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『最弱不遇職の詩人と歌姫』〜効率至上主義の世界で見捨てられた僕らが、世界の理を書き換えるまで〜    作者: muo


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第6話:グランロードと魔王



やがて、船上からもその姿が見えてきた。



オスマン帝国帝都



――「コンスタンティノープル」。



この世界層におけるメインエリアということもあり、



その作り込みと人口密度は圧巻の一言だった。



三方を海に囲まれ、



中心には幾重にも重なる巨大な要塞城壁。



この時代にはあり得ないほどの高層塔が天を突き、



それはまるで海に浮かぶ「摩天楼」のようだった。



「凄いな……外から見る分には、



現代技術は遮断されているのか」



「没入感を重視した調整ですね」



「ですが、街に入れば現代的な武器屋やマンション、



スーパーなども視界に認識されるはずです」



……やっぱりそうなのか。



残念の極みである。



僕はマチルダへ礼を伝え、船を降りて街へと足を踏み入れた。



バザール(市場)は喧騒に包まれ、



香辛料の心地よい匂いが漂っている。



世界中の商人が集まるこの場所には、宝石や装飾品が溢れ、



肉を挟んだナンのようなパンが威勢よく売り出されていた。



「攻略組じゃなかったから帝都には来なかったけど、今さら後悔したよ」



良い景色だ。素直にそう思った。



――だが、少し歩くといきなり「鼻を突く匂い」がした。



まただ。アテネと同じ。



……こってりとした、豚骨ラーメンの匂いだ。



苦い顔をする僕に、クックが淡々と答える。



「ユーザーの食事ランキングで圧倒的1位が豚骨ラーメンだったため、



各地に店舗が自動配置されています」



……違和感MAXだが、美味いのがまた腹が立つ。



「もしかしてクック、食べたいのか? 僕に気を遣わなくていいんだぞ」



「興味はありますが、私はタナカのプレイスタイルを尊重します」



素直に言われると、逆に申し訳なくなるじゃないか。



「……僕もジャンキーな味が恋しいし、



この世界を受け入れるためにも一度行ってみようか。



良い情報が得られたら、後で一緒に行こう」



パッと目を輝かせて頷く元AIの相棒。



彼女の反応に苦笑しながら、



(自分も少しは柔軟に変わらなきゃな)



なんて、柄にもなく思ったんだ。



「タナカ、あちらがギルド本部のようです」



クックが指差したのは、



現代建築の結晶ともいえる巨大なツインタワーだった。



この世界観における違和感の象徴だが、



その美しさは否定できない。



「行こう。勇者の情報だけは掴んでおかないと」



「了解。妹モード、準備万端です」



曇りガラスの自動ドアの前に立つと、音もなく扉が開いた。



中はまるで、日本の図書館のような静謐な空間。



そこには、見慣れた受付制服を纏った女性が立っていた。



「ようこそ。ギルド本部受付のサカモトです」



その懐かしい佇まいに、



僕は思わず郷愁を覚え、問いかけてしまう。



「すみません。ここは何年で、一体どこなんですか?」



「?」



サカモトは怪訝そうに首を傾げた。



「おっしゃる意味が分かりかねますが……」



「ここは西暦1545年、コンスタンティノープルです。体調でも優れないのですか?」



……やっぱり、ダメか。



分かっていたことだけど。



「お姉さん、ごめんなさい。お兄ちゃん、船酔いしちゃったみたい」



クックがすかさずフォローを入れる。



「……これ、アテネのギルドマスターから預かってきたの」



クックが紹介状を差し出すと、



サカモトは驚いたように目を見開いた。



「タナカ様とクック様ですね。伺っております」



彼女はデバイスでどこかへ連絡を入れると、僕らを上層階へと導いた。



「どこへ行くんですか?」



「『グランロード(総帥)』の元へご案内せよとの指示です」



グランロード。各地域のギルドマスターを束ねる頂点だ。



「えっ、僕ら何か悪いことしました……?」



「ガイ・ギルドマスターより、『勇者に匹敵する功績を成し遂げた偉人である。



直々にグランロードへ引き合わせるように』と拝受しております」



ガイさん……後で書く詩の中に、たっぷり悪口を混ぜてやる。



「お兄ちゃん、褒めてもらえるなら行こうよ! 楽しいお話が聞けるかも!」



無邪気に笑うクックの後を追い、



サカモトは疑念を抱きながらも、重厚な扉の前で立ち止まった。



「グランロード、サカモトです。ガイ様のお客様をお連れしました」



ノックもせずに入った、その部屋。



「よく来たね。私はグランロードのクロウだ」



「聞いてるよ、〈吟遊詩人〉と〈歌姫〉。世界の理(ことわり)を変える者たち」



その言葉に身構えたが、それ以上に驚愕が勝った。



そこに立っていたのは、



十歳にも満たない――「少年」だったからだ。



黒い髪に、あどけない丸い瞳。



小学生くらいにしか見えない彼は、



僕らの反応を察して微笑んだ。



「あぁ、びっくりするよね。だけど仕方ないんだ」



「この見た目の**〈設定〉**にされてるもんだから」



衝撃が走る。



今、なんて言った……?



クックも「妹」の皮の下で、警戒の色を強めていた。



「……タナカです」



「この世界は一体何なんだ。あなたは、何者なんですか?」



緊張を隠さず、僕は核心を問うた。



「残念ながら、その答えは私にも分からない」



「ただ、自分には役割があり、勇者ではなく『君たち』を待っていた」



「……それしか分からないんだ」



この世界の住人なのか。



それとも、ゲームシステムそのものなのか。



「クロウちゃんは、〈いつから〉ここにいるの?」



クックが幼い声を装って質問する。



「不思議だね。ずっとここにいた気もするし、君たちが来てから生まれた気もする」



「けれど……分からないんだ」



……少し、理解した。



きっと彼も、この世界の理からズレた異質な存在なのだ。



「その答えを聞けただけで、光が見えた気がします」



「……色々と、聞かせてください」



クロウは思考を断ち切り、優しく笑った。



「何でも聞いておくれ」



「私の存在理由は、君たちがいないと成立しないはずだから」



彼は隣に控える女性へ、静かに視線を向けた。



「サカモト、席を外してくれ」



怪訝そうな顔で部屋を出るサカモトを、



静寂の中で見送った後。



少年――クロウは言った。



「さあ、何が聞きたい?」



その瞳が、僕の心の奥を覗き込むように細められる。



「勇者のことかな?」



「それとも――」



「『魔王』についてかな」



――直感した。



ここから、始まるのだ。



逃れることのできない、超難易度のミッションが。



世界を書き換える僕らを、



「運命」が口を開けて待っていた。

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