8.北の領地へ(2)
(ジーナ様って細いのにいったいどこにあれほどの量が入っているのかしら?)
「リベルトはもうちょっと食べな。そんなヒョロヒョロじゃ、女と大差ないだろ。もっと頑丈になってもらわないと」
リベルトの細さはジーナから見ても突っ込まずにはいられないようだ。
本に記載される男性の絵は、女性に比べて体格が大きく、獣のように毛むくじゃらなもの。
実際にはそんな顕著なものではないとわかったが、それでもリベルトは見た目の美しさも相まって長身の女性に見えなくもない。
少しずつ骨格に見合う筋肉をつけてはじめてはいるものの、まだエレオノーラより少し逞しいといった程度であった。
「エレオノーラは、がっちりしていた方が好き?」
「え~? そういうわけではないけど……そうね。がっちりの方が好きかもしれないわ」
(筋肉のつき方が違うからね。骨の筋張り方とか、雄々しさがあると違いがあって面白いわ」
「わかった。エレオノーラがガッシリ好きなら、もっと鍛えるよ」
リベルトの答えに、エレオノーラは「そういうつもりはなかったが」と考え込むも、リベルトが前向きにとらえるならば良いことだと受け止めた。
エレオノーラはリベルトに触れることに好奇心を抱いているが、中でも細い腰に抱きつくのが好きだ。
後ろから抱きついて、背中のたくましさに頬擦りをしながら平べったい腹に手を這わせたいと、痴女のような考えを脳内で展開した。
「姫さんはさ、北の領地についてどれくらい把握している?」
「えっと……男性の居住区で、男性が出られないように結界が張ってあって……。あと、北の女性はたくましいとよく耳にします」
ジーナの問いにエレオノーラは一度詰まるも、本で得た知識をピックアップしていく。
「たくましいねぇ! それは嬉しいことだ!」
たしかにジーナはスラッとした見た目だが、身のこなしはそこらの魔女では止めることも出来ないくらい器用だ。
エレオノーラとしっかり話をしようと、ジーナはイレーネと手綱を交代して再び四つん這いで戻ってきて、エレオノーラの隣に座り込んだ。
「姫さんも少しは鍛えないとな」
「はい……」
情けないことだが、木箱の代わりにジーナにしがみついてなんとか揺れに耐える。
慣れるまでしばらく時間がかかりそうだと目眩を感じるも、滅入っていられないと気を取り直した。
(戦えるようにならないと。なにか方法はないかしら?)
ジーナが剣を扱っていたのを垣間見たが、ずいぶんと手慣れているように見受けられた。
こうして考えてみると、本で得た知識も大して役に立たないと思い知る。
外に出られない分、なんでも知っていこうと雑多に読んでいたため、これといった深い見識がなかった。
良くも悪くも、浅く広くといった程度だったと、思いきり落胆した。
「北の辺境伯領地は、魔法を失った女の居住区さ」
「魔女……ではない?」
ジーナの語りはさっそくエレオノーラに衝撃を与え、動揺に心臓が苦しくなる。
魔女ではないということは、エレオノーラと同じだ。
エレオノーラのように白銀の髪をした女性たちがたくさん住まう場所ということか?
魔力を持たない女性がいるのは知っていたが、実際に見たことがなく都市伝説的な感覚だった。
「魔女ではない女。つまりこのカースト国家では弱い女だ。あたしの管理する領地はそういう女が主な領民さ」
暗黒時代、女神・ミネルバをはじまりとし、女は魔法を身に付け進化した。
だが全ての女が適応できたわけではない。
知らないことがどんどんエレオノーラに吸収されていく。
情報を制限されていたにしろ、これでは北の領地に関する情報は偽りだらけではないかと怒りさえ湧きあがって来た。
散々エレオノーラは白銀の髪を持つ王族の恥だと指をさされてきた。
そのたびに家族に守られてきたが、エレオノーラと同じ魔力のない女性たちを北に追いやった。
魔女の国は、虐げられた女の人のために作られたはずなのに、片隅に追いやられた人たちを思うと煮え切らない感情に歯を食いしばった。
「魔女ではない女が辺境地にいたとは……」
「まあ、隠してるからね。魔女を頂点に君臨させる上で、女の弱さは見せちゃいけない。種の進化。先行くのが女と認識させるためだ」
「王族なのに、何も知らなかった」
「わざと教えなかったんだと思うよ? あんたは王族であり、魔女の誇りとして育てられた。ハッキリ言うと、強い王族にとっての汚点。弱い女というだけで向けられる目は厳しい」
「それはよくわかっています。ずっと周りから蔑まれた目で見られてきましたから」
エレオノーラの自己嫌悪に、ジーナは口角を上げて指先をパチンと鳴らす。
「そこがポイント。魔女じゃない女を知ったら、姫さんはそちらの味方をすると考えたんだろう」
「それは……」
否定しきれない、とエレオノーラは気まずさに視線をさまよわせる。
「でもそれは王族否定だ。魔女は強さを示すことで最高層に位置する。姫さんには王族としての矜恃をもってほしかったんだろうね。笑われても跳ね返すだけの王族のプライド、そして魔女である誇りを」
エレオノーラの目が大きく見開かれる。
ずっとエレオノーラは微笑みの仮面をかぶって生きてきた。
本当のエレオノーラは劣等感でいっぱいで、いつも俯いていた。
王族でよかったと思ったことは一度もなかった。
強い魔女に囲まれ、惨めさに蝕まれた「蛾のお姫様」でしかなかった。




