5.男と女(1)
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王宮内の花畑に色とりどりの花が咲く。
そこでエレオノーラはリベルトと二人で花冠を作っていた。
「わぁーすごい! リベルトって手先が器用なのね!」
リベルトが作り上げたのは、白い花をメインに作られた優しい色合いの花冠だ。
サクサクと作り上げてしまうリベルトの器用さに驚かされた。
一方でエレオノーラの作った花冠は花に申し訳なくなるほどぐちゃぐちゃで、悲惨なことになっていた。
(私って良いところなしだぁ……)
リベルトは護身術もあっという間に身に着けてしまった。
というより、教えることははじめからなかったくらい、身のこなしが器用だった。
剣を持たせたら相当な実力者になるのでは? と期待してしまうほど。
(少しはカッコいいところ、見せたいんだけど上手くいかないな)
魔力がなく、極めて不器用。
このポンコツなところも姉たちと比べられる原因の一つだった。
気を取り直してリベルトの花冠を見て、喜びを味わう。
リベルトの新たな一面を見るたびに誇らしい気持ちになっていた。
「リベルトってすごいのね。綺麗だし、器用だし、文句なしだわ」
「すごいのはエレオノーラだよ」
間を置かずして褒めてくるリベルトにエレオノーラの心臓が跳ねる。
「えぇー? どこがすごいの? 聞いてみたいな~?」
いたずらっ子の気分でからかうと、リベルトは頬を染めてエレオノーラの手を握ってくる。
「優しい。笑った顔、キラキラしてる。あたたかい。俺のこと、嫌がらない」
触れた指先から熱が伝わって、胸が高鳴りだす。
やわらかな微笑みを浮かべ、リベルトは出来上がった花冠をエレオノーラの頭にのせた。
白銀の髪に白と黄色の装飾が咲き、気恥ずかしさにエレオノーラが頬を染めていると、とびきりの甘い笑みが向けられる。
「すごく、キレイ。 はじめて女の人、キレイと思った」
「え、ええ!?」
「エレオノーラといると、あったかい。触るとドキドキする」
「も、もういいから。 リベルトってば、本当に……」
素直すぎるというかなんというか……。
こんなにも褒められたのははじめてで、不慣れさに心臓が爆発しそうだ。
余裕を見せられなくなったエレオノーラは、誤魔化すように熱くなった頬を手で覆い隠す。
「そっ、それって私のこと好きということ?」
リベルトを特別好きと自覚してから、試すようにリベルトの気持ちを尋ねてしまう。
好きと言われるたびに甘いチョコレートを口に食むような、とろける感覚に病みつきだ。
「うん、好き。エレオノーラのこと、好きだよ」
(わ、わぁー……直球。というか、ドキドキしちゃうわ!)
かわいい。
この衝動はなんだろう。
妙にギュッと抱きしめたくなった。
やはりエレオノーラはリベルトを特別好いている。
もう少しでこの正体を知れそうな気がする。
だけど知らないことが多すぎて確信が持てない。
魔女の国に生まれ、魔女として育ち、男は女を虐げる野蛮な生き物と教わってきた分、ギャップに追いつくのが精一杯だった。
「私も、リベルトが好きよ」
気持ちだけは伝えていく努力をしたい。
リベルトが誰も警戒しなくても大丈夫な世の中になってほしい。
そのためにはまず、エレオノーラから垣根を払っていくべきだ。
男だとか、女だとか、魔女だとか。
そんな固定概念は取っ払って人として向き合おうとした。
(リベルトが何でも話せるくらい、強くなるからね)
決心を固めつつ、調子にのってリベルトに抱きついてみる。
そして明確な違いを体感した。
(あら? 結構がっしりと……。やっぱり大きめの女の人とも違うのね……)
「あの……エレオノーラ……」
リベルトの呼びかけで我に返る。
「あ、急にごめんね。嫌だった?」
リベルトは首を横に振り、「嫌じゃない」と口にする。
それにほっとしたのも束の間、漆黒の瞳がエレオノーラをとらえて離そうとしなかった。
「俺も、いい?」
「えっ?」
「エレオノーラに、触っていい?」
(う、ウソでしょ……?)
頬を染め、エレオノーラの返答を待つリベルトに胸がうずく。
平然を装うも、内心はリベルトがかわいくて仕方ないので、咳ばらいをしてから手を広げ、リベルトを受け入れる姿勢をとった。
「えっ、遠慮なんてしなくていいから」
「……うん」
ふんわりと穏やかに微笑んでから、リベルトはエレオノーラを壊れ物を扱うかのように抱きしめてきた。
想像と違うリベルトの落ち着いた抱擁に、段々と恥ずかしさが増す。
心臓がうるさくて耳障りだ。
それでもリベルトの胸に耳をあてると、同じように心臓の音が聞こえてきて、それに癒されていった。
(見た目よりずっと身体、固いのね。なんだろ……ドキドキもするけど、安心もする。……触ってみたい)
はじめて出会った時、遠慮なく触ってしまったが今ではそれが恥ずかしい。
リベルトも嫌がっていたので控えていたが、今日は好奇心が刺激されて手が勝手に伸びてしまった。
手のひらをリベルトの胸に押しあてて、指先で圧してみる。
女の人とは違う骨格と、肉の付き方にエレオノーラの手は段々と遠慮がなくなっていた。
「エ、エレオノーラ……?」
「変ね。リベルトの腰は細いと思うけど、やっぱりこう……違うというか。男ってみんなこうなの?」
上手く言葉に出来ずにいると、リベルトは当惑して首を傾げる。
エレオノーラ自身がどう言えばいいのかわかっていないのだから、伝わるはずもないと肩を落として「なんでもない」と口にした。
知りたいけれど、今はどちらかと言うとリベルトを堪能したい。
触れても怯えさせることはないと知り、安堵して胸に頬擦りをした。
「抱きしめてもらえるのって、いいわね。お母様には感謝しないと」
「お母様?」
「私とリベルトを会わせてくれた人よ。 覚えてない?」
「……あの人、いやだ」
途端にリベルトは表情を険しくし、身を固くする。
「お母様は怖くないわよ?」
「魔女はキライだ。あの人は魔女。……エレオノーラとは違う」
“違う” その言葉がエレオノーラの劣等感を刺激し、リベルトを直視できなくなる。
エレオノーラは王族に生まれたのに、魔力をもたないまがい物だから。
誰よりも魔女に夢を見て、強い女性に憧れを抱いている。
誰にも脅かされない強さがあれば、リベルトを傍においても文句を言わせないのに。
「私だって、魔女よ……」
そんな嫌味を言わずにはいられないほどの、どうしようもないコンプレックスだ。
「魔女だけど、エレオノーラは優しい。すごくキレイだ。もう怖くない。……だけど俺は、男だから」
言わせたくなかったことを口にさせてしまったと気づいたとき、酷く心が押しつぶされた。




