6.欲しいものは掴み取れ!(2)
「私はリベルトを愛しています! だから一緒に生きていける道が欲しい! そのためにジーナ様の持っている情報が欲しい!」
「ふ~ん」とジーナは顎をくいっと上げるだけだ。
まだ足りない。
エレオノーラの気持ちだけではジーナを動かせない。
だったらエレオノーラは美しい蝶々でなんかいなくてもいい。
蛾は蛾らしく、醜くても足搔いてみせろ!
「私がこの国を変えます! 魔女も男も、平等でいられる道を! 好きな人の傍にいることをバカにされる世の中なんて絶対におかしいから!!」
ここまで腹から声を出したことはない。
肩を大きく上下させ、ジーナを逃がさないと眼力を込める。
気品よく、お人形さんのようにすまし顔でいることが美徳だった。
そんな型通りのお姫様ではいられない。
欲しいものを手に入れるために、エレオノーラは強欲の魔女になる。
「ふっ……ふはっ! アッハッハッハ! なにそれ、それがメリットのつもり!? 全然あたしに得なんてないじゃーん!!」
ジーナは大口を開けると、空に向かって大胆に笑い出す。
しまいにはむせてしまい、それこそ「獣」のようなおぞましい声を発していた。
こんな人は見たことがないとエレオノーラが呆気にとられていると、ジーナは器用にも拘束を振りほどいて大きく一歩退いた。
「あっ……!」
また逃げられてしまう。
そんなのはダメだ!
もう自分のことでウジウジしていられないし、諦められないのだから踏ん張るしかない。
「に~が~し~ま~せーーーーんっ!!」
「うおっ!?」
両手を前に突き出してジーナへ捨て身でタックルする。
身軽なジーナはあっさりと避けてしまい、支えもなくエレオノーラは地面に突っ伏した。
あちこちが擦り切れ、じんじんと痛みだす。
おそらく血が出ているだろうが、それを目視するほどの余裕はない。
ゾンビのように這いつくばってジーナの足首をつかみ、砂埃で汚れたであろう顔を無様にさらして叫んだ。
「ジーナ様が何を欲しいのかわかりません! だけど私にはジーナ様に求めるものがある! だからチャンスをください!」
「チャンス?」
「私がジーナ様の願いを叶えます! 簡単に手に入るものじゃなくても、どこへだって足を運んで手に入れます! 絶対に、絶対にっ!!」
「あーあーあーっ! もう! わかった! わかったから落ちつけって!」
降参だと、ジーナは両手を上げて地面に倒れるエレオノーラを引き上げようとする。
砂利で擦り切れた手のひらに、勢いをつけたことによるドレスのほつれが露になった。
それをジーナは困った様子で砂利をはたき落とし、服の袖でエレオノーラの頬を拭い始めた。
「まったく、とんでもない姫さんだ。ほら、鼻血が出てる」
「あっ……」
途端に我に返り、エレオノーラは熱が頬に集中する羞恥に襲われた。
ゴシゴシと鼻を拭われ、血が付着したことに決まり悪くなって項垂れる。
「いいよ。あたしに教えられることは教えてやる」
「本当ですか!?」
「ほんとほんと。あたしは一度言ったことには筋を通す人間でね。……姫さんの熱い思い、受け取った。本気でそのリベルトってのが好きなんだな」
その言葉は、これまで気を張って生きてきたエレオノーラを崩すには十分な暖かさだった。
「ふっ……うえ……うえぇぇ……!」
「あーもう、泣くなって。かぁいい顔が台無しだぞ」
「うああああああん! うっ……うわあああああんっ!!」
何も掴むことの出来なかった日々。
魔力がない王族の恥として生きるしかなかった。
家族に守られるだけで、何も出来なかったことに後ろめたさを抱いていたエレオノーラは、ようやく一歩を踏み出せた気がした。たった一歩でもその一歩が難しかった。
変われる。
エレオノーラを縛りつける劣等感が消えたわけではないけれど、臆する理由はなくなった。
リベルトと一緒にいるためにエレオノーラが出来ること。
険しい道を進む一歩に、エレオノーラは感極まって幼子のように泣きじゃくった。
泣き止むまでには時間がかかってしまったが、その間ジーナはずっとエレオノーラを抱きしめて背中を撫でてくれた。




