4.舞踏会と北の領主様(1)
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心地よい温暖な気候。
色鮮やかなチューリップが咲く頃にあわせて王宮の門は開かれる。
この季節になると、満月の夜に王宮では舞踏会が開催されていた。
女は月の満ち欠けで身体を作る。
満月はもっとも女を輝かせる夜として定められ、淑女を現すものとされていた。
「エレナ様。ドレス、よくお似合いです」
「ありがとう、アリシア。そう言ってくれるのは家族かあなたくらいよ」
王族のみが着用を許される黒いドレスを着て、エレオノーラはなるべく息を潜める。
黒は魔女の国において選ばれた色。
その色を持たぬエレオノーラが着用することをよく思わない貴族は多かった。
まさに色に飾られた王女様だ。
天井には古い神が描かれており、会場を火の魔法で灯されたシャンデリアが会場を照らしている。
色とりどりのドレスを身にまとった魔女たちが、春に浮かれて競うように着飾っていた。
「今日は人数が多いね」
「エーレーナーッ!」
玉座の脇に姉たちと並び、会場一体を見渡していると、先に会場入りしていた次女のビビアナが駆けてくる。
「ビビアナお姉様。ドレス、とても似合ってますね」
「ありがとぉ。エレナも素敵。その黒真珠、前にアタシがあげたやつぅ?」
「はい。アリシアが素敵に仕立ててくれました」
「な~る。でももっとレースとかで盛ってもかわいいのに」
ビビアナはとにかく華美が好きだ。
飾り一つとってもレースやフリルをふんだんに使う。
黒のドレスを着せればビビアナほど華やかに盛り立てる者はいない。
エレオノーラはビビアナにもらった黒真珠を、ドレスのウエストに巻きつけて白百合のコサージュで留めている。
光沢のあるサテン生地に、シンプルなレース生地のヒールをあわせ、髪の毛は一つに結う。
黒のレースで白銀の髪をなるべく目立たないように飾っていた。
「おっ! あの子ははじめてみる顔だっ! か~わい~! 話してみよっと!」
ビビアナのセンサーが反応したようで、上機嫌に飛び跳ねるとササッと階段を降りて令嬢たちの輪に飛び込んでいく。
幼い頃はエレオノーラの両サイドを姉二人が固めていたが、今はそれぞれが自由に動いている。
いつまでも姉たちにおんぶに抱っことはいかなかったので、イキイキとする姉たちを眺めるのは喜ばしかった。
隅から会場を見渡せば、ビビアナが令嬢たちと喋って弾けているのがわかる。
遠くからみてもビビアナは華があり、楽しい空気が伝わってきた。
(ルドヴィカお姉様はまだいらっしゃってないのかしら? お母様も……)
「あら、エレナ様ぁ。いらしてたんですねぇ!」
不思議に思い考え込んでいるエレオノーラのもとに、複数人の魔女がワインを片手に近づいてくる。
「フィアンマ公爵令嬢……」
赤髪を二つに結い、ルビーといった宝飾で目を引くのは魔女の国で四大公爵の地位に就くフィアンマ家の令嬢・ロゼッタだ。
その周りを複数人の貴族令嬢が取り囲んでいた。
「ごきげんよう。そのルビーのネックレス、とてもお似合いでいらっしゃいますね」
「ありがとうございますぅ。エレナ様も、“黒真珠”が美しいことですわぁ」
貴族はみな、笑顔をはりつけることに慣れている。
明らかな挑発にエレオノーラは微笑みを返すしか出来ない。
「ロゼッタ様。エレナ様は魔力がございませんのよ。人前に出るのも一苦労なのですから」
「姉君たちが御立派ですものね。今日も見事に蝶々が舞って素晴らしいですわ。……エレナ姫は本当に恵まれていらっしゃる」
「えぇ、とても。母や姉たちには感謝してもしきれません。これからも精進してまいります」
令嬢たちが次々とエレオノーラに詰め寄り、話しかけてくる。
どれもエレオノーラの失態を期待して、言葉に含みを持たせて目を三日月型にしていた。
魔力がないのは魔女の国において無価値を意味する。
王族は選ばれし者。
美しき蝶の中に紛れた蛾がなぜ、のうのうと暮らしている。
そう揶揄されるのはもう慣れたはずなのに、今日はやけに胸が苦しくなった。
「そういえばぁ、最近妙なウワサを聞きましてよ」
「あら、ロゼッタ様。何をお聞きになったのです?」
ロゼッタが赤い羽根の扇で口元を隠しながら目を細め、エレオノーラを一瞥する。
「エレナ様が男を飼っている……とか」
「男!? それが本当のことでしたら由々しき事ですよ!?」
ロゼッタの発言に驚いた令嬢たちの声に、近くにいた魔女たちが不信の目を向けてくる。
聞いてはいけないことを耳にした、と真偽を確かめるように視線だけがエレオノーラに集中した。
(どうしよう……。なんて答えれば……)
「あぁ、でも王族という立場は我々には想像の出来ぬ大変さもあるのでしょう」




