5.男と女(3)
ギィ……と錆びた音をたてて扉が開く。
ソフィアが中にいるようで、入ることを許されたエレオノーラはソフィアの気が変わらないうちに素早く入り込む。
木の匂いが充満した書庫内にある本には、一冊一冊魔法がかけられているおり、手に取りたいところだがエレオノーラには開くことも出来ないものばかりだ。
(ここに入るのも久しぶりね。お母様が怒るから)
「あらまあ。エレナ様お久しぶりですね~」
濃紺の艶やかなボブ髪に、眠そうなおっとりとした目元。
焼けることを知らない白い肌の魔女。
図書館の本をすべて管理し、把握する司書の魔女・ソフィアだ。
エレオノーラは幼い頃から図書館に入り浸っているが、その頃から一切見た目の変わらない年齢不詳の結界魔法の使い手だった。
「ソフィア。読みたい本があるの」
「あらあら、どういった本をお探しで?」
「魔法が生まれる前の男女がわかる本よ」
「それはあまりに禁止事項が多い項目ですね~」
「何も見られないってこと?」
のんびりとした口調をしているわりに、表情は胡散臭い笑顔だ。
昔からソフィアは笑って何も言わないことが多かった。
「おウワサは聞いておりますよ~。エレナ様は今、男を飼っていらっしゃるとかぁ」
「飼っているわけじゃないわ。リベルトは大切な人なの。……そう、友だちよ。大切な人のことを知りたいだけよ」
「それで男について知りたいのですか~?」
意地の悪い質問だ。
だがここでエレオノーラが怖気づけばソフィアは崩せない。
エレオノーラがリベルトのために出来ることは何でもしたいという意志は変わらないと、頷いて強く見つめ返した。
それを面白がってか、ソフィアはふふんと鼻で笑うと魔法で何冊かの本を手元に運んでくる。
「禁書はリオナ様の許可が必要です~。ですが禁書とは別に、わたしのコレクションならお貸ししてもいいですよ~」
「コレクション?」
ふよふよと一冊の本がエレオノーラの前に飛んでくる。
それを手に取ると、権限解除の光が放たれたのでエレオノーラはすぐさま中を開いてサッと文字に目を通した。
「……小説?」
「これは同人本といいまして。国に登録されていない個人で作成されたものです~。つまり何の根拠もない創作物」
「どうしてこれを私に?」
何の意図があると訝しげに視線を返すと、ソフィアは下劣な笑みを浮かべて答えようとしなかった。
パラパラとページをめくると、濡れた痕跡がある。
それでも結界が長年守ってきたこともわかり、大切に抱え込んだ。
「ありがとう。読ませてもらうわ。……このことはお母様には」
「もちろん~。ナイショです。ぐふっ」
腑に落ちない感覚だが、同人の本とはいえソフィアが読む価値はあると判断してのことだろう。
国に知られずに流通する本はある。
それがエレオノーラのもとに届くことはないので、ソフィアが気まぐれを起こしたことは正直驚かされた。
今までエレオノーラが追及したことのないジャンルだったからかもしれないが、それを尋ねたところで答えてはくれないだろうと、礼を告げるとエレオノーラは急いで禁書室を出た。
はやる心のまま、リベルトの待つ閲覧席へと向かう。
これで少しはリベルトを知ることが出来るかもしれない。
このふわふわする想いにも明確な名前がつくかもしれない。
「リベルト! おまたせ!」
すぐにでも本を読みたい。
サッと見た感じでは物語のようだが、どんなワクワクする世界が広がっているのだろう。
リベルトと近づく道がすぐそばにある。
この手を握ることが、誰にも咎められることのない世界が訪れたらいい――。
私室のソファーに座り、エレオノーラはソフィアから受け取った同人本を読んでいた。
内容が創作された物語調で、ウソかホントかわからないような事が赤裸々に綴られていた。
(こっ……これが男女の恋愛というもの!?)
魔法が生まれる前は子どもを作るのに男が必要だった。
記録では、女は野蛮な男から与えられる痛みにたえることで成し遂げていたことらしい。
(でもこれって……子どもを作る以前に男女は愛し合っていたということ?)
敵対する貴族の家柄に生まれた男女が、互いの顔も知らずに偶然出会うことで恋に落ちるという内容だ。
様々が障害を乗り越え、晴れて二人は結ばれて夫婦となる。
そして子どもが生まれ、死がふたりを分かつまで幸せに暮らしましたという流れだ。
(結婚……。夫婦になって愛し合う……?)
結婚という愛の誓約である。
魔女同士でもまれに『結婚式』を開いて愛を誓いあう者もいるが、昔はそれを男女で行っていたということだ。
魔女にとって結婚とは、生涯この人だけと宣誓する愛を示す。




