1.魔女と男(2) ※
それからリオナはルドヴィカとビビアナを連れて応接間から出ていった。
残されたエレオノーラはしばらく扉を眺め、小さく息を吐くと再び男と向き合った。
(つい引き取っちゃったけど……どうしよう)
勢い任せで申し出てしまったが、何をどうしたいといった計画はこれっぽっちもない。
ただ怯える男を見て、持てる色を持っているのに震えるしかないのは哀れだと思った。
エレオノーラは王族なだけで、魔女としての素質は一切持っていないのに……。
(悲観的になっていても仕方ないわ! 何とかするしかないもの!)
まずは怯えを解いてもらわないと先へ進めない。
本の知識でしか男性というものを知らないので、エレオノーラから歩み寄らずに状況は好転しないだろう。
改めて警戒心むき出しの男を、エレオノーラは不思議に思いながらジロジロと観察した。
首筋に喉仏。
手が大きくて指が長い。
胸のふくらみはないが、女性よりも面積が広くて骨格がよりがっしりしているように見受けられた。
本で見た絵よりは細く、華奢に思えるので百聞は一見に如かずと実感する。
(たしか本だと男性は下半身も違うのよね?)
明確に異なるのは下半身の股あたりに異質な熱を持つ器官だと、本には書かれていた。
一体何のためにそんなものがついているのだろうと疑問に思いつつ、知識欲がそそられてエレオノーラはついついそこに手を伸ばしていた。
「んんっ……!」
衣服越しに触れると妙な弾力があり、エレオノーラは想像よりも柔らかいではないかと眉をひそめる。
さらに指を押し込もうとすれば、顔を真っ赤にした男が身をよじって牙を剝きだした。
いくらなんでも怯えた相手に遠慮がなさすぎたと、エレオノーラは慌てて手を引っ込める。
「ごめんなさい。急に触られたらイヤよね。もうしないから」
言葉は通じているようで、男は訝しげにエレオノーラを眺めるも警戒はそのままに睨みを強くした。
こんなにも怯えている存在が、本当に歴史書に書かれているように女性に乱暴を働いていたのだろうか?
本を読むだけではわからないことがたくさんだと、エレオノーラは知っていく喜びに頬を緩ませた。
「私、エレオノーラって言うの。あなたの名前は?」
エレオノーラの問いかけに男は困惑し、言葉を詰まらせている。
そう簡単に会話ができるはずもないか、とエレオノーラは割り切って男の首元に手を伸ばす。
驚いて身を引こうとする男だったが、すぐには触れてこないと気づくと、エレオノーラの出方を窺って目を合わせてきた。
光りの灯らぬ瞳ではあったが、奥深いところに星が見えた気がして、エレオノーラは一瞬、吸い込まれるような感覚を抱いた。
「大丈夫よ。首輪、外すね」
怖がらなくてもいい。
決して傷つけたりしないから。
そんな想いを胸に、エレオノーラは男の首から拘束具を外した。
男は驚いて首に指を滑らせ、途端に泣きそうな顔をしてエレオノーラを見た。
「大丈夫だよ」と微笑むと、エレオノーラに魔女特有の害がないと悟ったようだ。
「リベルト。……さっきの人に、そう呼ばれた」
「そっか。これからよろしくね。リベルト」
ここは魔女の国。
男の力に屈しないと立ち上がった魔女たちによる、男を断絶した世界だ。
かつて男に蹂躙されたおぞましい記憶が魔女の血を強めていき、国家に発展した。
交わることのない世界線で、魔力を持たない三番目のお姫様ははじめて男性を知るのだった。




