呑む。
(男の人って、こんなに綺麗なんだ……)
嫉妬してしまうくらいに、髪も瞳も欲しくなる。
本だけがエレオノーラの世界を広げてくれた。
抑制された好奇心がどんどんあふれ出し、エレオノーラは身を乗りだして湯に手をつけた。
「! なにして……」
「リベルトは痩せている方なの? 本だと男はもっと毛むくじゃらで、女性の倍は大きいのよ」
「別に……俺は普通……」
今、リベルトから怯えは感じない。
驚きや戸惑いは感じても、決してエレオノーラを威嚇するようなものではない。
一体どこが乱暴で、獣のような生き物なのだろう。
繊細で、喜怒哀楽もあって、エレオノーラと何ら変わりない。
(でもやっぱり違う。どこがって言われてもよくわからないけど)
あきらかに違うのは下半身に付いているものだったはず。
女性には無いものが男性にはあると書かれていたが、どんなものかは詳細にされていない。
男性について記述された本は少なく、知っていても語りたがる者はいないため、エレオノーラの知識は断片的でしかなかった。
触るのは嫌がられるけれど、見るだけなら……とエレオノーラは目をカッと開いて湯の中を眺める。
泡のせいではっきりとは見えないが、女性にはない何かがくっついているのは想像できた。
「ねぇ、リベルト。男の人を見るのはじめてだから。その、気になって……。身体、触っていい?」
「さっ!? だ、ダメだ!!」
エレオノーラの好奇心に耐えていたリベルトだが、捕食者の目をしたエレオノーラに両手を突き出し、拒否を示した。
湯があふれて波となり、エレオノーラを前から飲み込んで濡らしてしまう。
思わぬびしょ濡れ状態にエレオノーラが目を点にしていると、リベルトは興奮した様子でバスタブのふちに手をついた。
「おっ……男にだって恥ずかしい気持ちはある!」
「えっと……」
「だからっ……そんな風に触らないでくれ! 恥ずかしいんだ!」
恥ずかしい。
そうか、恥ずかしいのか。




