8.北の領地へ(5)
「女が三人か。ずいぶんと荷物が多いようだが」
「北の領地は辺境の地なんでね。これから冬になる。蓄えがないと民が飢えちまう」
ジーナの答えに騎士は怪訝そうに眉を寄せ、一部の荷を確認して手を引いた。
荷馬車の隅で身を小さくする女性三人を一瞥し、一人一人をこまかに凝視する。
一人はイレーネ。
元よりジーナの付き人として関門を通過しているため、問題は起きないだろう。
増えたのは二人、エレオノーラとリベルトだ。
リベルトは茶色いロングウィッグを被せ、体格をぼかすために毛皮やロングスカートを着用していた。
エレオノーラはモカ色のボブを選び、ジーナによって顔の原型がわからなくなる強烈な濃い化粧を施された。
まるでインチキ占い師のようなマダムの雰囲気を漂わせている。
あきらかに似合っていない化粧に、けばけばしい恰好をしたエレオノーラは特に注意深く見られた。
「人数が増えた理由は?」
「人手不足なんだ。少しでも魔法が使える人材が欲しい。ちょうど職を探していたみたいだから引き取った」
「人が足りないことはないだろう」
「人が多いからこそ、魔女が必要なんだって。わかんだろ? 優秀な魔女はみぃんな王都か北西部にとられちまうんだから。なぁ? ルイーザ?」
ジーナが気さくに騎士・ルイーザの肩に手をかけ、ポンポンと叩く。
ルイーザは不愉快だとジーナの手を振り払い、「もういい」と煙たそうに荷馬車から距離を取る。
どうやら二人は顔見知りのようだ。
とはいっても、エレオノーラから見てもルイーザはジーナを嫌っているのはあきらかだった。
(ルイーザって、聞いたことあるわ。お母様のお気に入りで、戦闘力最強の騎士だって)
王族を除き、戦闘力最強の兵士・ルイーザは有名人だ。
魔法だけでなく、剣術も使える総合戦闘力の高い魔女だった。
「もう行け。二度とその面見せるな」
「へいへーい。それではさよーならー」
ジーナはルイーザにひらひらと手を振り、軽い足取りで馭者台に乗り込む。
イレーネがすぐに隣に並んで座り込み、手綱を取って馬を進ませた。
エレオノーラは荷台からコッソリと顔を半分だけだし、関門からこちらを睨み続けるルイーザを見る。
もの言いたげな目つきだと、ルイーザに違和感を抱きながら遠ざかる関門を眺めていた。
第一関門を抜けると、世界は一変して緑が広がる草原が続いた。
見つからずに済んだとエレオノーラは安堵し、胸を撫でおろす。
しばらくは変装を維持しなくてはならないが、リベルトはむずがゆそうにウィッグを指でいじくっていた。
あまり女性の恰好は好きでないらしく、検問は越えたからとリベルトは毛皮を外して元々着ていた外套で顔周りを隠してしまった。
美人さんを堪能できなくなり、エレオノーラが少しがっかりしていると、リベルトは鼻をスンと鳴らして訝しげにジーナを一瞥した。
「……あの人、同じ感じがする」
「えっ?」
「ジーナと、さっきの人。似てる」
少しだけ言いたいことはわかるような気がした。
険しい空気をまとうルイーザと、へらへらと能天気に笑い声をあげるジーナ。
対称的な二人に思えるが、どことなく似ている気がしないでもない。
見た目が似ているわけでもなく、だからといって友人でもなさそうだ。
どういう関係だろうとエレオノーラが疑問に思い、ジーナに寄って直接尋ねてみた。
「ルイーザは昔馴染みだよ。剣術学校で一緒だったんだ」
あっさりと答えてもらい、エレオノーラは拍子抜けする。
「剣術……すごいですね」
似ている、という意味では外れているが、研ぎ澄まされた武人という点が二人の共通点だろう。
「そう、剣術ってカッコいいんだ! 魔力が低くても戦える!」
魔女の国では剣術の価値が低い。
魔法で攻撃してしまえば、剣技で勝つことが難しいからだ。
暗黒時代も魔女が男を制圧できたと伝えられている。
それほどまでに魔法とは革命を起こす強力さと証明されていた。
女性の体格で重い剣を振り回すのは難しい。
相当体格に恵まれた女性でしか出来ないことだ。
貴族にいたっては手に傷をつけることを嫌がるため、剣術の需要はないに等しかった。
高等魔法も使え、剣術も身に着けたルイーザは唯一無二であり、重宝されるのも納得であった。
ジーナは魔力が低く、魔女としては戦えない。
そのため身に着けたのが剣術であり、身軽さを生かした戦闘スタイルだった。
「魔法が至高のものになってるけど、身を守るという点では剣術もその一つだろ?」
「そうですね。魔法以外にも素敵なことはたくさんありますね。剣術も魔法も差はないと思います」
エレオノーラの肯定的なとらえ方に、ジーナは嬉しそうにはにかんだ。
ジーナの手は剣だこだらけだ。
努力を積み重ねてきた人の手だと、エレオノーラはジーナの生き様に敬意を抱いていた。




