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『最弱不遇職の詩人と歌姫』〜効率至上主義の世界で見捨てられた僕らが、世界の理を書き換えるまで〜    作者: muo


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第19話:亡国の王女の物語



カインたちと別れを告げて、一度宿に戻る。



もうすっかり、夜だ。



その道中。



「クック……魔王の件もだけど、メフリマス皇女どう思う?」



横を歩く相棒に聞いてみる。



「ん〜、きっとシーマさんの方が分かってるんじゃないかなぁー」



クックはいつも通りの妹モードで答える。



「私……か!? しかし、私も確信はない……」



シーマは狼狽えながらも、



やっぱりずっと何かを感じ取っているみたいだ。



「メフリマス皇女とは何かあるの?」



あの宮殿で会った時から、明らかに様子はおかしいのだ。



「……メフリマス様とは昔会ったことがある」



衝撃だ……けれど、お互いに姫同士だし、そういうこともあるか。



それにあの時に「『今の』……良い名前ね……」と言われた、と。



「バレてるのかな?……シーマのこと」



僕は仮面をつけたシーマを見ながら呟く。



「過去に……会ったのは一度、しかも私が10歳ほどの頃だ。



しかし、メフリマス皇女は……何か……違った……ような」



あの頃の辛いであろう記憶を思い出しながら、シーマは語る。



その時、クックが突然立ち止まり、



「まずはここで大事なお仕事をしてからだねっ」



と、ある店を指差した。僕らはそれを見る。



『ケバブとバクラヴァ』と書かれた看板。



――なんとも安直な料理名のお店だった。



「風情はないけど、まさに効率思考を象徴しているね……」



僕はそのまま、店のドアを開けていくクックについていく。



苦笑いしているシーマを連れて。



そこは、男臭い炭火の匂いと羊脂の煙に包まれているお店だった。



低い木椅子のソファに腰掛ける。



クックは笑顔でメニューを見ながら、続きの話を話しだした。



「シーマさんの正体がバレていることのリスクと、



今後の対応についてだねっ」



「そうだね。亡国の姫なんて、利用されかねない」



その言葉に、シーマは一気に血の気が引く。



「……迷惑ばかりかけてすまない」



シーマは俯きながら答える。



「いや、もうちょうど良いかもしれないよ〜」



クックは笑顔で、何事もないように言う。



「どういうこと?」



僕とシーマが、はてなを浮かべながら同時に聞き返す。



「いわゆる第六感が的中したんだよ! お兄ちゃん、シーマさんっ」



「わー! おいしそー」

ちょうど料理が運ばれてきて、



クックの意識は完全にそっちに向いちゃっている。



「うちのシゴデキ妹が余裕そうだから、大丈夫なのかな?」



「うん……二人を信じてはいるが……」



シーマと顔を見合わせる。うーん、不安だ。



「おいしいー!」



クックだけが何か予感を確信に変えていた。



とりあえず僕たちもご飯を食べた。



味はあまり覚えていない。


 

(シーマ視点)



私は、前を歩いている二人を見た。



一緒にいて、やっと気付けてきたことがある。



あの二人は、見た目からして「異常」なのだ。



兄(タナカ)は一見普通だが、



その普通過ぎるところが逆におかしい。



優しく、知性を感じさせる普通の見た目。



あまりにも普通すぎる。



妹(クック)は、私から見ても整い過ぎており、



まるで作られたもののようだ。



二人とも害がなさ過ぎるのが、



逆に異物感を醸し出している。



この二人が異世界から来たというのは、もう間違いなかった。



分かってはいたが、異常過ぎた。



私は宮殿のメフリマス皇女の前でも、



ダンジョンでも、ただただ狼狽えていた。



この世界において、世界を救う勇者、



超大国の皇帝や皇女、それを相手にあんなに堂々と、



対等に渡り合える人物などそうそういない。



かつて王女として教育を受けた私にすら、



到底不可能なことなのだ。



だから、異なる世界の住人であり、



計り知れない異常な力を隠し持っている二人に、



最初は本能的な恐怖を感じていた。



ただ――それ以上に、



二人からは温かい「愛」を感じたのだ。



その絶対的なチート能力とは裏腹に、



二人は「人の痛み」を誰よりも理解してくれる。



都合のいい同情ではない。



本気で同じような痛みを感じ、



私を一人にせず、寄り添い、共感してくれた。


 

きっと……



あの二人も、元の世界で数え切れないほどの絶望や、



色々なことがあったのだろう。私はそう確信した。



私なら、もしその力を得たら、



復讐心に駆られて全てを無にしているかもしれないのに……。



仮面に手を当てる。



その指は少し震えていた。



そんな事を考えていたら、心配そうに声がかけられる。



「大丈夫……?」



タナカだ。



「大丈夫だ。ありがとう」



私はそう答えた。



すると、妹(クック)が、



「大丈夫だよ〜! 何かあったら全て滅ぼすだけだよ」



笑顔で答えているが、どうも冗談には聞こえそうにない。



私は思わず笑ってしまった。



この二人が……本当に大好きなのだ。



その夜。私は日課の訓練を行う。



冒険者に拾ってもらったあの日から、



欠かさず行っている訓練だ。



「あんまり遠くはいかないでね」



出発する前、



タナカは過保護な親のようにそんなことを言ってきた。



私はもう守られるだけの王女でもないし、庇護される子供でもない。



けれど、



この二人にそうやって当たり前のように心配されるのは、



決して悪い気はしなかった。



だから、いつものようにぶっきらぼうに返すのだ。



「私も冒険者だ。心配はいらない」



口角は少し上がり、



声はほんの少し、嬉しさで揺れていた。



「はぁ!」と声を出して、



勇者パーティとのダンジョンで獲得した短剣を振るう。



月夜の中、刃が薄く蒼白い光を放った。



「あの時の剣と比べると……けれど、良い剣だ」



クックのあの規格外の力を、



再度思い知る。



「この剣で……いつかリリスを……」



そう言葉に出して、



何回も、何百回も剣を振るう。



息遣いは音を上げる。



けれど、気持ちは静かに冷え切っていく。



その時。



不意に、背後でパチッと空気が爆ぜるような音がした。



「――!」



常に警戒はしていた。



しかし、突如として『それ』は私の目の前に現れたのだ。



まるで見えない結界に囚われ、



周囲の時の流れが完全に止まってしまったかのように、



唐突に、前触れもなく。



「何者だ……っ」



私は瞬時に身体を翻し、短剣を構えて闇の奥を睨みつける。



だが、返事はない。



「生きていたのね」



声だけが聞こえてきた。



聞き覚えがある声だ。



熟しきった果実を限界まで握りつぶしたかのような、



あまりにも甘く、残酷な声。



まさか──お前が、なぜここに。



「大人しくしていればよかったのに」



その言葉で相手の意図を察し、



私はすぐに宿の方へ向かって叫んだ。



「タナカ! クック! リリスがっ……!!」



届いてくれ、そう願いながら叫んだ。



しかし次の瞬間、



胸の奥を強烈な衝撃が貫き、



私の意識は急速に引き剥がされ、深い暗闇へと沈んでいく。



力が抜け、短剣が手から滑り落ちた。



「……勇者如きでは、魔王も私も倒せないわ。



でも安心して? 魔王は私が倒して、世界はまるごと私がもらうわ」



――その笑い声は、私の意識が消えた後も、静かな夜の闇に残っていた。

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