5.男と女(2)
「やめて! そんなこと言わないで! リベルトが男だとか関係ないわ! 私はリベルトだから大事に想って……」
「同じだよ! ……俺だって、エレオノーラは魔女だとしても関係ないって思ってる。全部、うれしかったんだ。守るって言ってくれたことも、全部」
どうしてリベルトはエレオノーラの欲しい言葉を言ってくれるのだろう?
嫉妬に打ちのめされそうになるエレオノーラさえも、許してくれる甘い言葉だ。
エレオノーラにとっては強がりに近い決意だ。
誰もがそれを否定するだろう。
リベルトだけはエレオノーラを受け入れてくれる。
それが前を向いて生きていくために、どれだけ力となるか。
守りたいのはエレオノーラの本音だ。
同じくらい、リベルトに「守りたい」と気持ちを返されると、時々弱い顔を見せてもいいんだと泣きたくなってしまった。
「ありがとう、リベルト。これからもずっと一緒にいようね。私、強くなるから」
「俺も、強くなる。エレオノーラを守れる男になる」
それは、遠い昔に消し去った甘い疼き。
誰かにずっとそう言ってほしかったような……波に打たれては消えてしまった想い。
ふと、パーティー会場のバルコニーでビビアナが令嬢と触れあっていた光景を思い出す。
ああして触れあうことは幸せを分かち合う行為なの?
もし、相手に触れたくてその感覚が湧くならば、エレオノーラはその気持ちを知っていいのか……。
「エレオノーラ?」
「リベルト……。私……私ね?」
今、たしかに触れたいと思った。
それはただ抱きしめるだけじゃなくて、好奇心でもなくて。
余すことなくリベルトを知りたくなって、触れあうことで溶けあえてしまえるのではないかという妄想だ。
(まだ出会ってそれほど時間は経ってないのに。リベルトがいないのは考えられない。変なのかな? 変だとわかってても、私にはもう、大切なリベルトだ)
何もわからないから知りたい。
この感情に名前をつけてあげたくなった。
男の人を知っているジーナならば、エレオノーラの欲しい答えを持っているだろうか?
もう一度会いたい。
北の領地の辺境伯。
エレオノーラの知りたい外を知る、魔力が低くても強く、凛と前を向いている人――。
リベルトを大切にしたい。
その想いはリベルトのために何が出来るかを考えることに繋がり、原動力となっていた。
カンカン、と木刀がぶつかり合う音が城の片隅に響く。
エレオノーラとリベルトが護身術を稽古し始めて早半年、リベルトはもはやエレオノーラを稽古する側で剣技を身に着けていた。
(すごい。リベルトは本当になんでも吸収が早いわ)
稽古を終えて常温の水を一気に喉に流し込む。
人目に付かないような場所を選んで練習してきたことから、今のところ咎められることはない。
最初は護身術として体術を教えていたが、すぐに身に着けてしまい試しに木刀を握らせてみれば剣士顔負けの腕を披露した。
才能があったのだろうが、それにしては戦闘スキルが高すぎる。
これは男性ならではの能力なのか、リベルトだからなのかは見当もつかなかった。
「今日こそソフィアに会えるといいんだけどなぁ」
稽古を終えるとリベルトにはいつも図書館に付き合ってもらっている。
「ソフィアって、司書の魔女? 前も探してたよね?」
「そうよー。ソフィアは気まぐれなの。図書館にある蔵書のことはもちろん、禁書に至るまですべての本はソフィアが管理しているのよ」
エレオノーラくらいしか立ち寄らぬ城の敷地内の図書館。
重厚な木の扉を開くと、アーチ状になった本の棚が出迎えてくれる。
いつ見ても圧倒される本の量と、古書の匂いにエレオノーラは気を良くして深呼吸をした。
「少し待っていてね? ソフィアに会いに行ってくるわ」
「俺も付いていってもいい?」
「……ごめんね。ソフィアは一対一でしか会ってくれないから」
リベルトを拒絶したいわけが、エレオノーラはリベルトを知るためにも心を鬼にしなくてはならない。
ソフィアは司書として図書館にいるのだが、気まぐれで人前に姿を現さない。
仮に顔を見せたとしても、会う相手は基本的に王族のみと決めており、毎日のように図書館に入り浸るエレオノーラでさえあまり顔を合わせたことがなかった。
リベルトを紹介したいところだが、こればかりはエレオノーラにどうすることも出来ず、ソフィアを探しに図書館の奥へ進んだ。
「ソフィアー? いるー? 聞きたいことがあるんだけどー」
奥には立ち入り禁止の扉があり、権限のないものは中に入ることが出来ない。
扉に手をかざすと、黒い楕円の魔法陣が浮き出てくる。
これは王族の血に反応する結界魔法で、許されたものしか入ることの出来ない禁書庫への入り口だ。
エレオノーラには権限が付与されているが、ソフィアがいなければ中に入ることは叶わない。
禁書自体は読むことを許されないので、ソフィアを通じてなんとか情報を得るしかなかった。




