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魔女の国~蛾のお姫様は最下層の彼と溺れる恋をする~  作者: 泉花


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5.男と女(1)

*** 5 ***


王宮内の花畑に色とりどりの花が咲く。


そこでエレオノーラはリベルトと二人で花冠を作っていた。



「わぁーすごい! リベルトって手先が器用なのね!」


リベルトが作り上げたのは、白い花をメインに作られた優しい色合いの花冠だ。


サクサクと作り上げてしまうリベルトの器用さに驚かされた。


一方でエレオノーラの作った花冠は花に申し訳なくなるほどぐちゃぐちゃで、悲惨なことになっていた。



(私って良いところなしだぁ……)



リベルトは護身術もあっという間に身に着けてしまった。


というより、教えることははじめからなかったくらい、身のこなしが器用だった。


剣を持たせたら相当な実力者になるのでは? と期待してしまうほど。



(少しはカッコいいところ、見せたいんだけど上手くいかないな)


魔力がなく、極めて不器用。


このポンコツなところも姉たちと比べられる原因の一つだった。


気を取り直してリベルトの花冠を見て、喜びを味わう。


リベルトの新たな一面を見るたびに誇らしい気持ちになっていた。



「リベルトってすごいのね。綺麗だし、器用だし、文句なしだわ」


「すごいのはエレオノーラだよ」


間を置かずして褒めてくるリベルトにエレオノーラの心臓が跳ねる。



「えぇー? どこがすごいの? 聞いてみたいな~?」


いたずらっ子の気分でからかうと、リベルトは頬を染めてエレオノーラの手を握ってくる。



「優しい。笑った顔、キラキラしてる。あたたかい。俺のこと、嫌がらない」


触れた指先から熱が伝わって、胸が高鳴りだす。


やわらかな微笑みを浮かべ、リベルトは出来上がった花冠をエレオノーラの頭にのせた。


白銀の髪に白と黄色の装飾が咲き、気恥ずかしさにエレオノーラが頬を染めていると、とびきりの甘い笑みが向けられる。



「すごく、キレイ。 はじめて女の人、キレイと思った」


「え、ええ!?」


「エレオノーラといると、あったかい。触るとドキドキする」


「も、もういいから。 リベルトってば、本当に……」



素直すぎるというかなんというか……。


こんなにも褒められたのははじめてで、不慣れさに心臓が爆発しそうだ。


余裕を見せられなくなったエレオノーラは、誤魔化すように熱くなった頬を手で覆い隠す。



「そっ、それって私のこと好きということ?」


リベルトを特別好きと自覚してから、試すようにリベルトの気持ちを尋ねてしまう。


好きと言われるたびに甘いチョコレートを口に食むような、とろける感覚に病みつきだ。



「うん、好き。エレオノーラのこと、好きだよ」


(わ、わぁー……直球。というか、ドキドキしちゃうわ!)


かわいい。


この衝動はなんだろう。


妙にギュッと抱きしめたくなった。


やはりエレオノーラはリベルトを特別好いている。


もう少しでこの正体を知れそうな気がする。


だけど知らないことが多すぎて確信が持てない。


魔女の国に生まれ、魔女として育ち、男は女を虐げる野蛮な生き物と教わってきた分、ギャップに追いつくのが精一杯だった。



「私も、リベルトが好きよ」


気持ちだけは伝えていく努力をしたい。


リベルトが誰も警戒しなくても大丈夫な世の中になってほしい。


そのためにはまず、エレオノーラから垣根を払っていくべきだ。


男だとか、女だとか、魔女だとか。


そんな固定概念は取っ払って人として向き合おうとした。



(リベルトが何でも話せるくらい、強くなるからね)


決心を固めつつ、調子にのってリベルトに抱きついてみる。


そして明確な違いを体感した。



(あら? 結構がっしりと……。やっぱり大きめの女の人とも違うのね……)


「あの……エレオノーラ……」


リベルトの呼びかけで我に返る。


「あ、急にごめんね。嫌だった?」


リベルトは首を横に振り、「嫌じゃない」と口にする。


それにほっとしたのも束の間、漆黒の瞳がエレオノーラをとらえて離そうとしなかった。



「俺も、いい?」


「えっ?」


「エレオノーラに、触っていい?」


(う、ウソでしょ……?)



頬を染め、エレオノーラの返答を待つリベルトに胸がうずく。


平然を装うも、内心はリベルトがかわいくて仕方ないので、咳ばらいをしてから手を広げ、リベルトを受け入れる姿勢をとった。



「えっ、遠慮なんてしなくていいから」


「……うん」


ふんわりと穏やかに微笑んでから、リベルトはエレオノーラを壊れ物を扱うかのように抱きしめてきた。


想像と違うリベルトの落ち着いた抱擁に、段々と恥ずかしさが増す。


心臓がうるさくて耳障りだ。


それでもリベルトの胸に耳をあてると、同じように心臓の音が聞こえてきて、それに癒されていった。



(見た目よりずっと身体、固いのね。なんだろ……ドキドキもするけど、安心もする。……触ってみたい)



はじめて出会った時、遠慮なく触ってしまったが今ではそれが恥ずかしい。


リベルトも嫌がっていたので控えていたが、今日は好奇心が刺激されて手が勝手に伸びてしまった。


手のひらをリベルトの胸に押しあてて、指先で圧してみる。


女の人とは違う骨格と、肉の付き方にエレオノーラの手は段々と遠慮がなくなっていた。



「エ、エレオノーラ……?」


「変ね。リベルトの腰は細いと思うけど、やっぱりこう……違うというか。男ってみんなこうなの?」


上手く言葉に出来ずにいると、リベルトは当惑して首を傾げる。


エレオノーラ自身がどう言えばいいのかわかっていないのだから、伝わるはずもないと肩を落として「なんでもない」と口にした。


知りたいけれど、今はどちらかと言うとリベルトを堪能したい。


触れても怯えさせることはないと知り、安堵して胸に頬擦りをした。



「抱きしめてもらえるのって、いいわね。お母様には感謝しないと」


「お母様?」


「私とリベルトを会わせてくれた人よ。 覚えてない?」


「……あの人、いやだ」


途端にリベルトは表情を険しくし、身を固くする。



「お母様は怖くないわよ?」


「魔女はキライだ。あの人は魔女。……エレオノーラとは違う」


“違う” その言葉がエレオノーラの劣等感を刺激し、リベルトを直視できなくなる。


エレオノーラは王族に生まれたのに、魔力をもたないまがい物だから。


誰よりも魔女に夢を見て、強い女性に憧れを抱いている。


誰にも脅かされない強さがあれば、リベルトを傍においても文句を言わせないのに。



「私だって、魔女よ……」


そんな嫌味を言わずにはいられないほどの、どうしようもないコンプレックスだ。



「魔女だけど、エレオノーラは優しい。すごくキレイだ。もう怖くない。……だけど俺は、男だから」


言わせたくなかったことを口にさせてしまったと気づいたとき、酷く心が押しつぶされた。

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