4.舞踏会と北の領主様(5)
「ジーナ様と友達になりたいです! 外のこと、北の領地のこと、たくさん知りたいんです!」
「はぁ?」
「私、知りたい。 リベルトのことも知らないことが多すぎて……」
「リベルト?」
その名前の響きだけでエレオノーラの胸は温かさに満ちる。
俯いてばかりだったエレオノーラに勇気をくれる大切な人。
もうとっくに、リベルトはエレオノーラにとってなくてはならない存在になっていた。
「少しでも、リベルトの生きやすい道を考えたい。……一緒にいたいから」
「自分のためっていうより、そのリベルトって奴のため?」
エレオノーラの譲れない気持ちだと、力強く頷く。
その心に何を思ったのか、ジーナは興味津々にエレオノーラの顔を覗きこみながら手首を掴んできた。
「ふーん、ならその話をあたしに教えてよ。交換条件」
光が差し込んだかのようにエレオノーラはジーナに照らされる。
まるで希望だと、エレオノーラは喜びいっぱいに笑みを浮かべてジーナの手に触れた。
「わかりました。 よろしくお願いします!」
「じゃ、さっそく話しますか! どっか座れるとこないかなー?」
「わわっ」
ぐんぐんと引っ張られ、エレオノーラは大股なジーナの動きに追い付こうと駆け足になる。
街路灯と月明かりに照らされる庭園を歩き回り、噴水がきらめく場所に腰かけた。
並んで座ると距離の近さにソワソワする。
ジーナの顔立ちは群を抜いて美人というわけではないが、力強い眼差しにはグッと惹かれるものがある。
猫のような吊り目で見つめられると、まるで見透かされている気分となり、心臓が激しく音を鳴らした。
「で、リベルトって誰なの?」
率直に問われ、頭の中でリベルトを思い浮かべる。
リベルトを守りたい気持ちから、自分は随分と大胆になってしまったと気恥ずかしさに頬が熱くなった。
「いつも一緒にいて、大切な存在です。その……お、男なんです……」
「ありゃー、それは大変だねぇ。 姫さんだとなおさら叩かれるだろう」
「……それだけですか?」
エレオノーラの困惑にジーナは首を傾げ、瞬きを繰り返す。
「男なんて魔法が使えないだけじゃん。男も女も大差ないって」
はじめて聞く考えだ。
エレオノーラのまわりには男を嫌悪する存在しかおらず、徹底的に見下す価値観が横行していた。
ジーナの考えは、自分だけでは壊しきれないエレオノーラの価値観そのものを破壊するほどの威力があった。
「暴力的っていうのも昔の話だし。男は男で内部層がある。魔女がいなければ女の世界と変わんないよ」
「野蛮で暴力的。女を下に見て傷つけてきた歴史があります。それが本性では?」
「今の魔女がやってることと何が違うの?」
核心を突く言葉にエレオノーラは何も言えなくなる。
ジーナはまったく気にも留めず、噴水の水辺をつつきながら饒舌に話を続けた。
「魔法がなければ男の方が力も強いし、身体も大きいから女は負けちゃうよね。魔法で立場が逆転しただけ。……まぁ、実際に女が傷つけられた歴史があるから根強い抵抗があるんでしょ」
「そういう考え方もあるんですね」
「魔女が至高の存在となるように時間をかけてるからね」
ジーナの言葉は意味深長なところがある。
まるでどうやって魔女の世界が作られたかを知っているような口ぶりだ。
少なくともエレオノーラよりずっと多くの情報をもっており、本に書かれていないことを知っている。
きっとそれはリベルトを理解するためには必要なこと。
(私は魔力がないから弱い。だから外にも出してもらえない)
だとしても、知らないことが多すぎる。
エレオノーラは王族なのに、どうしてここまでの情報制限がされているのだろう?
母・リオナは何を思ってそこまでエレオノーラから外を知る機会を奪うのか。
「でも変だね。あんた王族なのになんで知らないの?」
それはジーナから見てもそうだった。
首を傾げていると、ジーナはハッと口を開いて手足を大きく動かし慌てだした。
「あーっ! そっか、そういうことか! やば、また余計なこと言っちゃった。だああ、やっぱり下手に領地を出るもんじゃねええ!」
ジーナは頭を抱えて天を仰ぎだす。
「だいたいあたしに辺境伯なんて不向きすぎんだよお! もっと真面目で口の堅い奴がやるべきだろ!」
なんと一人ツッコミの多い方だろう。
変わった方だと思いながらも、エレオノーラは今を逃すつもりはなかった。
やはりジーナはエレオノーラが知りたいことを知っている。
ならば詰め寄るだけのこと。
「ジーナ様、どうか教えてくださいっ! リベルトと……リベルトと当たり前に一緒にいられる方法はないのですか!?」
「はあ?」
「私は……リベルトを守りたい。だってリベルトは本で書かれているような野蛮な男では……」
「そんなの自分で考えなよ。それはあたしもわかんないし」
あっさりと切り捨てるジーナにエレオノーラは顔面が青くなった気がした。
希望が一瞬にして断たれたような感覚にうろたえていると、ジーナは怪訝にエレオノーラの顔を凝視する。
「当たり前って言うけど、姫さんの思う当たり前とあたしの当たり前は違うんだ」
エレオノーラの胸をツンと指でつつき、口角をあげて上目にとらえる。
急に敏感な部分を突かれてエレオノーラが身を引っ込めると、その慌てふためく姿をジーナは面白がって笑っていた。
「仮にあたしに好きな男がいても、自分の身は自分で守らせる。あたしも守られるのは性分にあわない。そりゃ、助けてって言われたら助けるけど。求められてないのに守る、守らないはどうでもいいからさ」
「リベルトは男の人だから……」
「それが問題でも? 男とか女とか関係なくない? さっきも言ったけど、その人の人間性だって。姫さんはそのリベルトが好きだから知りたいんじゃないの?」




