6.欲しいものは掴み取れ!(1)
*** 6 ***
三日間部屋に引きこもって、さすがにこのままではいられないと外に出た。
一人で中庭を歩くのは物足りなさがあり、あれほど鮮やかに見えていた花はどれも色褪せて見えた。
リベルトを恋愛対象として好いていると自覚したものの、一歩を踏み出す勇気がない。
エレオノーラは仮にも王族であり、民に示しのつかないことは避けたいところだ。
加えて魔力を持たない蛾のお姫様では、リベルトを守り切るには力不足。
今はリオナが許可しているからリベルトに傍にいてもらえているが、それがなくなればエレオノーラに守る力はなかった。
(お母様もお姉様たちも、みんな大好きよ。だけどこのままではダメだってこともわかっているの)
守られているだけのお姫様ではいられない。
ならば王族として恥ずかしくないだけの力をつけなくてはならないのに、エレオノーラにはその元手がなかった。
八方塞がりだとうなだれ、活路を見いだすために結局図書館に赴くしかない。
エレオノーラに出来るとすれば、男の人だからと区別されることのない環境作り。
道を作るヒントはきっと、暗黒時代に隠されている。
そう当たりをつけて動くしか、エレオノーラには思いつかなかった。
「あら? あの方って……」
図書館とは縁の遠そうな銀の短髪が日の光に煌めいた。
外へ出るやそそくさと外套のフードを被り、辺りを見回してその場を立ち去ろうとする。
その人物を逃せば次の好機はいつ訪れるかわからないと、エレオノーラは瞬時に走りだした。
「ジーナ様っ!!」
「うおっ!? なんだなんだ!? 襲撃か!?」
エレオノーラに背後を襲われたジーナは即座に身構え、腰に下げた剣を抜いてエレオノーラの顎に突きつける。
「って、なんだ。姫さんじゃないか。久しぶりだねぇ! 元気にしてたかい?」
「お久しぶりですジーナ様! あのっ! 図書館にはいったい何の用で!?」
「んええ……っと。ソフィアっちにちょ~っと用事があってぇ……」
「ソフィアに?」と、エレオノーラは剣を引こうとするジーナの手首を捕まえる。
離してしまえば以前のようにジーナがさっさと逃げてしまうことは一目瞭然だった。
(おかしい。ソフィアは滅多に人と会おうとしない。ましてや北の辺境伯なんて接点があるとも思えない)
「ソフィアとはどういう関係ですか?」
「えぇーっと。領地運営に関しての報告書をソフィアに提出してるってかぁ……」
「報告書……」
ジーナの管轄は北部の領地運営だ。
北部といえば、この国で生まれた男性が移送される地で、男性中心の社会形態があるはずだ。
やはりジーナに話を聞かねば先に進めないと、エレオノーラは覚悟を決めて両手でジーナを拘束した。
「教えてください。北部ではどのように男性は暮らしているのですか? 本当に歴史書に記されるような野蛮な方しかいないのでしょうか? 居住区を分けなくてはならないほど、魔女と男は相容れな――」
「ちょちょちょ! ストップストップ! 質問は一つずつにしてくれよ!」
「あっ……も、申し訳ございません……」
焦る気持ちがエレオノーラを突き動かす。
リベルトを守っていくために、北部のことを知りたい。そこでどんな風に生きてきたのか。
ちっとも野蛮ではなく、むしろ温厚で素直な姿は想像していた男性像とかけ離れていた。
「質問するのはいいよ。でも教えてあたしに何のメリットがある? 正直、姫さんに話せるほど生易しい話ではないよ」
「……わかってます。隠されているということは、それなりの理由があってのこと」
ましてや王族のエレオノーラが知らないのは、明確な意図があってのことだろう。
痛いほどわかっていた。
無知なのも、外に出してもらえないのも、全部が魔女の国にとって不利益でしかないからだ。
魔力がないだけで、エレオノーラは姉たちよりも危険が多い。
身を守れない人物に国の重要機密を教えるほど、母・リオナは甘くない。
いや、エレオノーラを甘い環境に浸すことでリスクを最小限にとどめようとしているのだ。
(ジーナ様に提示できるメリットなんてない。だったらジーナ様の関心を引かなきゃ! リベルトと一緒にいたいなら大人しいままではいられないの!)
嘘は見透かされる。
だったら全部さらけ出せ。
エレオノーラの言葉で、赤っ恥をかいてでもジーナの心を掴め!!




