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魔女の国~蛾のお姫様は最下層の彼と溺れる恋をする~  作者: 泉花


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4.舞踏会と北の領主様(2)

答えられずにいるエレオノーラを追いつめるように、ロゼッタは饒舌(じょうぜつ)に語りだす。


それに頷きながら令嬢たちは笑いそうになるのをこらえ、口元を歪ませていた。


「男相手なら(てい)良くストレス発散出来るのでしょうねぇ。魔女には逆らえませんものぉ」


「あんな野蛮なもの、恐ろしいですわ。見るのも不快というもの」


「魔法を前に男は無力ですわぁ。……死なない程度に的になってもらうのでは?」


「リベルトはそんなんじゃないわ」



魔女ならば普通の発言だが、やけに腹立たしい。


エレオノーラは自分のことをバカにされるならばいくらでも耐えられた。


だがリベルトが男というだけでここまで酷く言われるのは聞いていられない。



「リベルト……とは、その男のことで?」


「えぇ、そうよ。リベルトは男だけど同じ人よ。魔女と同じように心があるの。くだらない理由でリベルトを侮辱しないでいただきたい」


こんなに悔しいのははじめてだ。


拳がワナワナと震え、目頭が熱くなる。


今まで家族に迷惑をかけたくないと揉め事は起こさないようにしてきたが、リベルトのことになると理性が効かない。


そうして挑発にまんまと乗ったエレオノーラに、ロゼッタはニタリと目を細めてエレオノーラに耳打ちをする。



「誤解なきよう。わたくしたちは魔女ですわぁ。女が独立して自由を得るために魔法を手にした高・等・種・族」


「そんなのは……!」


傲慢だ、と言いたくても反論できない。


ロゼッタが語るのは歴史が示す事実でしかなかったから。



「愛玩にするのはよろしいかと。かつての屈辱を晴らすのも楽しいことでしょうねぇ。溺れてしまうのならば、いささかエレナ様に問題があると思われますけどぉ」


この人とは分かり合えない。


直感がそう告げていた。


かつての屈辱とは、女が魔女になる以前のこと。


種の存続のために動くのは生きる者の本能。


だが人間は感情を持って生まれた。


愛情を求める生き物。


愛し、育む女性を傷つけたのは男性からだ。


まるでただの子を産むための道具として扱い、痛みを無視した結果である。




魔女の起源は怒り。


女であることを凌辱された恨みが魔女を作った。


全員が男性を嫌ったわけではない。


たまたまその時代の、その環境で、女が憎しみを抱くには十分な条件がそろっただけのこと。


今の魔女の国は、かつての苦しみが断片的に残り、魔女を至高とする考えが蔓延(はびこ)るだけだった。




「そこまで」


対立するこの場を治めようと現れたのは長女のルドヴィカだった。


ロゼッタたちはすぐさま頭を垂れ、一歩引いて黙り込む。


「変に勘繰るのはおやめなさい。こちらにも考えがあって行っていることよ」


「で、ですがぁ。いくらなんでも男を傍におくなんて……」


「フィアンマ公爵令嬢」


ルドヴィカの低い声はこの場にいる者を震わせるには十分すぎる威圧感を持っていた。


反論しようとしたロゼッタは青ざめて沈黙し、ルドヴィカは冷酷な目をしてそれを見下ろした。


「ここは魔女の国。魔女に逆らうものはいない。……違うかしら?」


「いっ、いえ。魔女こそ至高の存在! 王家は女神・ミネルバの意志を継ぐものですわ!」


「わかっているなら控えなさい。……間もなく女王陛下がいらっしゃる。わかるわね?」


それ以上、ルドヴィカに口答えする者はいない。


圧倒的支配者の顔をしてルドヴィカに睨まれたロゼッタたちは委縮し、そそくさとこの場から立ち去った。


野次馬となっていた令嬢たちも散り散りとなり、会場の片隅にはエレオノーラとルドヴィカが残された。


額を抑え、ため息を吐くとルドヴィカは眉をひそめてエレオノーラに目を向ける。


「エレナ。何を勘違いしているか知らないけど、魔女と男は同格じゃないの。ましてやあなたは王族。魔力がなくてもその自覚を持ちなさい」


「お姉様! 私はっ……!」


「やはり男なんて連れてきたのが間違いよ。エレナ、あなたは弱いのだから男なんて傍においてはいけなかったのよ」



ルドヴィカは黒いドレスを翻らせ、ヒール音を鳴らしながら去っていく。


その背中にエレオノーラは何も言い返せず、トゲだらけの心臓を掴むように胸に爪を立てた。



――どうして何も言い返せない?


あれだけリベルトを守りたいと思ったくせに、いざ魔女たちに罵られるといいように言われっぱなしだ。


もっとエレオノーラが自分に自信を持っていれば反論出来た?


魔力を持っていれば王族として堂々と立ち振る舞えた?



全部、叶わぬ空想論でしかない。


足りないものは知識で補おうとたくさん本を読んできた。


それでもエレオノーラは無知だ。


机上の世界しか知らないから、エレオノーラの言葉にならない。



(悔しい。悔しくてたまらないの。もっと……力があれば。外のことがわかればもっと!)


きっと、違う道がある。


魔女と男が憎しみ合うことなく、手を取り合えるはずだ。


エレオノーラはリベルトの手を取れた。男の人がどう生きているのか。


リベルトが何に苦しんできたのか。


――全部、知りたい。


知らなければリベルトを守っていく道は見つからない。


いつまでも無力ではいられないのに、脱し方がわからずにエレオノーラは天を仰ぐしか出来なかった。

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